特別企画

パブリッククラウドのベネフィットをあらゆる企業へ――、オラクルのコンバージドインフラ戦略

 「いま、世界はすべてがクラウドに向かって集約されている。私はソフトウェアの世界に28年間生きてきたが、これほど大きなインパクトは過去にも例がほとんどない。そしてクラウドを成長のキーにするなら、パブリッククラウドの展開は企業にとって欠かせないものになる」――。

 12月9日、東京・新高輪プリンスホテルで開催された日本オラクル主催のクラウドカンファレンス「Oracle Cloud Days Tokyo」の2日目、基調講演に登壇した米Oracle コンバージドインフラストラクチャ戦略担当 エグゼクティブバイスプレジデント デイビッド・ドナテリ(David Donatelli)氏は、クラウド、特にパブリッククラウドが世界に及ぼしている影響の大きさをこう語った。

 2015年は、エンタープライズ企業によるパブリッククラウド採用がグローバルで一段と進んだ1年であったといえる。クラウド市場でトップを走り続けるAmazon Web Services(AWS)はもちろんのこと、MicrosoftやIBMによる導入事例も着々と増えている。これまでプライベートクラウドに注力してきたVMwareも、パブリッククラウド事業を本格化した。

 そうした中、パブリッククラウド市場への進出が遅れていたOracleがここにきていくつかのユニークな施策を打ち出してきている。本稿ではドナテリ氏の講演内容をもとに、Oracleがパブリッククラウド市場で強みにしようとしている“コンバージドインフラストラクチャ戦略”について紹介したい。

米Oracle コンバージドインフラストラクチャ戦略担当 エグゼクティブバイスプレジデント デイビッド・ドナテリ氏

世界で高まるパブリッククラウドへのニーズ

 ドナテリ氏が指摘するように、ここ1、2年、Walmart、GE、Siemens、NTTドコモなど世界的大企業によるIaaSレベルのパブリッククラウド導入が加速度的に進んでいる。これらの企業は、自社データセンターを閉じてパブリッククラウドに移行するだけでなく、クラウドアダプションにまつわるノウハウを他企業に提供し始めており、単なるユーザー企業というフレームでは語ることができない領域に入りつつあることも見逃せないトレンドだ。

 こうしたユーザー側の変化は、クラウド事業者であるITベンダにも大きく影響している。ドナテリ氏は2015年の大きなIT関連ニュース――DellのEMC買収、Citrixの分社化検討、SymantecおよびHPの分社化、NetAppの売上大幅減といったトピックを挙げ、こうしたニュースに登場する企業の特徴として、「パブリッククラウドへのムーブメントに乗り遅れた」と指摘する。

 「パブリッククラウドの展開は将来の成功に不可欠」――、ドナテリ氏はあらためてパブリッククラウドがユーザーおよびベンダの両方に重要であると強調する。では、Oracleはそうした市場の変化にあって、どういう戦略を取ろうとしているのだろうか。ここでドナテリ氏は「オラクルの強みは、チップからアプリケーション、クラウドまでを統合できるコンバージドインフラストラクチャにある」としている。

パブリッククラウドが企業の成長に欠かせないと強調するドナテリ氏

パブリッククラウドを顧客のデータセンターで - Oracleのクラウド導入オプション

 これまでもOracleは同社のクラウド戦略の強みを、ハードもソフトもカバーする垂直統合(Vertical Integration)なポートフォリオにあると主張してきた。だが、Oracle製品だけでクラウド環境を構築できるというのは、それほど大きな訴求力を持たない。

 もちろん、旧Sun Microsystemsの資産を受け継いだハードウェアを中心とする同社の製品スタックが、クラウド市場を生き抜くための重要なパーツであることに変わりはない。だが、それだけではパブリッククラウドへと移行が進む市場のトレンドを巻き取ることは難しい。Oracleならではの垂直統合なポートフォリオと、市場が指向するパブリッククラウドへの集約――この2つのニーズを同時に満たそうとするのが、新しいコンバージドインフラストラクチャ戦略となる。

オラクルのコンバージドインフラ戦略を支えるスタック

 ではOracleはどのようなパブリッククラウド施策を打ち出そうとしているのか。ドナテリ氏はまず、現状のパブリッククラウド事業者を

・パブリッククラウドなし/プライベートクラウドあり……Cisco、Dell、HP、NetApp、EMCなど
・パブリッククラウドあり/プライベートクラウドなし……Salesforce.com、AWSなど
・パブリッククラウドあり/プライベートクラウドあり……Oracle

