特別企画

機能がないなら作れば良い? SDN研究者から見た「ホワイトボックススイッチ」の現状と未来

 昨年末、大手のサービス事業者が基盤に導入したこともあり、注目を集めている「ホワイトボックススイッチ」。ホワイトボックススイッチとは、ネットワークベンダーが設計・開発したスイッチチップやハードウェアではなく、チップベンダーが設計・開発した汎用スイッチチップにOEMベンダーが設計・製造したハードウェアを組み合わせたものである。スイッチベンダー固有のネットワークOSではなく、汎用的なOSから選択できることも特徴だ。

 国内でも盛り上がりを見せつつあるホワイトボックススイッチの状況や、メリット、未来について、日本電信電話株式会社 ソフトウェアイノベーションセンタ(以下、NTTソフトウェアイノベーションセンタ)の石田渉氏と、ホワイトボックススイッチを取り扱っている、株式会社ネットワールド ソリューションマーケティング部 クラウド&セキュリティソリューション課の綿引来美氏に話を聞いた。

日本市場でも盛り上がりを見せ始めた「ホワイトボックススイッチ」

――石田さんがNTTソフトウェアイノベーションセンタで取り組まれている研究・開発についてお教えください。

石田氏
 私が所属しているのは、分散処理基盤技術プロジェクトです。プロジェクトではさまざまな研究・開発が行われていますが、私のチームは主にSDNを中心とした技術の研究・開発をしています。

 NTTソフトウェアイノベーションセンタは、オープンソースソフトウェア(OSS)による基盤開発を中心に、オープンイノベーションを推進しています。開発しているOSSには自ら立ち上げたものもあれば、OpenStackのように既存プロジェクトに参加しているケースもあります。私のチームではRyuGoBGPといったOSSプロジェクトを立ち上げ、SDN・ホワイトボックススイッチの活用を始めています

日本電信電話株式会社 NTTソフトウェアイノベーションセンタの石田渉氏

――石田さんは昨年、「ホワイトボックススイッチユーザ会」を立ち上げられましたが、経緯を教えてください。

石田氏
 ホワイトボックススイッチは、米国で活用が始まりましたが、日本にはあまり情報が入ってこない、なかなか活用が進まないという状況がありました。そこで、意見交換をしたり、実際にソリューションを展開している企業に商品を紹介していただいたりして、ホワイトボックススイッチに関する技術的知見を共有することができる場をということで、ユーザ会を立ち上げました。

――「ホワイトボックススイッチユーザ会」にはどういった方が参加しているのでしょう。

石田氏
 厳密な会員制度を採っているわけではなく、だれでも参加できるようにFacebookのコミュニティで展開していますが、メンバーは300人を超えています。昨年の5月に第1回勉強会を、12月に第2回勉強会を開催し、どちらの会も100名以上の方に参加いただきました。当初はユーザー企業の方を想定していたのですが、ハードウェアベンダーやSIerの方など、さまざまな方がいらっしゃいました。

ホワイトボックススイッチユーザ会では、すでに2回の勉強会を開催している

――石田さんは第一回勉強会で「ホワイトボックススイッチの北米利用動向」を発表されていますが、北米での利用動向はどのような状況でしょう。

石田氏
 すでに、台湾のベンダーから直接、大量にホワイトボックススイッチを購入して、大規模データセンターで活用しているという企業もあります。さらに大きなところですと、ホワイトボックススイッチベンダーと一緒に設計の段階からかかわり、製造まで行い、さらなる効率化を図っている例もあります。

 ホワイトボックススイッチ用のOSSも続々と登場しています。米Cumulusの「ONIE(Open network Install Environment)」もその1つで、ブートローダとOSのインストール機能を提供するソフトウェアです。ONIEの上にスイッチ向けのLinuxディストリビューションを乗せ、その上で自分たちに必要なアプリケーションを乗せて使うというのが、北米でのホワイトボックススイッチの使われ方です。

――日本の状況はいかがでしょう。

石田氏
 昨年末、ネットワールドがKDDIにCumulus Linuxベースのホワイトボックススイッチを納入されましたね。ほかにも、安価なL2スイッチとして利用されているという話は聞くことがあります。ユーザ会では、一部のSIerさんが検証なども含め、触っているという話は聞いています。

