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クラウドを制するものがネットを制する クラウド大手値下げ競争

GoogleとAWS、それぞれのビジネスモデル

 IaaSなどのパブリッククラウド市場は、つい数年前まで一部の先進的な開発者が利用するニッチ分野で、AWSの独壇場だった。同社は2006年に市場を創出。EC2、S3、「Amazon SimpleDB」などクラウド経由で提供するサービスを拡充してきた。現在複数のカテゴリから計30種類以上のクラウドサービスを持っている。

 この市場の流れを変えようと、主に価格で攻勢をかけているのがGoogleだ。実はGoogleは、2008年にクラウドサービスを発表したものの、しばらく動きがなかった。だが、市場がニッチからメインストリームになるのを目の当たりにした2013年末、一般提供に踏み切る。今年3月の値下げの後には、ソフトウェア定義ネットワーク(SDN)となる「Andromeda」を追加。4月にはアジア太平洋地域への本格参入を発表。アジア地区にデータセンターを設置し、日本語を含む言語対応も進めた。

 ZDNetは、このところのGoogleの動きを列挙しながら、「企業向けクラウドにやっと本気になった」と評する。特に、長期利用割引については「顧客は将来のクラウド利用を予想したり、見通しを立てることなく、バリューの還元を受けられる」というアナリストの見解を引用しながら、「Googleはエンタープライズ分野で検討に値する(ベンダーとなった)。AWSが高いシェアを占める状態は引き続き続くだろうが、Googleは(クラウドの)プレーヤーになれるだろう」と太鼓判を押す。

 それでも、実績という点ではAWSに大きく水をあけられている。Googleの大手クラウド顧客はSnapchatぐらいで、ネット企業の多くはAWSのユーザーだ。「実際のところ、われわれがインターネットで閲覧するWebサイトの3分の1がAWSを利用している」とQuartzは言う。AWSが提供するクラウドの量は、2位以下14位までのクラウドを合わせた総計よりも大きいというから独占状態といえる。

 この状況は、Googleでさえもすぐ変えられそうにないと多くはみる。AWS対Googleを分析したQuartzとNew York Magazineの見方をまとめると、AWSの強みは先行の利とAPI、それにビジネスモデルにあるといえる。クラウドの先駆けとなったAWSは、企業がクラウドと接続するためのAPIを作り、その仕様を開発者に浸透させることに成功した。AWSのAPI互換のプライベートクラウドサービスを提供するEucalyptusのCEO、Marten Mickos氏は「AWSは現代のWindows」と言う。

 AWSに対抗を試みるのがオープンソースの「OpenStack」で、同プロジェクトはクラウドのLinuxを目指しているが、これまでのところ、その足取りはゆっくりだ。さらにはNetflixなど早期ユーザーがAWSと連携させるためのコードを多数公開しており、大規模な開発者コミュニティができている。Quartzは、クラウド分野の求人ではAWSのEC2がOpenStackを大きく引き離して高い需要があるとのIndeed.comの求人サービスのデータを紹介する。

 AWSのビジネスモデルは、親会社のAmazonと関係する。インターネットを経由してありとあらゆるものを販売することを目指すAmazonにとって、処理能力やストレージもその1つだ。つまり、「クラウドであってもあくまで小売りである」というのがAWSのスタンスといえる。さらにAmazonは「Kindle Fire」でも実行しているように、短期的な損失を出すことをいとわない。「値下げは慣れている」とAWSトップのAndy Jassy氏はNew York Magazineにコメントしている。AWSで最高データサイエンティストを務めるMatt Wood氏は「クラウドコンピューティングは薄利多売のビジネスだという点で、Amazon.comと一致している」と語っている。

 小売りというAWSの生い立ちは、広告が入る代わりに無料で提供するという広告モデルを得意とするGoogleとは一線を画す。New York Magazineは「AmazonかGoogleかを選べと言われれば、Amazonが独占しているクラウドの方が好ましい」と言う。その理由は、Googleの広告ビジネスモデルにあり、「NSAからデータセンターを守れなかった企業に、大企業が機密情報を預けたいと思うだろうか?」と皮肉る。

(岡田陽子=Infostand)