特別企画

Facebookの現場ノウハウを活用した光ディスクアーカイブ装置――、パナソニックが「freeze-ray」を説明

 パナソニックは23日、長期間の大量データ保管に適したデータセンター向け大容量データアーカイブシステム「freeze-ray」に関するセミナーを行った。本稿では、その模様をレポートする。

freeze-rayのハーフラック。上から拡張モジュール、ベースモジュール、ボトムモジュール

米Facebookと連携して開発した光ディスクアーカイバー

 freeze-rayは、米Facebookと連携して開発したデータアーカイバー。アクセス頻度が低い「コールドデータ」の長期間保存とアクセスに関して効率化を図れるのが特徴で、同社が持つ30年以上におよぶ光ディスク技術を活用し、ソニーと共同で開発した次世代型光ディスク「Archival Disc」を記憶媒体に採用している。

 光ディスクシステムの長寿命性、不変性、ドライブの後方互換性、低消費電力、環境変化への耐性といった特性を生かすとともに、パナソニックが持つ高密度光学技術を活用。さらに、光ディスク、ドライブ、関連ロボットなどの主要装置、データセンターでのシステム制御を容易にするライブラリソフトウェアと、Facebookが持つデータセンターのストレージシステムの設計、配備、管理、整備のノウハウを活用した。これによって、データの完全性確保と、データセンターのコスト削減を同時に実現できるという。

 ベースとなる光ディスクのArchival Discは、Blu-ray Discを進化させ、ディスク構造を両面化。記録密度を向上させるとともに、記録層の信頼性を向上させており、現在、1枚あたり100GBおよび300GBのArchival Discが製品化されている。

光ディスクは長期保存に適しているという
光ディスクの歴史

 freeze-rayでは、Archival Discを12枚格納した3.6TBのマガジンを、ベースモジュールに76本装てんすることで、最大273.6TBまでの格納に対応した。

freeze-rayのマガジン
マガジンには12枚のディスクが装てんされている

 マガジンキャリアユニットがモジュール内を前後上下に移動し、マガジンを搬送。ディスクキャリアユニットがディスクをドライブに設置・回収し、ドライブによって記録、再生が行われる。

freeze-rayのマガジンキャリアユニット
300GBのディスクを稼働させるトライブ

 また、スケーラブルなモジュール構成によって、データ量に応じた柔軟なシステム構成が可能。ベースモジュールに拡張モジュールを追加すれば、19インチラックあたり7台までのモジュール構成に対応し、最大1.9PBの大容量を実現している。今後は、1枚あたり500GBや1TBのディスクを活用することで、ラックあたりの容量をさらに拡大できるとした。
 速度面では、録再ユニット付きの拡張モジュールを利用すると、360MB/sの高速転送を行うことができるという。

freeze-rayのシステム構成
500GBや1TBのディスクが予定されている

 パナソニック コネクテッドソリューションズ社 ストレージ事業開発センター 営業技術部長の長谷川博幸氏は、「これまでは光ディスクの書き込み速度が遅いと言われていたが、HDDと遜色(そんしょく)のない書き込み速度を実現している。映像の保管ではなく、データセンターでの活用を前提としたものであり、Facebookとの協業により、データセンターの現場発想によって製品化してきた点が特徴である。実際、Facebookの現場では、ドライブのメンテナンスを後方から行いたいという要望があり、マガジンを収納するドロワーの取り出し方向を前方向とするよう改良した」とした。

パナソニック コネクテッドソリューションズ社ストレージ事業開発センター 営業技術部長の長谷川博幸氏

高い信頼性と省電力性を合わせ持つ

 「Archival Discを採用したfreeze-rayは、非接触型であるため、繰り返しの読み書きに強く、データ損失の心配がないほか、湿度や温度、光の影響を受けにくく、経年変化に強いという特徴がある。物理的に上書きできない追記型(WORM)構造により、データの真正性を担保。RAID技術を適用することで、不測の障害からデータを保護できる。100年の長寿命化を実現しており、定期的なデータ移し替えコストを削減できる」と、信頼性をアピール。

freeze-rayのロゴの前にあるマークはロゼッタストーンを模したもの。長期間保存であることを示す

 また、「常時通電することがなく、冷却用の空調が不要であるため、電力コストおよびCO2排出量の削減につながり、データセンター運営の経費やエネルギー消費量を削減させることができる」とした。

