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「クラウドだけでなく既存システムとの連携を安全、容易に実現する」~日本IBMのハイブリッドクラウド事業戦略
(2015/4/27 16:17)
日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)は27日、報道向けのクラウド事業戦略説明会を開催。パブリッククラウド、プライベートクラウドのみならず、既存の自社システムまで含めた全方位でシステムにアクセスし、サービスを開発し、顧客に提供する姿勢をアピールした。
米IBMでは今年2月に、ハイブリッドクラウドを全方位で推進する体制変更を行った。日本IBMでも、クラウド事業統括を社長直下の新組織として統合。百数十人規模で、営業、技術担当に加え、ISVやスタートアップ企業を支援するエコシステム・デベロップメントやマーケティング部隊からなる組織を立ち上げた。
IBMでは「Client Firstのハイブリッドクラウド」として、クラウド全般を指すオフプレミス、既存システムを指すオンプレミスという縦軸、豊富な実績と堅牢性の高い既存のシステムをSystems of Record(SoR)、最新技術を活用し顧客満足度の高いサービス型のSystems of Engagement(SoE)という横軸からなる4つの層に位置づけている。
日本IBMのクラウド事業統括担当 執行役員の小池裕幸氏は、「従来は、縦軸でのみ考え、いかにコストを下げる仕組みとしてクラウドを利用するのかが検討されていた。最近になって横軸が新たに加わったが、企業はセキュリティを気にしながら、新しい投資はSoEに向けて行っている。この4方向、すべてをカバーする製品、サービスを提供しているのは、国内ではIBMだけ」とアピールした。
IBMでは4つの方向として、オフプレミスの中でサービスライフサイクルが緩やかなものに該当するIBM製品をSoftLayer、速いものをBluemix、オンプレミスで堅牢性が高いものをz Systems、Power Systems、最新技術を搭載したものをPure Systemsと位置づける。
小池氏は4つの方向すべてを網羅したハイブリッドクラウド戦略を実践している例として、米Citi Bank(以下、Citi)が開発したモバイルアプリ「Citi Mobile Challenge」を挙げた。このアプリは、銀行が顧客に口座を維持してもらうための施策として開発されたもので、飲食を行った際に、参加メンバーが割り勘で支払うために利用することができる。利用したメンバーは、Citiの口座からお金を引き落とすことが可能で、利用者は現金を持ち歩く必要がなくなり、さらにポイントが取得できるというメリットがある。
Citiでは、競合となるのは同業他社だけではないという観点から、従来の銀行像にとどまらない発想を実現するためにスピードを重視。開発者、技術者の発想やアイデアを即具現化していくことが重要だとしている。
このスピードを実現するための施策として、「すべてを技術者がゼロから開発するのではなく、既存のサービスをAPIで連携するAPIエコノミーが不可欠」(小池氏)だとする。IBMだけでなく、ソフト開発会社、ベンチャー企業などがAPIを提供し、そのAPIを活用することでサービス構築までの期間を短縮させることを狙う。これは、「APIを提供する企業にとっても大きなビジネスチャンスが生まれる可能性がある」(小池氏)となる。
IBMではCloud Foundry+OpenStack+SoftLayerによって、アプリケーションの迅速な開発を支援する「IBM Bluemix」を提供。Bluemixのポイントとして、ACE(Application Composition Environment)が重要だと位置づける。
また、APIによってサービス連携を容易に行うことを支援するために、APIデータベース検索を行う「API Harmony」、既存システムとクラウドをセキュアに接続し、Webアプリ、Mobileアプリから企業情報やシステムに接続する仕組みを強化した「Secure Passport Gateway」を提供。
さらに、マルチテナント方式のパブリッククラウド、SoftLayer上の専有スペース、ユーザーがもつプライベートクラウドなどのローカル環境で利用可能な「Bluemix Local」という、3つの異なる環境で利用できることによって、クラウドならではの迅速さと経済性を実現しながら、デプロイ先を選択可能とするといったメリットが出てくると説明する。
この戦略の具体的なアーキテクチャとして、SoRとSoEは、「それぞれ求められているもの、手法、ツールが全く異なるのでお互いに分けて考える。分けて考えるが、セキュアゲートウェイによって連携する。開発は自分でプログラムを書くのではなく、既存のものを組み合わせて作ることになる」(日本IBM クラウド事業統括 クラウドマスターの紫関昭光氏)とする。
既存システム、データとBluemixをつなげるためには、「セキュアゲートウェイは、パブリックなネットワーク上に、企業の既存システムとIBM Bluemixを簡単かつ安全につなげられるトンネルを作るイメージ。オンプレミス側のセキュアゲートウェイクライアントをDockerイメージから作成すると、さらに迅速・簡単に接続することが可能となる」(紫関氏)。
例えば旅館が顧客から取得したアンケート情報の中から、良い意見だけを選んでTwitterで公開し、販促に活用するといった例でも利用する仕組みを構築する場合も、アンケート結果を分析し、良い意見を抽出するアプリケーションや、抽出されたアンケート結果をTwitterにアウトプットするための連携といったものが存在する。「組み立て型アプリケーションは、自分で作るものは少しで、多くの部分は他力本願で構築できてしまう」(紫関氏)。
SoftLayerについても、最新プロセッサへの対応、東京データセンターでも海外と同様にベアメタルが高く評価されるといったアップデートが進んでいる。東京データセンターの業界業務プロファイルとしても、35プロファイルが公開中でさらに増加する見込み。これらを活用した事例も誕生している。
それ以外にも、重要なAPIエコシステムのために、Bluemixのユーザーグループ「BMXUG(ビーザグ)」が発足し、すでに活動を始めているほか、昨年に続き、「IBM Bluemix Challenge 2015」が開催されることが決定した。詳細については5月19日に開催されるIBM XCITE Springで発表される。
「昨年は一般、学生を分けていなかったが、学生さんから分けてほしいというリクエストが多かったこともあって、今回は一般部門、学生部門と2つを募集する。無償環境利用期間も、一般は90日だが、学生は120日とする変化もあり、ぜひ、多くの人に応募してほしい」(小池氏)。