OfficeのPDFサポート機能削除へ-Microsoft vs Adobe
米Microsoftの次期Office「Office 2007」に予定されているPDF保存機能を巡り、Microsoftと米Adobe Systemsが決裂した。Adobe側は訴訟も辞さない構えのようで、両社が全面対決する可能性もある。一見すると突然とも見えるAdobeの方針転換を探った。
ライバルであり、パートナーでもあるMicrosoftとAdobeの間で、Office 2007を巡る不協和音が生じていることは、Microsoftの顧問弁護士、Brad Smith氏が明らかにし、6月2日付けの米the Wall Street Journal紙が最初に報じた。それによると、Office 2007で予定されているPDF保存機能の統合について、Adobeはこれを削除することを要求、アドオンとして有料で提供するよう求めているという。
Microsoftの開発者らはブログで、1)Office 2007の「PDF形式で保存」機能を削除し、別途ダウンロード提供する、2)次期OSの「Windows Vista」について、メーカーにXPS(XML Paper Specification)機能を削除したオプションを提供する―の2点の計画変更を明らかにしている。リリース済みのOffice 2007のベータ版でもPDF保存機能を削除するが、Adobeの要求通りアドオン機能を有料とするかどうかについては、まだ決断しかねているようだ。
MicrosoftがOffice 2007でPDFをネイティブでサポートすると発表したのは、2005年10月だった。WordやExcelなどのOfficeアプリケーションで作成したファイルをPDF形式で保存できるようにするもので、当初Microsoftは「顧客のニーズが大きい」としていた。
だが、Adobeはその後、この計画のもたらす結果に疑いを抱いた模様で、今年2月にはAdobeのCEO、Bruce Chizen氏がMicrosoftのCEO、Steve Ballmer氏に懸念の意を記した書簡を送ったという。だが結局、2社は妥協点を見出せなかったようだ。
いったんは統合に合意したAdobeが方針を変更したのはなぜか?
MicrosoftはOS、Officeの両分野でともに独占的な立場にある。AdobeはPDFで、作成ソフト「Adobe Acrobat」を有償にすることで収益を得ながら、閲覧ソフト「Adobe Reader」を無償で提供し、PDFをユニバーサルにするという戦略をとってきた。MicrosoftがPDFをネイティブでサポートすることは、PDFを普及させたいAdobeにはメリットとなるが、作成ソフト事業は先細りとなる可能性がある。MicrosoftはOffice 2007/Windows VistaでPDFの対抗技術となるXPSを導入する計画で、このXPSが普及すれば、PDF作成ソフトの市場の将来はさらに危うくなりかねない。
MicrosoftのOfficeプログラムマネージャ、Brian Jones氏は6月2日付のブログで、PDFネイティブサポート機能を提供できなくなったことを残念だとしながらも、「PDFはオープンな標準と見られており、市販されている他社製オフィススイートはPDF出力をサポートしている」と記している。
だが、AdobeのChizen CEOは以前から、自分たちは完全にオープンではないことを公の場で明らかにしてきた。2004年4月の米CNET News.comのインタビューで、同氏は、「PostScriptとPDFでは、仕様を公開する(これは、仕様をオープンにすることであって、オープンな標準ではなく、オープンソースに提供することでもない)ことこそ、われわれのとるべき正しい道だ」と語っている。なお、同氏はインタビューの中で、「ライバルはMicrosoft」とも明言している。
Jones氏の指摘通り、PDFネイティブサポートは、オープンソースの「OpenOffice」、米Sun Microsystemsの「StarOffice」、カナダCorelの「Word Perfect」などが実現している。このような統合はユーザーにメリットをもたらすことは間違いないが、Microsoftのシェアは90%ともいわれている。Microsoftが同じことをすると独占禁止法違反となるというのは、Webブラウザ、メディアプレーヤーなどで経験済みだ。これ以上訴訟を増やしたくないMicrosoftは今回、衝突を避け、機能削除を決めたということだろう。
実際、Brian氏のブログエントリに対し、「(MicrosoftによるPDF保存機能の削除は)PDF関連の小規模ISVにとってはよい知らせだ」とするコメントが読者から寄せられている。
MicrosoftのWindows部門のプロダクトマネージャ、Andy Simonds氏はブログで、Microsoftは競合他社の不満に耳を傾けているが、「製品は競合他社のために開発するのではなく、顧客のために開発しなければならない」と記している。その通りではあるのだが、それを90%のシェアを持つMicrosoftがやると訴訟問題になる―。皮肉な現実というべきか、独占企業の宿命というべきか。