NPOをクラウドで支える~日本マイクロソフトの試み
震災が起こり、地域を支援するNPOの役割が高まっている。そんな中、日本マイクロソフト株式会社(以下、マイクロソフト)から、自治体やNPOが被災地域の避難所運営を支援するためのテンプレートが発表された。無償で提供されているこのソリューションは、クラウドを活用することで、サーバーなどを用意することなく、避難者や避難物資などの管理を行うことができる。
また、自治体やNPOがITを活用していくためには、ITリテラシーが高くない人も含めた教育が不可欠となってくる。千葉県で実施されている地域のNPOを支援するための試みを紹介する。
■避難所運営用クラウドCRMテンプレートを無償提供
3月22日、マイクロソフトから東北地方太平洋沖地震の被災地域の自治体や救援活動を行うNPO 向け避難所運営ソリューション「震災復興支援システム」が無償提供されることが発表となった。
このソリューションは、青森県が本社の有限会社ページワンが作成。マイクロソフトのクラウド型CRM「Microsoft Dynamics CRM Online」を被災地域の避難所運営に最適化して活用することができる。
被災地域の自治体や救援活動を行うNPOが「震災復興支援システム」を活用すると、避難所や避難者の管理、支援団体の管理、支援物資の管理など各種情報を体系的に整理し、一元管理ができるので、避難所の運営を効率的に進めることができる。今後の復旧、復興に応じ、仮設住宅の異動先など管理できる情報を追加していくことを計画している。
提供は、Webサイトからのダウンロードとなるが、利用は以下の3つの手順で行う。
- 自治体、NPO担当者が専用Webサイト(URL:http://www.pageone.ne.jp/shinsai/)から申し込み
- 事務局よりソリューションの導入に必要なDynamics CRM Onlineの利用申し込み方法、およびテンプレートのダウンロードサイトなどの情報を個別に電子メールで案内
- 自治体、NPO担当者が、Dynamics CRM OnlineをマイクロソフトのWebサイトから申し込み、利用環境を設定し、テンプレートをダウンロード
このテンプレートを開発したのは、震災の被害にあった地域とも近い青森県青森市に本社を持つページワンだ。「Microsoft Dynamics CRM」をベースとした情報管理ソリューションを開発・提供してきた経験を生かし、今回のテンプレートを開発したのだという。
震災復興支援システムの画面イメージ。この画面はボランティアの一覧 | 支援物資一覧 | 避難者一覧 |
■地域のNPO自身が率先しクラウド活用指南
千葉県の森田健作知事 |
マイクロソフトの樋口泰行社長 |
一般社団法人CATの犬塚裕雅理事長 |
しかし、NPOの中にはITリテラシーが低いところも少なくない。NPOによっては、パソコンを利用したことがない人ばかりの団体もあるという。そういったNPOが非常時など迅速にクラウドを活用するためにどんな方法をとればよいのか。
その1つの回答になるのが千葉県の試みだろう。マイクロソフトと千葉県は、2010年2月に地域活性協働プログラムを締結。その1年後となる2011年3月、成果報告会が開催された。
その席でマイクロソフトの樋口泰行社長は、「これまでにもいくつかの自治体と協働プログラムを実施しているが、千葉県は、ほかの自治体とのプランを見直ししないとレベルが追いつかないほどの高い成果が出ている」と千葉県の成果を絶賛した。
千葉県の森田健作知事も、「千葉県における共同事業の成果はすごいと、日本マイクロソフトの樋口社長からも声をいただいた」と喜びを隠さなかった。
この高評価の要因のひとつとなったのが、地域のNPOがITを活用するために展開されたキャンペーン「ICT31」である。このキャンペーンは、マイクロソフトが提供するIT人材育成支援プログラムを発展させたものだ。IT人材育成支援プログラムでITの利用法を学んだ30人のメンバーがリーダーとなり、千葉県を5つの地域に分けて、各地域に点在するNPOに、地域のニーズを取り入れたIT活用法を伝授していったのだ。
ICT31のメンバーの一人である一般社団法人CATの犬塚裕雅理事長は、「企業とは異なり、NPOの場合はいきなりITを使いましょう、クラウド化していきましょうと呼びかけても、腰が引けてしまう」と指摘する。
そこでICT31キャンペーンでは、(1)「すごい!」と思ってもらう「つかみ」部分、(2)「なるほどね」と納得する部分、(3)「これなら私にもできる」と自信を持ってもらう部分の3点セットで千葉県のNPOに呼びかけを行った。
具体的には、(1)としては、マイクロソフトの社会貢献プログラムの中にある自治体やNPOが利用できるOfficeのテンプレートをオンライン上で公開。自分たちの活動に有効なコンテンツが提供されていることを訴える。
成果報告会では、NPO法人ちば市民活動 市民事業サポートクラブのメンバーが、イベント告知用のチラシを作成する様子が実演された。テンプレートにのっとってチラシを作成していくことで、普段は気がつかない地図や交通手順の紹介など、情報を漏れなく記載できるのだという。
「こうした身近で困っている点が改善されることをアピールすることで、(2)のなるほどという共感を得ることができる」(CAT 犬塚理事長)。
しかし、この(1)、(2)だけを見て、「これはコンピュータに慣れた人だからできることで、自分たちにはできない」と思われては意味がない。ICT31は、ITのプロというよりも自分たちと同じNPOとして活動するメンバーがITを教えることで、「自分たちにもできるんだね!」と親近感を持ってもらうことにつとめたのだという。
ちなみに、ICT31というキャンペーンの名称は、最初のIT人材育成支援プログラムを受講した30人のメンバーと、講師一人、合計31人を指して命名されたそうだ。
NPOにとってITやクラウドは緊急事態に強みを発揮するだけでなく、組織の足腰を強くすることに大きく寄与すると犬塚理事長は指摘する。
「多くのNPOが活動の際の会議をする時間をとるのに苦慮している。ITを活用すれば、メーリングリストを使って資料を事前に配付し、会議の時間を短縮するといったことが実現する。現段階では、『Windows LiveのSkyDriveを活用して資料を共有しましょう!』と呼びかけるだけでは、及び腰になるメンバーもいる可能性もある。が、大量のデータや動画といったものを共有するには、クラウドは有効的な手段だと感じている。企業にとっては当たり前になっている、資料や情報を共有することで、全員が会議に参加することなく議事を決定するといったことも可能となる。ITを道具として活用しながら、活動の中身を改善していくためにクラウドは有効だと考える」。
今回の災害に限らず、地域活性化のためにNPOのIT化を見直すべき時期が来ているといえるだろう。
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