大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ
デル、8月からパートナービジネスを本格的に始動
直販とパートナー販売の構成比で半々目指す
(2014/8/25 06:00)
デルが、パートナービジネスを本格化させる。2014年2月に新設したパートナー事業本部は、この半年間に渡り、事業計画やパートナー向け支援策を立案。8月から「Go To Market(GTM)戦略」の名称でパートナービジネスを強化し、今後数年で、国内売上高の半分をパートナーを通じた間接販売にする考えだ。
「デルモデル」と呼ばれる直販ビジネスが基本戦略であったデルが、デル グローバルコマーシャルチャネルと呼ぶ組織を新設し、全世界でパートナービジネスの拡大を模索しはじめたのが2011年。デルの郡信一郎社長も、「デルにとってダイレクトビジネスとパートナービジネスは、車の両輪と同じ」と位置づける。
デルのパートナー事業本部長である渡邊義成執行役員に、デルのパートナービジネスへの取り組みについて聞いた。
ソリューションプロバイダーへの転換がきっかけに
デルが、創業以来、直販モデルで成長を遂げてきたことは、多くの人が知っているだろう。「デルモデル」と呼ばれるデル独自の直販モデルは、調達、製造、物流までを含めたサプライチェーン全体を網羅。現在でも、電話、オンラインのほか、同社直販営業体制が主体となって、デルモデルの強みを生かしたビジネスを展開し続けている。
だが2007年以降、デルが買収戦略を加速するのに伴い、デルの基本方針は、ハードウェアベンダーから、エンド・トゥ・エンド・ソリューションプロバイダーへと転換。これに伴い、パートナービジネスへの取り組みを模索してきた経緯がある。
箱売りになりがちなハードウェアベンダーから、ソリューション提案を行うソリューションプロバイダーへの変革は、より顧客と密着したビジネスを展開できるパートナーモデルでの展開が最適と判断。2011年から、パートナービジネスを担う「デル グローバルコマーシャルチャネル(GCC)」を設置し、米国を中心に、パートナービジネスへの取り組みをスタートさせていた。
デルのパートナー事業本部長 兼 西日本法人営業統括本部長、渡邊義成執行役員は、「ここ数年の買収で、デルのソリューションポートフォリオが拡大。ダイレクト販売だけで展開するには、もはや、キャパシティの点でも限界があった。優れたソリューションをより多くの方々に活用していただきたい。そのためには、パートナーが持つネットワークを活用することで、深みと広がりを持って、エンドユーザーに提案することができる」とパートナービジネスを本格化する狙いを語る。
「パートナービジネスを本格化するのは、3年前でもなく、1年後でもなく、製品ポートフォリオが拡大したいまこそが最適なタイミング」だと位置づける。
「Go To Market(GTM)戦略」の名称で、パートナー向け戦略を明確化。同様の取り組みは、インドでは5月に、中国では8月にそれぞれ開始するなど、アジア太平洋地域全体で、パートナービジネスを拡大する。
「チャネル」ではなく「パートナー」
GTM戦略には、いくつかのポイントがある。
ひとつは、パートナー事業本部と呼ぶ専任組織の設置だ。
これまでにも、GCC統括本部を設置し、パートナービジネスの本格化に向けた準備を行ってきたが、パートナー事業本部では、従来組織に比べて人員を倍増。さらに、デルとしては初めて「パートナー」という名称を組織名に使うことになった。
「ほかの国の同じ組織では、GCC(グローバルコマーシャルチャネル)という名称を使用していることからもわかるように、『チャネル』という言葉を使ってきた。だが、日本では、ともにビジネスを推進するという意味から、『パートナー』という言葉にこだわった」と、渡邊執行役員は組織名決定に向けた裏話を明かす。
現在、同社のパートナー制度では、最上位となるPremierパートナーと、その下に位置づけられるPreferredパートナーのほか、Registeredパートナーという3つのカテゴリーがある。
日本国内においては、PremierパートナーおよびPreferredパートナーとして、約20社と契約。さらに、Registeredパートナーでは約2000社と契約している。