と3つのタイプに分けており、「パブリッククラウドとプライベートクラウドを、同一製品、同一アーキテクチャ、同一規格、同一スキルで提供できるのはOracleだけ」と同社の強みをあらためて強調する。

 「他社のクラウドでは、パブリッククラウドとプライベートクラウドを同じ環境にすることはできない。したがってクラウド間のアプリケーションポータビリティを担保することは難しい。例えばプライベートクラウド上で開発したアプリケーションをパブリッククラウドでテストしようとしても、それぞれのクラウドで使われている製品やアーキテクチャ、さらにはSLAまでもが異なるので、一貫性を保持できない」(ドナテリ氏)。

 ドナテリ氏は続けて、Oracleが展開する3つのクラウド導入オプションを説明している。

・ハイブリッドクラウドサービス……顧客のデータセンター(Oracle製品で構築されたプライベートクラウド)とOracleのパブリッククラウドサービス(Exadata-as-a-Service、Big Data Cloud、Archive Cloudなど)のハイブリッド提供。クラウド間を自由に行ったり来たりできる。アプリケーション開発をプライベートクラウドで行い、テストをパブリッククラウドで、といったユースケースに向いている。
・顧客のデータセンター内でのOracleのパブリッククラウド提供……いわゆる“マネージドサービス”に近い形式のクラウドサービス。顧客はファシリティのみを提供し、データセンター内はすべてOracle製品で構築され、運用もOracleが行う。サブスクリプション形式での提供。
・プライベートクラウドサービス……顧客のデータセンター内に「Oracle Private Cloud Appliance」を設置し、x86サーバーやLinuxなどOracle以外の製品も接続可能なプライベートクラウド環境を構築。DockerやOpenStackもサポート。電源投入から数時間で稼働可能。

 ここで注目したいのは、顧客のデータセンター内で展開するパブリッククラウドサービスだ。他のベンダーはこの手のサービスをマネージドサービスと呼ぶことが多いが、Oracleのようにハードからミドルウェア、アプリケーションに至るまで、すべてを自社製品でそろえられる事業者はほとんどない。

 また、パブリッククラウドを利用したいが、レギュレーションの関係でクラウドベンダーが提供するデータセンターを利用できない企業のニーズにもマッチする可能性は高い。

 「クラウドサービスで使用するリソースの詳細を把握でき、自社で所有するデータセンターで利用可能なパブリッククラウド」という特徴を強みとしてより広いレンジに訴求できるかが、今後のOracleのパブリッククラウド戦略の成否を大きく左右するといえる。「パブリッククラウドの導入はいまや企業の成長と成功に欠かせない要素。だからこそ、どんな条件下でもパブリッククラウドのメリットを企業が享受できるようにしたのがOracleのオプションだ」。

Oracleのクラウドオプションの中でもとりわけユニークなのが「顧客のデータセンター内にOracle Cloudを展開する」というもの。コンバージドインフラ戦略の中でも注目されるオプション

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 今回のカンファレンスにあわせ、日本オラクルは「SPAEC M7」プロセッサを搭載したシステム製品群6機種(Oracle SuperCluster M7、SPARC T7サーバー3機種、SPARC M7サーバー2機種)の国内提供を開始している。これらの製品リリースはコンバージドインフラ戦略を推進するための一環であり、プロセッサからアプリケーション、クラウドに至るまでを包括的かつ垂直統合で提供できるという同社の以前からの主張を具現化したものだ。特にSPARC M7に搭載された「Security in Silicon」と「SQL in Silicon」は、クラウドのセキュリティと効率的なデータ管理をプロセッサレベルで向上させる機能として注目される。

SPARC M7を搭載した製品群

 「顧客がOracleのクラウドを導入することで享受する価値の浸透(POCO:The Power of Cloud by Oracle)を図りたい」――、基調講演の冒頭で日本オラクル 代表執行役社長 杉原博茂氏はこう語っている。

 ならばコンバージドインフラ戦略は“Oracleのクラウドだからこそ享受できる価値”を顧客のもとに届けるアプローチと言い換えることもできる。豊富なポートフォリオと独自のパブリッククラウド戦略が、激化するパブリッククラウド市場でどこまで存在感を強めることができるのかに注目していきたい。

日本オラクル 代表執行役社長 杉原博茂氏

(五味 明子)