ネット広告を脅かすクリック詐欺
Click Defenseというオンラインマーケティングツール会社が6月24日(米国時間)、検索エンジン大手のGoogleを訴えた。「クリック詐欺」(click fraud)のリスクについて顧客に十分な説明をせず、損害を与えたと主張している。クリック詐欺は、クリックされた数に応じて広告料が発生するPPC(Pay Per Click)広告の仕組みにつけ込んだもので、最近、急速に問題化している。
訴えによると、クリック数に合わせて広告主が料金を支払うGoogleの広告プログラム「AdWords」で、クリック詐欺による過剰な広告料金が発生し、広告主に損害を与えているという。クリック詐欺とは、何者かがPPC広告を意図をもってクリックし、多くのアクセスがあったように見せかけるものだ。米国の現行法では、「詐欺」として認められてはいないが、オンラインマーケティング業界では、すでに言葉として定着している。
Click Defenseは、Googleが監視を怠ったため、広告主が効果に見合わない不当な料金支払いを強いられたと主張しており、被害額は少なくとも500万ドル以上になるとしている。さらに、被害者を募ってクラスアクション(集団訴訟)にまで持ち込みたい考えだ。
Googleがクリック詐欺にからんで訴えられるのは、これが初めてではない。今年2月、ギフト用品販売のLane's Gifts & Collectiblesが代表となって、主要検索サービス各社を同様の内容で訴えている。訴えられたのはGoogleのほか、Yahoo!、Lycos、AskJeeves、LookSmart、America Onlineなどで、こちらもクラスアクションに持っていくため、「LostClicks.com」というサイトを開設して活動している。こうした訴訟は、さらに増える可能性がある。
PPC広告は、インターネットの双方向機能を生かした優れた方式だといえるが、クリック詐欺は、これを脅かす存在となっている。
クリック詐欺は、主に2種類の目的をもって行われる。一つは、ライバル会社の広告費をつり上げてダメージを与えることを狙うもの。もうひとつは、AdSenseなどのようなアフィリエートプログラムでクリック数を水増しして小遣い稼ぎにするものだ。手段としては、人手を集めて広告を集中的にクリックする方法と、ソフトウェアなどで自動クリックする方法がある。
ニュースによく登場するようになったのは、昨年3月のGoogle恐喝事件からだろう。広告を自動クリックするプログラムをスパム業者にばらまくとして、Googleから10万ドルを脅し取ろうとした男が恐喝の疑いで逮捕された。この男が実際に、プログラムを作ったかどうかは定かでないが、そうしたクリックプログラムは実在するようで、「hitbots」と呼ばれている。
また、手動によるクリックでは、アルバイトなどによる人海戦術などが使われている。インドの英字紙「THE TIMES OF INDIA」は今年5月、Webの広告をクリックする闇商売をレポートしている。主婦、学生、会社員らがパソコンの前で、ひたすら広告をクリックして報酬を得るというもので、1クリックあたり18セントから25セントが支払われ、月に100ドルから200ドルのアルバイト収入になるのだという。
もちろん、検索サービス会社もクリック詐欺の被害者だ。Googleは昨年11月、Auctions Expert InternationalというWebサイト運営会社を相手取って損害賠償訴訟を起こしている。訴えによると、同社は広告をクリックするために50人を雇って、5万ドルの広告売り上げを不当に得たという。Google側は、報酬の返還のほか、損害賠償と裁判所の罰金命令を求めている。
Googleは、新規株式公開にあたって昨年SEC(米証券取引委員会)に提出した書類でクリック詐欺に言及していた。同社は不正なクリックで支払われた広告料については払い戻しているとしたうえで、こうした支払いは「今後も避けられないとみられ、こうした詐欺行為を阻止できなければ、その額はどんどん増え続けることなる」とリスク要因にあげている。
ただ同社は、実際にどれくらいの規模のクリック詐欺があって、いくらの払い戻しを行ったのかは公表していない。一方で、クリック詐欺対策を専門とする企業も現れ、検索サービス会社や広告主にさかんに売り込みをかけている。今回Googleを訴えたClick Defenseもそのひとつだ。こうした専門企業によると、不正な水増しクリックはPPC広告の20%程度だとみられるという。
検索エンジン各社が参加する業界団体SEMPO(Search Engine Marketing Professional Organization)が昨年末、広告主を対象に行った調査によると、クリック詐欺について追跡調査を行い、「重要な問題」と結論したのが6%、「中程度な問題」が19%だったという。また、追跡調査を行ってはいないが「心配している」としたのが45%にのぼった。つまり、大半のクライアントが懸念以上のものを持っているということになる。
今後、検索サービス企業は、なんらかの目に見える対策を迫られることになりそうだ。