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デル、直販主軸から脱却する歴史的転換図る

ダイワボウ、ソフトバンクと協業し、パートナー販売に本腰

 デル株式会社は、法人向け流通体制を大幅に変更。パートナーを通じた販売を強化する。2016年1月から、ダイワボウ情報システム(DIS)、ソフトバンク コマース&サービスの2社のディストリビューションチャネルを通じた販売を主軸とし、十数社の大手SIerによって構成される特約店以外は、パートナー販売ルートのすべてを、この2社を通じたものにする。また、これにあわせて在庫モデルを強化。これまで2週間かかっていた納期短縮を図り、3営業日で納品できるようにする。パートナー販売を加速することで、日本におけるシェア拡大に弾みをつける考えだ。

手つかずのディストリビュータールートを活用

 デルは創業以来、デルモデルと呼ばれる直販体制で業績を拡大した経緯もあり、現在でも直販のイメージが強い。だが、国内においてはすでに3割がパートナーを通じた販売。米国では5割以上がパートナー販売となっている。今回の新たな流通施策は、国内におけるパートナー販売比率をさらに高めるのが狙いとなる。

 デルの松本光吉執行役員副社長は、「国内IT市場全体を俯瞰(ふかん)すると、ディストリビューションルートを通じた販売比率は約7割。デルは、残りの3割の市場においては存在感を持っているものの、7割のディストリビューション領域においては、まったくといっていいほど手つかずの状態だった。この販売ルートにおいてデル製品の取扱量を増やすことで、国内における販売に弾みがつく」と語る。

デルの松本光吉執行役員副社長

 これまでは直販が主軸であり、これが同社の販売構成比の7割を占めていた。また間接販売ルートとしては、NTTデータ、伊藤忠テクノソリューションズなどに代表される大手特約店向けの販売と、中小規模の一部販売店を通じた販売体制となっていた。さらに、DISを通じたディストリビューションルートでの販売も行っていたが、取扱量はそれほど多くはなかった。

 今回の新たな流通施策は、法人向けPCなどを中心に展開するもので、十数社の特約店販売以外は、DISおよびソフトバンクC&Sの2社に限定した販売体制とし、この2社を通じて、国内の数千社に対してデルの製品を供給することになる。特約店の一部は、必要に応じて2社のディストリビューターから製品を調達するケースもあるという。

 またデルからは、数千社の販売店に対して製品情報や販促ツールなどを提供する体制を構築するほか、製品や技術に関する販売パートナー向けトレーニングも実施。デル製品を取り扱う販売パートナーの数を一気に拡大させる。

 「昨年11月以降、販売店から受けた見積もり依頼に対しては、デルからは提示せずに、ディストリビューターから見積もりを提示する仕組みへと変更している。再販する販売店をユーザーと見なして、製品を供給するのがこれまでの仕組みだったが、今後は数千社を販売パートナーとしてとらえ、2社のディストリビューターを通じて製品や情報を流通し、トレーニングを実施していくことになる。製品販売における価格政策についても、販売パートナーに納得してもらえるものを用意する」とした。

 また、「技術営業のほか、パートナー経由で販売した製品の品質保証や顧客サポートなどの専門担当者を、この半年間で約50人採用。販売パートナーの支援体制は万全。今後も、さらに人員を倍増させていく」と語る。

 さらに、DISおよびソフトバンクC&Sでは、LatitudeおよびOptiPlex、Vostroなどに関しては、売れ筋製品に限定して在庫モデルを用意。これまで発注後、中国・廈門(アモイ)の生産拠点で生産し、国内の販売店やエンドユーザーに納品するまでに約2週間かかっていたものを大幅に改善。3営業日で納品できるようにする。

 「これまでは、生産拠点に対して、1000台単位でしか発注できなかったものが、2社との協業によって、1万台単位で発注できる体制が整うことになる」として、在庫モデルの積極的な活用により、即納体制の実現と販売拡大を目指す。

 また、2社が用意しているキッティングサービスを活用することで、ユーザーの要求仕様にあわせたカスタマイズを、日本国内で可能にする点も見逃せない。

 NEC・レノボや富士通、日本HP、パナソニックなどが、国内に生産拠点を持ち、それによって、販売店やユーザーに対する短期間での納品や、柔軟なカスタマイズに対応していたが、国内生産拠点を持たないデルは、ディストリビューターのサービスを活用することで、競合他社の動きに追随することができるようになる。

 一方、特定の顧客において、直販部門と販売店が競合する場合には、販売店を通じた商談に決まっても、直販営業の担当者の営業成績の評価に反映できる仕組みとし、パートナー販売を拡大しやすい環境を制度面からも後押しする。

東京、大阪で500人のパートナーを対象に説明

 同社では1月15日に都内で、20日には大阪市内で、「Dell Partner Forum 2016」を開催。東京では360人、大阪では100人以上のパートナー企業の幹部が集まり、同社のパートナー戦略について説明した。

 デルがパートナーだけを対象にしたイベントを開催するのは、日本に進出して23年を経過して、初めてのこととなる。また今回のイベントが、DIS、ソフトバンクC&Sとの共催となっている点も特筆されるだろう。

デルが初めて開催したパートナー向け説明会「Dell Partner Forum 2016」
DIS、ソフトバンクC&Sとの共催で行われた

 都内のイベントでは、DISの安永達哉代表取締役専務、ソフトバンクC&Sの溝口泰雄代表取締役社長兼CEOがパネルディスカッションを行ったほか、デルの平手智行社長、松本光吉副社長も講演を行い、デルがパートナービジネスに本腰を入れる姿勢を打ち出した。

 デルの松本副社長は、「これまでにもパートナー戦略を強化する方針を打ち出してきたが、実行が伴っていなかった反省がある。有言実行が重要である。パートナービジネスにコミットし、これをしっかりと実行していくことにこだわる。パートナービジネスの実行において、デルを信用してもらうことが先決。トラスト&リスペクト(信頼と尊敬)の関係を、じっくりと熟成していきたい」と述べた。

 今回の新たな流通施策は、デルが直販体制から、パートナー販売へと大きくかじを切る歴史的な転換点ともいえ、これによって、国内における販売拡大と、ソリューション販売体制の強化を同時に進めることができる。

 同社では、2018年までに、パートナービジネスを倍増させるとともに、日本におけるパートナービジネスの構成比を5割程度にまで引き上げる考えだ。

大河原 克行