特別企画
大問題になる前にトラブルの芽を摘む――、レッドハットの知見が詰まった自動システム診断ツール「Red Hat Insights」
(2015/12/25 06:00)
Red Hatは、システムの問題を事前に検知するオンラインのシステム診断ツール「Red Hat Insights」を、2015年6月に米国で発表した(日本では11月)。発表直後から評価版として提供していたが、11月19日のRed Hat Enterprise Linux(RHEL) 7.2のリリースにともない、正式に提供を開始している。
このRed Hat Insightsと、Red Hatのサブスクリプションモデルやハイブリッドクラウド戦略について、同社カスタマーエクスペリエンス&エンゲージメント部門副社長のマルコ・ビル=ピーター(Macro Bill-Peter)氏に話を聞いた。
サブスクリプションモデルが柔軟に対応
ビル=ピーター氏は、Red Hatの現在のビジネスを「ハイブリッドクラウド」と「サブスクリプション」から説明した。
今日のITシステムにおいては、分散、オープンコラボレーション、モジュラー型、ユーザー主体、そしてオープンソースという特徴を持つ「オープンイノベーション」が世の中を動かしている。GoogleやFacebookのようなWeb系企業はもちろんのこと、自動車のBMWやスーパーのWal-Mart、スペインの銀行といった従来型企業もオープンイノベーションを取り入れていると、ビル=ピーター氏は語る。
ただし、そのような新しいインフラを取り入れるには、技術だけの問題ではなく、企業のマインドセットや文化、社内プロセスの変化も必要となる。「すべての企業が、クラシックなITから、クラウドなどの新しいITに移行できるわけではない」とビル=ピーター氏。
そこでRed Hatは、物理マシンと仮想マシン、オンプレミスとパブリッククラウドのように、新旧のシステムの両方を管理する「オープンハイブリッドクラウド」を提唱し、戦略の軸に置いている。
これを実現するために重要性を増してくるのが、Red Hatのビジネスモデルであるサブスクリプション(定期購読)方式のライセンス形態だ。同社では、ソフトウェアやサポートに直接課金するのではなく、製品やその量に応じたサブスクリプション方式で課金し、その中で製品やアップデート、サポート、ナレッジなどを提供するビジネスモデルを採っている。
Red Hatの製品はオープンソースソフトウェアが基本であるため、同社では以前からサブスクリプションモデルでビジネスをしている。これがパブリッククラウドやプライベートクラウドのように、柔軟性が必要で、“モノ”より“サービス”が重要なプラットフォームにおいては、より有効なビジネスモデルになってきているという。
「いまではIBMやOracleもサブスクリプションモデルを採用するようになってきている」(ビル=ピーター氏)。
またRed Hatでは、「Customer Experience and Engagement」という組織を設け、従来型の顧客サポートはもちろんのこと、セキュリティ、製品ドキュメントを含むナレッジ、製品認定、グローバリゼーション(国際化、ローカリゼーション)、カスタマーポータルの開発・運用などを複合的に行っている。ここに集まってくるさまざまなノウハウを活用することで、サブスクリプションモデルの価値を最大化しているのだ。
企業のシステム構成をRed Hatのナレッジベースと自動的に照合
今回正式に提供が開始されたRed Hat Insightsも、こうしたサブスクリプションモデルを生かしたサービスだといえる。
Red Hat Insightsのもとになっているのは、Red Hatが長年蓄積してきているナレッジベースの膨大な情報だ。利用企業のシステムを自動的にこのナレッジベースと照合することで、事前に問題を検出して防止する。「当社がこれまでに解決した100万件の事例、3万のソリューション、世界で700人のエンジニアの知見を提供する。他社には真似できない量だ」とビル=ピーター氏は説明する。
Red Hat Insightsでは、対象となるサーバーにクライアントソフトをインストールしておく。このクライアントソフトが、構成情報などのシステムの情報を、インターネット経由でRed Hatの「Insights Rule Engine」に定期的に送る。Insights Rule Engineは、送られた情報をもとに、問題がないかどうかを分析。ユーザーは、診断結果をRed HatのWebサイト上で確認できる。
また、社内のRed Hatサーバー群のソフトウェアを管理するRed Hat Satelliteを導入している場合には、同製品がプロキシとなり、各サーバーのクライアントソフトから送信される情報をまとめてInsights Rule Engineに送る。診断結果も、社内のRed Hat Satellite上で確認可能だ。
