特別企画

デジタルビジネス従事者は従来型IT技術者よりも仕事への満足感が高い

「デジタルビジネスへの挑戦 情報サービス産業白書2017」より

 一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)は、「デジタルビジネスへの挑戦 情報サービス産業白書2017」(発行元:インプレス)を6月19日に発行した。

 白書では、ITエンジニアが知っておくべきデジタルビジネスに関する10のキーワードを現役のエンジニアたちが解説。そのほか、従来型IT技術者とデジタルビジネス従事者の双方にアンケート調査を行い、仕事に取り組む姿勢や考え方の違いを詳らかにしている。

 今回は同白書から、デジタルビジネス従事者のマインドに関する調査結果(第3章第2節)を紹介する。

・調査手法

 回答者を情報サービス事業者とユーザ企業に分類し、そのうえでデジタルビジネスに関与する回答者を「デジタルビジネス従事者」と定義する。関与の形態として、デジタルビジネスのための情報システムの開発・運営に加えて、デジタルビジネスの事業企画やサービス開発、サービス運営も含めた。「従来型IT技術者」は、デジタルビジネスに関与していない情報サービス事業者あるいはユーザ企業の情報システム担当者である。デジタルビジネス従事者と従来型IT技術者が約300名ずつ、さらに勤務先が情報サービス事業者とユーザ企業それぞれ約300名ずつとなるように回答を収集した。

デジタルビジネス従事者のマインド

1 仕事への満足感

 情報サービス事業者とユーザ企業とを合わせたデジタルビジネス従事者全体と、従来型IT技術者全体とを比較した場合にデジタルビジネス従事者は仕事への満足感が高いことがわかる(図表2-3-2-1)。成長性の高いビジネス環境にあって成功体験を得やすいことが満足感につながっている可能性もあるが、満足感を得られやすい環境を探した結果としてデジタルビジネス従事者となっていることも考えられる。

図表2-3-2-1:仕事への満足感

 特に満足度が高いのは「仕事自体」に関する項目の「仕事の内容」「仕事の充実感・やりがい」であるが、加えて「職場環境」に関する「職場の雰囲気」や「上司・部下との人間関係」などで高い満足感となっている。相対的に満足度が低いのは「キャリア」に関する項目で「社内での今後のキャリアに対する見通し」などはトータルで満足が不満を上回る結果となっている。また、「給与・報酬」の満足感と比較してやりがいなどの仕事自体の満足感は明らかに強く、やりがい重視の姿勢が見受けられる。

 一方で従来型IT技術者はデジタルビジネス従事者との対比では全体的に仕事への満足感を得られていない。「仕事自体」に関する項目では「仕事の内容」は相対的には満足感が高いものの「仕事の充実感・やりがい」については不満が満足をわずかに上回っている。「職場環境」についても「職場の雰囲気」「上司・部下との人間関係」などもデジタルビジネス従事者との対比では満足感が低い。

2 仕事への考え方・将来性

 デジタルビジネス従事者は総じて仕事を前向きにとらえるとともに、将来性についても当面明るい状況が続くと感じている。デジタルビジネスは市場全体で見れば確実に拡大傾向にあることは間違いない。個々の事業として見れば多くの失敗のなかから少ない成功を生み出すようなビジネスであるとする意見が多いが、そうした環境においてもトータルで見れば将来性を明るいと見るところにデジタルビジネス従事者の内面が現れている。

 前向きさに関する項目としてデジタルビジネス従事者は仕事にポジティブな感情を抱いており「この仕事が好きである」などの項目を肯定している。「仕事の価値」についても、「この仕事には努力や勉強が必要である」などの項目が肯定されている(図表2-3-2-2)。

図表2-3-2-2:仕事への考え方・将来性

 従来型IT技術者においてもその多くが「この仕事が好きである」と前向きに受け止めているものの、「この仕事をしていることを誇りに思う」についてはわずかに肯定されている程度であり、「この仕事には夢がある」については否定が多い。「仕事の価値」については「この仕事には努力や勉強が必要である」「この仕事は専門性が高い」の項目が強く肯定されている。しかしそれと同時に「この仕事は競争が激しい」は肯定と否定が拮抗し「この仕事は最先端である」については否定が上回っている。

 将来性についてはデジタルビジネス従事者は現在から2020年ごろまでは好調が続き、それ以降もおそらく好調だと考えているようである。それと同時に「いつか最先端の技術についていけなくなるのではないか不安である」と強く感じており、単に楽観視をしているわけでもない。その一方で従来型IT技術者は現時点で好調さを実感しておらず、2020年以降はもっと悪くなると考えている。

 なお世の中からの評判に関する「この仕事は人気がある」「この仕事は給与が高い」は2種類の人材でともに否定的にとらえられており、これらはIT技術者全体に共通する就労環境の問題点を示すものと思われる。

