ワークライフバランスと効率化を実現する「ファストワーク手法」のススメ【第2回】

「ファストワーク手法」で残業時間が1/3に!


 第1回では「働きやすさはコストではありません、効率化です。」をテーマに昭和の時代とは大きく変わった労働環境を再認識しつつ、ワークライフバランス上の問題をどのように解決していったかの全体像をご紹介しました。

 働きやすさを実現するには以下の業務改善ステップを踏む必要があります。

<業務改善ステップ>
 STEP1:整理整頓(どこに何があるか皆がわかるようにしておく)
 STEP2:作業標準化(業務フロー、作業マニュアル)
 STEP3:作業依頼ルールの明確化(作業計画の順守、変更ルールの明確化)

 STEP3まで実現した上で、フレックスや在宅勤務などの制度を導入します。すると無駄な作業が減り、一人あたりの作業量が削減され、すなわち効率化が実現されるのです。これを「ファストワーク手法」と呼んでいます。

 2回目となる今回は、STEP2:作業標準化(業務フロー、作業マニュアル)について紹介します。


「ファストワーク手法」で残業時間が1/3に

 ファストワーク手法とは一言で言うと「チームとして成果を残すワーク手法」です。業務を整理整頓した上で、STEP2として業務フローを明確化し、作業マニュアルを作成します。が、よくある業務フローの絵を書くだけではありません。あらゆる作業に対して、「誰の依頼で、どんな作業で、納期はいつで、その作業の詳細タスクには何があり、誰がどうやるのか、進捗状況はどうか?」を明確化・共有化するものです。

 筆者が給与担当チームの責任者だった時の実績では、部下の残業時間を1/3に減らすことができました。さらに、作業状況を共有化できているので、主担当者が急に休んでも他の担当者でカバーすることができました。言い換えれば休みやフレックスを取りやすくなったのです。「働きやすい」「会社へ行くのが楽しくなった」と本当に言ってもらえました。読者の皆様にも是非お勧めしたいと思います。


“使える”業務フローを書くにはコツがある

 業務フローというと、横長で関係者事にレーンを設けるフォーマットがすぐ浮かぶのではないでしょうか? SE歴が長い筆者自身もそうでした。業務フローとは横長で関係者事にレーンを作るもの――そう思い込んでました。さらに、そのような業務フローを作る事こそ重要だと信じて疑ってませんでした。

 しかし、給与部門に異動すると勝手が違いました。SEの業務フローは事務の現場では使えないことに気がつきました。というのも「事務作業は前工程や後工程との関係が重要」だったのです。

 例を挙げましょう。

 給与計算業務は、「変更情報入力→計算→成果物出力」というのがおおざっぱなステップです。その中の「変更情報入力」では通常、情報種別ごとに締日を設けて、給与システムに登録していきます。入退社情報、家族情報、住所情報、通勤経路情報、組合費控除情報、社内預金控除情報、社会保険情報、勤怠情報などです。

 通常時は、それら必要な情報がすべてそろってから登録し、給与計算処理を行ないます。が、カレンダーによってはすべてがそろうのを待っていては時間が足りなくなる場合もあります。特に一人で複数社を担当している場合はそれが顕著です。

 そこで、カレンダー上、給与作業にかけられる時間が少ない際は、いま手元にある情報を登録し、すぐ給与を回し、その状態での給与計算結果チェックをするということもあります。後から手元にきた情報はそのあと追加処理し、計算結果チェックは差分のみ行なうという方法です。要は固定的なフローだけではなく、状況によっては異なるフローで作業する場合もあるのです。

 ですから、給与担当時代に作成していた業務フローは列として「前工程」「処理」「後工程」に大きくレーンを分け、その中に、情報名や処理名、成果物名を記載していました。縦軸は日時です。また、一つにまとめようとはせず、業務を大分類し、必要な処理は別紙として業務フローを作るというように「業務フローの細分化」を図っていました。

 業務フローを細分化したことにより、以下のような効果がありました。

・全体像から詳細へと業務を把握しやすくなった
 →違う担当でも理解しやすい

・フロー変更時のドキュメント修正工数を削減できた
 →変わった所だけ修正して差し替えするだけ、要は業務フローが「作って終わり」から「作った後も使われる」ように進化したのです。


作業マニュアルは細分化して作ろう

 先ほど業務フローの細分化のお話をしましたが、作業マニュアルも同様です。得てして作業マニュアルは、数十ページもある大作を相当な工数を掛けて作りがちですが、そのようなマニュアルは作るのに掛けた工数の割には長く使ってもらえません。担当者はそのうち、自分自身で作業メモを作成し始めます。そうなると属人化は確実です。その人しか作業を遂行できなくなります。

 そこで作業マニュアルも、細分化した業務フローに合わせて細分化することをお勧めします。

 体裁は二の次。「作業の目的」「作業完了の姿」「作業開始の前提条件」「作業中の注意事項」「作業完了条件」などを記載します。できればA4一枚にまとめ、透明カバーに入れておき必要な時に持ってきて使うようにすると良いでしょう。第1回で申し上げた、整理整頓の一環で、マニュアル保管場所を決めておくと効果的です。これらがマニュアルを属人化させず、常に最新版のみ利用されている状態にするための工夫となるのです。


業務フローと作業マニュアル以外に作りたいもの

 業務フローと作業マニュアルができたら、次は各工程間でチェックをしましょう。特に、前工程から情報を入手する際の受け入れチェックをすることをお勧めします。そしてそのためのチェックリストを用意しましょう。

 例えば給与業務なら、勤怠情報を給与システム登録前にデータ整合性をチェックします。これにより計算した後に違算が見つかっても、調査範囲は情報登録作業や処理そのものに限る事ができます。これだけでも業務負荷が減ります。

 IT化が進んだ会社であれば、そのチェックも自動化できるでしょう。すると事務担当者を楽にするだけでなく、要員すなわち固定費の削減が可能になるのです。

 ここまでくるとファストワーク手法の基礎ができたことになります。ここからは折角身に付けた基礎を忘れないようにする取組みが重要になります。




 次回は、「ファストワーク手法を運用に乗せ定着させるたった一つの守るべき事」をテーマに、STEP3:作業依頼ルールの明確化(作業計画の順守、変更ルールの明確化)を説明します。

 詳細は筆者(サイボウズ株式会社 毛海 直樹 naoki-keumi@cybozu.co.jp)までお気軽にお問合せください。

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