 経済産業省の試算によると、IT機器の電力消費は、2025年には、国内総発電量の20%、世界の総発電量の15%を占めると予測されており、そのうち、データセンターに蓄積されたデータを保存するために使用されている電力がかなりの比率を占めるといわれている。こうした社会的課題も解決できる製品だとする。

データ保存に必要な電力消費量が増大している

 他製品との比較については、「HDDやLTO(磁気テープ)によるデータ保存に比べても、コストは半分で済む。また、米国では、3つ以上のコピー、2種類以上のメディア、1つのオフサイト保存による3-2-1ルールがあるが、ここでも光ディスクの活用が注目されている。現時点でも、対抗デバイスに比べてTCOは確実に低いが、ディスクが500GBになれば導入コストも対抗デバイスと同等になる」と自信をみせた。

低いTCOが特徴という
3-2-1ルールでデータ損失リスクを低減

 さらに、パナソニック専用ソフトウェアである別売のデータアーカイバーマネージャーを用意。これを使用することで、既存のITシステムにLAN経由で接続が可能であり、複数のfreeze-rayと、すべてのマガジンを1つのネームスペースとして管理できる。

 これにより、必要なファイルがどのマガジンに保管されているのかを気にすることなく、直感的な操作でアクセスが可能だ。Linux対応により、大容量の非構造化データの保存に最適なオブジェクトストレージの構築も行える。長谷川氏は、「世界各国のソフトウェア会社と連携し、活用しやすい環境を構築する」と方針を説明した。

アーカイブ市場の10%獲得を狙う

 また、パナソニック コネクテッドソリューションズ社 ストレージ事業開発センター アーカイブ事業総括の古川厚氏は、「IoT技術の急速な広がりやSNSの普及、映像および放送のデジタル化により、全世界で生み出されるデジタルデータは、爆発的に増加しており、2020年には44ZB(ゼタバイト)に達する。1年間に4.5ZBのデータが生まれており、そのうち、3.5~4%のデータが保存されているにすぎないが、これだけで1兆円のアーカイブ市場がある。今はその4分の1程度の市場規模だが、中でも長期保存性が重視されるコールドデータの比率が、今後、増加していくと予測されている。あわせて生成されるデータのうち、保存されるデータの比率も高まるだろう」と見通しを示す。

 その上で、「パナソニックは市場全体の10%を獲得したいと考えており、2020年度には1000億円規模のビジネスに拡大したい。大量データの長期保管は、社会的な課題になっている。データを安心、安全に保管し、次世代につなげるとともに、これらのデータを活用して、AIなどの新たな技術の創出に活用するなどの動きも出ている」と述べた。

パナソニック コネクテッドソリューションズ社ストレージ事業開発センター アーカイブ事業総括の古川厚氏

 freeze-rayは、Facebookのほか、中国のデータレイク構想にあわせた政府系データセンターへの導入、日本では核融合科学研究所での導入のほか、富士通がETERNUSシリーズとしてOEM販売を行っている。

 「すでに、全世界で約50件に導入実績があり、データセンターや科学技術分野、研究機関などのほか、映像および放送分野への導入が進んでいる。商談案件は約200件に達しており、大規模データセンターから中小規模まで幅広い。中国では5万台の監視カメラから毎日18PBのデータを収集しており、年間では6500PBものデータを蓄積するために活用。核融合科学研究所では、実験で得られる貴重なデータを蓄積し、これを全世界の研究者が利用できるようにしている。また、ロシアでは昨年12月のプーチン大統領の来日時に結ばれた日露の経済協力において、光ディスクアーカイブシステムが盛り込まれている。光ディスクを活用したアーカイブのビジネスはまだスタートしたばかりであり、ひとつひとつの事例を通じて、信頼を得ていくことが重要なビジネスである」(同)とした。

 なおパナソニックのストレージ事業開発センターは、2017年4月に、従来のストレージ事業部から組織名を変更。「これは、中長期的に大きく発展させるという意味がある。光ディスクはまだ技術進化する。今後は、事業を推進するだけでなく、本社R&D部門も参加して、高密度のストレージの先行開発を行う役割を担っていくことになる」とした。