特別企画
日本HP、OpenStack重視の新クラウド戦略「Helion」の狙いを語る
(2014/5/23 06:00)
5月6日、米HPが新しいクラウド製品・サービスイニシアティブ「HP Heilon」を発表した。オープンソースのクラウド基盤「OpenStack」をベースとしたクラウド製品・サービス群の総称で、その内容については弊誌連載「Infostand 海外ITトピックス」のこちらの記事でも紹介している。
この記事では米HPの発表を受け、その概要と海外のアナリストなどの反応を追っているが、5月21日に日本HPも国内で説明会を開催した。本稿ではその内容から、HP自身の考えなどについてお伝えする。果たして、Helionに込めたHPの狙いは何だろうか――。
HP初のOpenStackディストリビューション
Helionは、OpenStackをベースにした新しいクラウド戦略。Helionという言葉自体は、もともと陽電荷を持つヘリウムイオンを指す化学用語だ。その語源はギリシャ神話の太陽神「ヘリオス」で、「企業のさまざまなITをつなぐ役割を担うべく、ヘリウムのように普遍的、かつ太陽のように雲を超えた存在でありたい」という思いから、この言葉が用いられた。
構成要素としては、プライベートクラウド向けの基盤構築システム「HP CloudSystem」、OpenStackディストリビューション「Helion OpenStack」、OpenStackをベースとしたマネージドクラウド「Helion Managed Cloud」、パブリッククラウド「Helion Public Cloud」、Cloud FoundryベースのPaaS「Helion Development Platform」、各種サービスが含まれる。
プライベートクラウド向けには、従来のHP CloudSystemに加えて、HP Helion OpenStackを提供するのが特筆点。HPが提供する初のOpenStackディストリビューションで、無償のコミュニティ版と商用版を用意する。
コミュニティ版「Helion OpenStack Community」はすでにプレビュー版が公開済みで、6月にも正式版をリリースする。6週間ごとにコミュニティで開発される機能を盛り込み、試用・検証用途や30物理サーバー程度の小規模環境向けに提供。ベースはOpenStack最新版「Icehouse」で、容易な環境配備を実現するOpenStack新機能「TripleO」などもサポートする。
「従来はHP CloudSystemにバンドルした形で、OpenStackベースのHP Cloud OSを提供していたが、OpenStackのソフト単体提供を開始する形となる」と、米HP クラウドテクノロジストグループ 技術担当部長の真壁徹氏は語る。
商用版はコミュニティ版をベースに、OpenStackだけではカバーできない運用管理機能(ハイブリッド管理や外部連携)など、HPがOpenStackの自社運用を始めてからの3年間で蓄積したノウハウを付加。1000台の物理サーバーを超えるような環境にも耐える拡張性と可用性を提供する。「コア部はコミュニティ版と同一で、コミュニティ版から商用版へのアップグレードも簡単」(真壁氏)という。
商用版は自身でOpenStack環境を構築したい顧客に向けて、「Helion OpenStack for Enterprise/Service Provider」の2種類を用意。「マルチベンダー対応だが、HPハードウェアに最適化し、ProLiantの管理機能と連携するよう設計されている」(同氏)とのこと。提供予定時期はプレビュー公開が6月、正式版が8月となる。
併せて、Helion OpenStackによる環境構築を支援するためのプロフェッショナルサービスや、Helion OpenStackを利用する顧客を、OpenStackのコード単体あるいはLinuxコードとの組み合わせに関する他社特許権、著作権、企業秘密違反の訴えから保護するプログラムも提供する。
クラウドサービス拠点を大幅拡充、日本も対象
従来から提供しているマネージドクラウド、パブリッククラウドもHelion OpenStackベースに。新たに提供するデータセンターの大幅拡充も図る。現在、米国3カ所、ブラジル1カ所で提供されているが、今後18カ月間で世界20以上の地域(拠点)へ配備する計画だ。
アジア太平洋や欧州・中東・アフリカ地域にある既存のHPデータセンターに、優先度に応じて順次配備していく。最優先の地域にはシンガポール、オーストラリア、ドイツ、トルコ、英国に加えて日本も含まれていることが特筆点で、日本拡充が今後18カ月間のいつかは「追って発表する」とのことだが、HPのクラウドサービスもいよいよ本格的に日本上陸を果たすことになる。
なお、Helionの発表に合わせ、HPは今後、Helionのグローバル展開に10億ドル以上を投資する計画を発表している。「他社ではもっと多い投資額のところもあるが、それはデータセンター投資も含めてのこと。今回のクラウドサービスのグローバル展開は、基本的に既存のデータセンターを活用するため、(新規データセンター投資などは)当社の10億ドルには含まれていない」とし、投資額についても他社に引けを取らない点を強調している。
新製品としてはこのほか、Cloud FoundryベースのPaaS「Helion Development Platform」もHelionポートフォリオに含まれた。オープンソースのCloud Foundryをベースに統合フレームワークと実行環境を提供するもので、クラウドネイティブなアプリの作成を支援する。
「2月にFoundationが設立され、Cloud Foundryもアクセルが踏まれたところ。OpenStackとともに、PaaSのレイヤではCloud Foundryが今後のデファクトスタンダードになると見込み、HPもこれに注力。Cloud FoundryとOpenStackのインテグレーションを強みに展開していく」(真壁氏)とのことだ。
HPにとってのHelionの戦略的な意味とは?