PremierパートナーおよびPreferredパートナーの数は、この1年でもあまり増加していないが、Registeredパートナーは、この1年で一気に増加している。
「今後1年でパートナーの数を急拡大しようとは思っていない。PremierパートナーおよびPreferredパートナーと、お互いに向き合うことで、きっちりとしたビジネスプランニングを行い、強固な関係を強化することに力を注ぎたい」と、渡邊執行役員は語る。
まずは、デルのパートナー事業本部と、PremierパートナーおよびPreferredパートナーとの関係強化を最優先し、その後、Registeredパートナーとの連携強化を図る考えだ。
パートナービジネスに9割を移管
2つ目には、ダイレクトビジネスの深耕につなげたいという狙いがある点だ。
これは一見すると、デルのパートナービジネスの強化と相反するように見えるが、同社では、結果として、ダイレクトビジネスの強化につながると考えている。
というのも、同社はこれまでダイレクト販売を基本姿勢として法人ユーザーに対応してきたが、パートナービジネス体制の強化とともに、パートナーへの支援体制を拡充できることから、パートナーを通じた提案が効果的であると考えられるエンドユーザーについては、大胆にパートナービジネスへの移管を図るという。
渡邊執行役員は、自ら西日本法人営業統括本部長として、名古屋以西の直販ビジネスを統括する立場にもある。そのポジションからのコメントを求めると、「将来的には、西日本法人営業統括本部が直接担当する顧客数は、10分の1にまで引き下げる可能性もある」と語る。つまり、現在、ダイレクト販売で取引している顧客の9割を、パートナービジネスへと移行することになる。
これにより、デルのダイレクト販売部門においても、ひとつひとつの法人ユーザーに対して、より深堀した提案が可能になり、ダイレクト販売におけるソリューションプロバイダーとしての取り組みを加速できるというわけだ。
また、「ダイレクト販売を行う上で、パートナーとの連携が必要だと考えられる場合には、デルの直販組織も、積極的にパートナー連携を行う仕組みを構築したい」とも語る。
ダイレクト販売においても、パートナーと有機的に連携できる仕組みを構築していく考えだ。
ディストリビュータ向けに在庫モデルを用意
そして、3つ目には、新たなビジネスモデルに乗り出す点だ。
PremierパートナーおよびPreferredパートナーにおいては、ディストリビュータやSIer、リセラーなど、パートナーをいくつかの形態に分類できるが、そのうち、ディストリビュータ向けには、新たに在庫モデルによるビジネスを行うことになる。
まだ詳細は決定していないが、これまでの試験運用をもとに、Vostro、Latitude、OptiPlexといった主力機種を対象に在庫モデルを展開。短期間で納品できる仕組みを用意する。
国内で生産するメーカーに比べて納期が課題とされていたデルにとって、在庫モデルの展開は重要な意味を持つことになりそうだ。
また、SIer、リセラーなどに向けては、ダイレクト販売から顧客の移管を図ることで、新たな顧客層開拓や、深堀を推進していくことになるという。
全員参加型の会議で方針を決める
今年2月にパートナー事業本部を設置してから、渡邊執行役員は、パートナー向けの新たな戦略づくりに没頭した。
そのなかでも中核になる取り組みだったのが、毎日午前8時から約1時間行ってきた渡邊執行役員主催による会議だ。
これは、パートナー事業本部の基本的な方針を決めていく重要な会議。本来ならば同組織のトップが中心となって会議メンバーが構成されるのだろうが、渡邊執行役員は会議室のドアを開け放ち、組織の全員が参加できるようにした。
参加したのは毎回約20人。同事業本部全体の数分の1にあたる。
さらに渡邊執行役員は、会議に参加する限りは、必ず発言することを求めた。発言しない参加者は次回からの出席は認めなかったのだ。それでも参加者の数は減らなかった。
こうした方針決定のプロセスに多くの社員が参加することは、組織内の理解を深めることにもプラスとなった。意見を述べた社員にとっては、自らの意見が方針決定に影響したことで、モチベーションを高めることにもつながったといえよう。