綿引氏
 昨年秋、KDDIのイントラネット接続型モバイルアプリ/IoTデバイス開発基盤「KDDIクラウドプラットフォームサービス mBaaS by Kii」のネットワークに、Cumulus Linuxを搭載したホワイトボックススイッチを納入しました。幣社は、販売ならびに保守サポートをKDDIに提供しています。

 KDDI以外でも、徐々に一般的なエンタープライズのお客さまにも購入されるケースも増えてきています。特にx86アーキテクチャCPU搭載のT3048-LY8やT3048-LY9は、販売開始されて間もなく1年経ちますが、発売当初から問い合わせも多く、需要の多さを実感しています。NTTソフトウェアイノベーションセンタにも、研究・開発用に導入いただいております。

ネットワールド ソリューションマーケティング部 クラウド&セキュリティソリューション課の綿引来美氏

ホワイトボックススイッチの魅力は「なくてもつくれる」こと

――NTTソフトウェアイノベーションセンタでは昨年、Quanta製のホワイトボックススイッチ「T3048-LY8」「T3048-LY9」を購入されましたね。どのような研究・開発にご利用でしょうか。

石田氏
 はい。今回、ネットワールドからQuanta製ホワイトボックススイッチを購入しましたが、私のチームでは、Quanta製のスイッチだけでなく、さまざまなホワイトボックススイッチを導入しています。

 一般的にホワイトボックススイッチは、「自動化に向いている」「AnsibleやChefが使えます」といった特長が強調されますが、最近では、自動化という観点ですと、既存のネットワークベンダーのスイッチも自動化にはいろいろと対応しています。

 私のチームは、少々マニアックですが、Cumulus Linuxのルーティング機能に標準で搭載されている「Quagga」というソフトウェアを、自分たちで開発したソフトウェアに乗せ替えるということをしています。

 ネットワーク機器としては、ルーティングというのは根幹の機能で、自動化よりも1つレイヤの下にあるものですが、そうしたレイヤから、自分たちの必要な機能を持ったソフトウェアに乗せ替えて動かすことができるというのが、ホワイトボックススイッチの利点だと思っています。

NTTソフトウェアイノベーションセンタが導入した「T3048-LY8」

――具体的にはどのような機能を持ったソフトウェアに乗せ替えるのでしょうか。

石田氏
 今のネットワークスイッチは少しずつ変わってきていますが、従来のネットワークスイッチは、CLIベースでオペレーターがログインして、手作業で設定をするというのが基本です。Quaggaもそうした前提で作られているのですが、われわれが今作っているソフトウェアというのは、機械で設定することが前提となっていています。

――運用の効率性を高めるということですね。

石田氏
 そうですね。さらに、どのようなトラフィックが流れているか、どのような端末がつながっているかなど、今までソフトウェアからは取得しづらかった情報を取りやすくすることで、今ネットワークでどういうことが起こっているのかをリアルタイムに見られるようにもなります。

――成果はいかがでしょうか。

石田氏
 昨年開催された「INTEROP Tokyo」のShowNetで、マルチベンダーの相互接続試験に参加しました。Cumulus Linuxを搭載したホワイトボックススイッチに、私たちの開発したソフトウェアを実装して、異なるベンダースイッチの相互接続を試験するというものです。
 EVPN(Ethernet VPN)は、簡単に言いますとVPNを作るための技術ですが、Cumulus Linux標準のQuaggaではEVPNに対応していません。そこで私たちの開発したソフトウェアに載せ替えて、EVPNで接続するというものです。

ShowNetでは、ホワイトボックススイッチを利用した相互接続試験が行われている

――機能拡張を実現したということですね。

石田氏
 ホワイトボックススイッチというと、既存のネットワークベンダーのスイッチに劣るのではないか、自動化には向いていても機能面は劣るのではないかという印象を持つ方もいるかもしれません。しかし、そうした機能は自分たちで作ってしまえば良い、「なくてもつくれる」ということを体現できたのではないかと思います。

 こうしたムーブメントが大きくなり、しかもそれがOSSであれば、一企業が研究・開発をするよりも大きな開発リソースを得られます。もっと開発のスピードも上がり、さまざまな機能が生まれるのではないかと思います。