では、HP Helionは同社の戦略的にどのような意味を持つのか。Helionは従来のイニシアティブ「HP Converged Cloud」を再定義したものという位置づけだが、ポートフォリオを見てわかるとおり、「OpenStackでクラウド戦略をまとめ直したもの」あるいは「OpenStackへ本腰を入れるHPの意思表示」とも見て取れる。
真壁氏によれば、その狙いは「単一のプラットフォームの下で、ハイブリッドクラウドを実現し、その普及促進を図る」ことだ。今後、ハイブリッドクラウドが重要になるという同社の考えに基づくものだが、ここで重要なのは「単一のプラットフォームの下で」という部分。
同氏は「ITの使われ方が急速に変革する昨今、クラウドは不可欠な技術。その本質がパブリッククラウドが持つ“俊敏性”にあるのは間違いない。しかし、企業にはオンプレミスの資産があり、すべてをパブリッククラウドへ移行するのは難しい。パブリック、プライベートを別個に単体で考えるのではなく、ハイブリッドクラウドとして組み合わせることが必要。そこで重要となるのが“単一のプラットフォーム上で”ということだ。現在のハイブリッドクラウドは、単に社内のサーバーを仮想化し、パブリックリソースを一部併用しているに過ぎず、そこに技術的な統一性は存在しない」と指摘。この「技術的な統一性」を、Helion OpenStackで実現するのが狙いだという。
「単独で万能なクラウドなど存在しない。ゆえにハイブリッドクラウドが求められるが、パブリックとプライベートを組み合わせたことで、パブリッククラウドが本来持っている俊敏性を損なっては意味がない。Helionでは、従来より当社が提供していたクラウド製品・サービスにHelion OpenStackによる共通アーキテクチャを適用することで、俊敏性のあるハイブリッドクラウドを実現していく」(同氏)。
昨今、OpenStackを担ぐベンダーが増えている。しかし、HPのようにハードウェア、セキュリティ製品、サービス、さらには独自ディストリビューションのすべてを保有するベンダーは存在しない。このHPの総力を結集する点を他社との競争力にする考えだ。
一方、Amazonをはじめ、はるか彼方を先行するパブリッククラウド勢。こうした勢力にHPのハイブリッドクラウドは勝ち目があるのか。「HPも米国ではすでに価格競争力のあるパブリッククラウドを提供している。実は3年前まではHPでもAWSを利用していたが、今ではすべてHPクラウドに移行済み。加えて、ハイブリッドクラウドへの移行ニーズが、クラウドで勝てるかどうかのポイントとなる。HPはオープンで、セキュアで、かつ俊敏性のあるハイブリッドクラウドを実現するための広範なポートフォリオを有している。特に運用管理や開発支援の分野で先行しているのが強みだ」。
「日本はクラウドが浸透したとは言えない。勝負はまだついていない」と、日本市場での展望を語る真壁氏。果たしてHPは、この市場で、あらゆる雲を束ねる太陽のような存在になれるだろうか――。