3 仕事をするうえで重視すること

 デジタルビジネス従事者は自分自身の仕事にこだわりを持ち、良い仕事をしようと努める傾向を持つと同時に、独りよがりにならず顧客からの評価も意識する性質を併せ持っている。加えて、自社に利益や売上げの面から貢献することも重視している。すなわち、自身の仕事のこだわりが顧客を満足させ、自社の仕事として評価されるというサイクルが達成され、それを実感できるような環境に身を置いていると考えられる。

 デジタルビジネス従事者が重視することのうち「技術者としての価値」を発揮することにつながる項目である「ミスの無い仕事をすること」などはいずれも肯定されている(図表2-3-2-3)。しかし、こだわりが深いだけではなく、「顧客への価値」実現である「顧客やユーザーに評価されること」なども意識している。それと同時に自社に企業人として貢献することも重視しており、「コストを削減すること」だけでなく、「利益や利益率を上げること」「売上を伸ばすこと」も重視していることがわかる。

図表2-3-2-3:仕事をするうえで重視すること

 従来型IT技術者は、デジタルビジネス従事者と同様に技術者としての価値実現を重視する一方で、自身の仕事ぶりが自社のなかで評価されることも重視しているようである。「技術者としての価値」「顧客への価値」に関する項目は概ね肯定的にとらえられておりデジタルビジネス従事者と同じ傾向にあるが、差異が大きいのは従来型IT技術者が「企業人としての価値」のうち利益と売上げの実現を相対的に重視していない傾向にある点である。従来型IT技術者はプロジェクト単位での計画達成が求められやすい環境にあることを反映したものと思われる。

4 キャリア形成の考え方

 デジタルビジネス従事者と従来型IT技術者がキャリアを考えるうえで共通して重視するのは「裁量」と「安定性」であった。これはITに限らずあらゆる業種や職種とも共通するポイントであろう。この項目のなかで唯一、両者が大きく異なる結果を示したのは自身のキャリア決定である。デジタルビジネス従事者は「自分のキャリアは自分で決められる」と考えるのに対して、従来型IT技術者は「自分のキャリアを自分だけでは決められない(企業や周囲の影響を受ける)」とする考え方も持っており、結果はちょうど拮抗している(図表2-3-2-4)。

図表2-3-2-4:キャリア形成の考え方

 また、モチベーションの持ち方は全体として大きく違いが現れた。デジタルビジネス従事者は「社会の期待や想像を超える独創的なサービス・製品を生み出したい」とする考えが強いのに対し、従来型IT技術者では「社会や顧客の既存の要求に着実に応えたい」という考え方も同程度に重視しており、その結果は拮抗している。前述の図表2-3-2-3「仕事をするうえで重視すること」ではデジタルビジネス従事者は「新しい価値を実現すること」と「顧客やユーザーに評価されること」を同じ程度に肯定する結果であった。本項の結果と総合すると、「新しい価値の実現」を重視してくれる「顧客やユーザ」とともに仕事をしていきたいという考え方があるように思われる。これに加え、デジタルビジネス従事者は新しい技術やスキルを学ぶ理由を「必要だから」というよりは「楽しいから」という方向に求める傾向がある。自身が新しさや独創性を追求することで、顧客・ユーザに価値をもたらし、自社が対価を得てビジネスとして成功するという関係性が成立した環境に身を置くことで、そのような志向が備わったのではないかと考えられる。デジタルビジネス従事者が「個人のスキルを究め、高い専門性を発揮することで活躍したい」と思うよりも、「組織や事業を統括し、組織を成長させることで活躍したい」という考え方を重視していることも同様であり、自身と勤め先企業と顧客の三者が成功することへの志向がうかがわれる(注1)。

注1:従来型IT技術者で3つの選択肢の回答が拮抗しているが、設問では「どちらともいえない」を設けずA、どちらかといえばA、どちらかといえばB、Bの4段階で尋ねており、回答が拮抗したことを示している。

5 仕事の魅力や楽しさ

 デジタルビジネス従事者が仕事の魅力や楽しさを強く感じる点は新しい価値の実現であり、「新しい価値を実現できること」などはいずれも肯定する意見が多いが、従来型IT技術者の回答は相対的に少ない(図表2-3-2-5)。また、技術の発揮に関する項目では「ITを使って課題を解決できること」に対し二種類の人材ともに多くが魅力・楽しさを感じている。

図表2-3-2-5:仕事の魅力や楽しさ

 デジタルビジネス従事者は新しい価値や社会変革等をITで実現するという姿勢であり、新しい価値実現を妨げている課題とは何なのかを考え、内発的に取り組む傾向が見受けられる。これに対し従来型IT技術者は課題解決志向が特に強く、技術力の発揮自体に魅力・楽しさがあるという点で違いが現れている。