同種のシステム診断ツールとの違いとして、ビル=ピーター氏は「問題を知らせるだけではなく、問題を手当てするためにどうすればいいかについて、明確に、そのシステムごとの手順を提案する」ことを一番に挙げた。
「この2~3年、問い合わせ履歴を含むナレッジベースの膨大なデータを活用する方法について、博士号を持つデータサイエンティストたちと考えてきたが、これらをルール化して、ユーザーの環境に適用することにした」(ビル=ピーター氏)。
なお、情報の送信はほぼ1日1回(設定変更可能)で、内容はHTTPSで暗号化される。データ量は、構成情報など最小限のものだという。どのような情報を収集しているかはファイルに記述されており、ユーザー側で確認できるほか、送信したくない情報はブラックリストで指定してブロックできるとのこと。
Red Hat Insightsは現在、RHEL 6/7向けの「Red Hat Insights for RHEL」と、OpenStackベースのIaaS基盤であるRed Hat Cloud Infrastructure(RHCI)向けの「Red Hat Insights for Cloud」の2製品がある。
いまのところ、10システムまで利用できる無償版が用意されており、2016年3月に、RHELやRHCIのアドオンとして商用版が提供される予定。ビル=ピーター氏によると、今後はGlusterベースのSDS製品である「Red Hat Storage」など、ほかの製品などにも対応していくという。
特殊な問題もルール化して世界で共有
Red Hat Insights活用のわかりやすい例として、HartbleedやShellShockなどの新しい脆弱性が発見されるケースがある。このときRed Hatでは、これらの脆弱性に対策したソフトウェアパッケージを用意し、ユーザー企業が対応できるように対象となるバージョンの情報などを公開している。
Red Hat Insightsは、こうしたチェックをルールベースで自動化し、確実に対応するためのものだといえる。なお、ルールは可用性、安定性、パフォーマンス、セキュリティの4分野で用意される。
「とあるパートナー企業が、顧客企業のシステム構成について、特殊な問題を発見しました。実は、少し前にほかの企業で同じ問題が発見され、Red Hatで修正した後だったのです。このようなケースでは、先に発見されたときにRed Hat Insightsのルールが作られていれば、ほかの企業で同じような問題が起きる前に警告することができます」(ビル=ピーター氏)。
適用分野としてはまず、ミッションクリティカルな基幹システムがある。こうしたシステムでは、一度構築したシステムをできるだけ変更せず安定した(構成やバージョンが枯れた)状態で動かし続けることが求められる。そのため、ソフトウェアのバージョンがアップデートされたとしても、直接影響のあるアップデートにのみ対応したい、といった要望が多い。「問題には対処したくとも、構成はできるだけ変更したくないからこそ、Red Hat Insightsの効果がある。アップデートがたくさんある中で、どれが重要で適用するべきかをレコメンデーションしてくれるからだ」と、ビル=ピーター氏は説明する。
また、グローバルに展開している銀行では、ある国ではセキュリティの修正のためのアップデートを怠りがちになる、といった傾向があるために、監査ツールとして試験的に導入したという。
基幹システム以外では、クラウドなどの新しいITのシステムもRed Hat Insightsの適用対象となる。その事例としてビル=ピーター氏は、“著名なSaaSマーケティングの会社”のケースを紹介した。この会社では、大企業による買収にともない、CentOSからRHELに移行し、Red Hat SatelliteやChefによる管理も採用した。このときRed Hat Insightsを、2か月の検証を経て本番環境の1万5000システムに導入し、実際に効果を上げているとのことだ。
Red Hat Satelliteの今後としては、システムをまたがった構成にも対応していきたいという。「Linuxと特定のストレージとの相性など、細かな問題にも対応していく。1つのシステムの中よりも、インテグレーション作業の中で問題が起こる可能性が高いので、Insightsの効果はより大きくなる」とビル=ピーター氏は語る。また将来的には、顧客独自のルールも組み込めるようにすることも考えているという。
日本市場でのRed Hat Insightsについて、ビル=ピーター氏は「日本の顧客はサービス水準の要求が高く、アップタイムの要求が大きい。そのため、セグメントにかかわらず幅広い顧客に受けいれられる素地(そじ)がある」と説明。「OEMにも興味を持っていただいているので、OEMを通じて使っていただくことも考えている」とも語った。