サーバーの作法でネットワークを管理、運用の大幅な効率化を実現

――従来のネットワークベンダーでも自動化や運用の効率化に対する取り組みは進んでいます。ホワイトボックススイッチの良いところはどこでしょう。

石田氏
 例えば、Cumulus Linuxで言いますと、ネットワーク機器の運用手法をサーバーの運用方法に沿わせることができるため、ネットワーク運用チームとサーバーの運用チームを一緒にできるところが、大きな違いですね。

 既存のネットワークベンダーの自動化、効率化というのは、ネットワークオペレーターの負荷を軽減するためのものです。ネットワークの作法、運用チームが必要なことは従来と変わりません。

――サーバーの作法でネットワークの運用ができるということですね。

石田氏
 ホワイトボックススイッチというのは、「ポートがたくさんあるサーバー」という見え方です。サーバーのオペレーションを経験した方なら、違和感なく、そのままCumulus Linuxの搭載されたスイッチもオペレーションできます。

――ホワイトボックススイッチは低コストということがよく強調されますが、運用の人数が減らせるのは特に大きなメリットですね。

石田氏
 確かにホワイトボックススイッチによってハードウェア自体の値段は安くなるのですが、導入して、勉強して、ソフトウェアを作るとなると、導入のコスト削減効果は実感しにくいかと思います。L2スイッチとして使うだけならともかく、それ以上のことをしようと思うと、導入コストが高くつくというケースもあるでしょう。ただし、運用するチームの絶対的に必要な人数を減らす、または人数を増やさずに、運用するネットワークの規模を大きくできる可能性がありますので、大きくTCOを削減する効果が期待できると思います。

――今後の展望をお聞かせください。

石田氏
 近年、サーバーアプリケーションの世界では、OSSの活用が進み、同時に、それらを組み合わせたソリューションや、多種多様なビジネスが展開されています。それに対してネットワークの世界は、基本的にはベンダーから提供されるものをそのまま使うというのが今までのあり方でした。

 今後、ホワイトボックススイッチの活用が進んでいくと、サーバー寄りの世界に近づいていきます。自分たちで何でもできるという人たちは、自分たちで作ってしまいますし、全部お任せしたいという場合は、ホワイトボックススイッチを使うけれど、その上のシステムはどこかほかの会社に作ってもらうなり、さまざまな構築形態が選択肢として出てくると思います。ネットワークの世界も、サーバーの世界と同じように多様化していくと面白いと個人的には思います。

「ホワイトボックススイッチの普及により、ネットワークの世界もサーバーと同じように多様化していくと面白い」と話す石田氏

――ホワイトボックススイッチユーザ会の今後の活動予定はいかがですか。

石田氏
 開催できるくらいにネタが集まったら、勉強会という流れになると思います。ただ、昨年2回勉強会を開催しまして、最初はこちらから発表していただく方に声をかけていたのですが、最近では、講演したいというお話をいただくことも多くなっていますので、コンスタントに開催できると思います。会場提供や講演したいという方はぜひご連絡ください。

――ネットワールドでは、ホワイトボックススイッチに関して今後どういう展開を考えていますか?

綿引氏
 弊社の販売しているQuantaのホワイトボックススイッチは、Quanta OSを搭載したものと、ユーザーがOSを選択可能なベアメタルスイッチがあります。最近は特にベアメタルスイッチ向けネットワークOSの新規参入も盛んになってきており、ベアメタルスイッチの市場が活発になっています。

 ホワイトボックス製品は、先進的かつ低価格に導入頂けるなど、多くのメリットを得ることができます。しかしその一方で、ホワイトボックス製品を供給するベンダーの商習慣や品質に対する認識が日本と異なるため、弊社のような代理店がメーカーとユーザーの間を仲介し、品質の維持と安定的な製品供給、日本水準の保守サービスを提供する必要あると考えています。今後は、ビジネスニーズに合わせた製品を選択頂けるよう、日本国内における事例を増やし、全力でユーザーを支援するような取り組みを行っていきたいと考えています。

 また弊社では在庫運用をしておりますので、通常2カ月程度かかる納期が最短翌営業日に納品することも可能です。もともと、コストパフォーマンスの高いホワイトボックス製品ですが、現在従来の10GbEスイッチと比較して70%近くコストダウンが可能なBMS(ベアメタルスイッチ)キャンペーンも実施していますので、ご興味のある方は、この機会にぜひ検討ください。

ネットワールドの取り扱う、主なQuanta社製ホワイトボックススイッチラインアップ

(協力:株式会社ネットワールド)

(木村 慎治)