動画サービス新段階へ-P2Pを利用したJoostとBitTorrent



 YouTubeで火がついたオンライン動画に新しい動きが出てきた。インターネットTV企業「Joost」がベールを脱いだ。Skype Technologies(現eBay傘下)の創業者、Niklas ZennstromとJanus Friisの両氏が手がける新しいオンライン動画サービスだ。また、ファイル交換のBitTorrentも新サービスを開始した。いずれもP2P技術を活用して、著作権保護をアピールしている。


 Zennstrom氏らが新しいサービスを開発していることは、以前から「The Venice Project」として知られていた。両氏は1月16日、サービス名および社名の「Joost」を発表、P2P技術を利用したオンラインTVサービスの開始に向けて準備を進めていることを明らかにした。まずはクローズドベータとしてサービスをスタートし、年内にも本サービスを開始する予定だ。

 Joostは、インターネットとPCを利用してTV番組を閲覧するサービスだ。両氏が得意とするP2P(KazaaもSkypeもP2Pをベースとする)を利用し、「テレビとインターネットの長所を組み合わせ、テレビのようでありながら、選択肢、コントロール、Web 2.0の柔軟性を備えたユニークなエクスペリエンスを提供する」(ニュースリリース)と説明している。

 まだクローズドベータ段階で詳細は分かってはいないが、最大の特徴は、DVD並みの高画質、そして著作権保護だろう。

 コンテンツは著作権の確かなものだけに限定し、ストリーミング配信を行う。YouTubeでは著作権侵害コンテンツが問題となっているが、Joostは最初からこの点に対応することでコンテンツプロバイダーを味方につけているのである。

 実際、エンターテイメント大手の米Viacomが2月20日、MTV Networksなど3ブランドの番組をJoostに提供すると発表した。Viacomは、YouTubeに対しては2月初め、著作権侵害として約10万本の動画の削除を求めている。

 また、このほかのJoostの特徴として、独自のインターフェイス技術による番組リストの作成、早送り・巻き戻し機能などがある。さらにユーザー参加型の番組のレーティング(評価)、インスタントメッセージングなどのコミュニティ機能も提供する。


 では、JoostはYouTubeキラーなのか? どうやらそうではないようだ。このことは、配信するコンテンツとビジネスモデルの2つの面からいえる。

 コンテンツでは、著作権への明確なスタンスとViacomとの提携が示すように、Joostはプロが作成した著作権のあるコンテンツを配信する。YouTubeが主としてアマチュアが作成したコンテンツを集めているのとは一線を画する。その点で、Joostはテレビに近い。Viacomのほかにも、JumpTV、i-concertsなどと次々に提携しており、さらに多くのコンテンツプロバイダーを獲得するだろう。

 ビジネスモデルは、YouTubeのそれがまだ明確ではないのに対し、Joostは最初から広告収益としている。Joostでは、番組開始時に5~7秒のポップアップ広告が表示されるほか、番組の長さに応じて間に広告が入るという。同社は広告パートナーとしてT-Mobile、Maybelline、Phillipsなどの企業と提携している。

 こうしてみていくと、JoostはどちらかというとケーブルTVやIPTVなどのTV配信事業者にとっての脅威となる可能性が高そうだ。Zennstrom氏は米CNBCのインタビューで、「インターネット世代の若者の間でTVのニーズは高い」と分析、「好きな時間に見ることができるし、Web 2.0やソーシャルネットワークの要素を取り入れることでコメントなどのコミュニティ機能も提供できる」とJoostの強みを語っている。JoostのWebサイトには“Goodbye, television. Hello, Joost”とある。


 そのJoostがクローズドベータを開始してから約1カ月後の2月26日、今度はBitTorrentが「BitTorrent Entertainment Network」という新サービスを発表した。Warner Bros. Entertainment Groupなど34社と提携し、映画やTV番組をダウンロード販売する。著作権保護のためDRM(デジタル著作権管理)を採用し、“不正コピー交換ソフトウェア”というこれまでのイメージからの脱却を図る。

 JoostとBitTorrentのサービスは、オンライン動画サービスという切り口からも、TVという切り口からも見ることができ、IPを軸にメディアとインターネットの融合が進んできたことを象徴するものといえる。そこで共通して使われている技術がP2Pという点は非常に興味深い。

 これまで、90年代後半のNapsterやKazaaなど、不正ダウンロード技術の代名詞のように扱われてきたP2Pだが、著作権問題に対応した2つの新サービスにより、映画などの大容量ファイルを配信するのに効率がよいという技術優位性を示すことができるのか、注目していきたい。

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(岡田陽子=Infostand)
2007/3/5 09:04