「上から与えられた仕事をやるのでなく、一人一人が参加し、パートナービジネスに対して組織全員でコミットしていく」というのが渡邊執行役員の考え方だ。
短期的な成果よりも長期的な信頼関係構築を狙う
この会議を通じて、渡邊執行役員が柱に据えたのは、「長期にわたるパートナーとの信頼関係を、本気になって構築する」という点だった。
「短期的に成果を追うのではなく、本気でつき合ってもらえる関係を作ることが最優先。社内に対しても、これまでのデルの速度で計画を達成するのは難しいかもしれないが、最も重視すべき信頼関係の構築はしっかりとやっていきたい、と言っている。社内の目標数字の達成は重要だが、それにこだわりすぎると関係に歪みができる場合もある。『デルは、頼りになるベンダーである』といわれるような、信頼感のあるビジネスパートナーになることを目指す」とする。
実は渡邊執行役員は、1998年にデルに入社。16年目を迎える。
当初は中堅・中小企業向けのテレセールスを担当。2006年からは、コンシューマ事業を担当し、オンライン、電話、そしてリアルサイトの運営にも2年間携わった。その後は、500人~5000人までの社員数を誇る企業を対象にしたミディアムビジネスを担当してきた。
つまり、今年2月にパートナー事業本部を担当するまで、パートナービジネスの経験はない。ダイレクト販売主体のデルに長年在籍していればそれは当然のことだ。一方で、パートナー事業本部のなかには、他社から移籍してきたパートナービジネスの経験者がいる。
渡邊執行役員は、「他社のパートナービジネスと同じことをやろうとは思っていない。エンド・トゥ・エンド・ソリューションプロバイダーである、デルならではの取り組みを推進していく」と前置きし、「ダイレクトモデルを経験してきたからこそ、パートナービジネスならではの可能性を感じている。デルを知り尽くしているという私の長年の経験を、パートナービジネスに生かすことができる」とする。
パートナーからのフィードバックを生かして、日本独自のパートナー支援策も展開していく考えだという。そして、トレーニングプログラムや認定プログラムも中長期視点で改善を図っていくことになる。
「パートナーとの双方向コミュニケーションを通じて、共同でビジネスに取り組んでいく」と渡邊執行役員は語る。
渡邊執行役員は、パートナービジネスの基本的方針に、「フレキシビリティ」と「インタラクティブ」を掲げるが、それはパートナーとの密な連携によって実現するものだ。
パートナービジネスとダイレクト販売を両輪に位置づけるデルにとって、渡邊執行役員が持つダイレクトビジネスの経験が、デルのパートナービジネスにどう生かせるかが注目される。
下期中にはパートナーポータルの一本化も
パートナービジネスにおいて、もうひとつのポイントが、デルソフトウェアとの連携だ。
米Dellは、ここ数年で、数多くのソフトウェア企業を買収。日本においては、これらのソフトウェア事業はデルソフトウェアという別法人で展開している。
買収したソフトウェア事業のなかには、それぞれにパートナー網を持ち、それぞれにパートナープログラムで運用していたものもある。現在、デルソフトウェアでは、デル本体とは別のパートナープログラムを用意しているが、これまでデルのハードウェア製品を扱うことがなかったソフトウェアパートナーが、デルのハードウェア製品群を取り扱ったり、デルのハードウェアパートナーも、デルのソフトウェア製品群を扱うといった動きがすでに出ている。
「今年度下期中には、デルと、デルソフトウェアのパートナーポータルを一本化して、相互のパートナーにメリットを享受してもらえる環境を構築する」という。
年内には3分の1以上がパートナービジネスに
現在、日本におけるデルのパートナービジネスの構成比は、すでに約3割を占めているという。年内には3分の1以上の構成比を突破させ、今後、数年でこの比率を50%にまで引き上げる予定だ。
「今年からは、ダイレクト販売よりも高い成長率をパートナービジネスで見込んでいる。今後数年でパートナービジネスを2倍規模に拡大したい」と、渡邊執行役員は意欲をみせる。
デルには珍しく慎重な姿勢で、ビジネスの成長プランを描いているのがパートナービジネスだ。地に足をつけたビジネスを構築することを優先させたパートナービジネスにおいて、その一歩を踏み出したといえる。