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仮想と現実がリアルに溶け込む、キヤノンの複合現実感システム「MREAL」

人物合成に関する新技術を実装

 キヤノンITソリューションズ株式会社(以下、キヤノンITS)は26日、MR(Mixed Reality:複合現実感)システム「MREAL(エムリアル)」を使い、実在の人物全体を3D仮想映像空間内に正しい前後関係でリアルタイムに合成表示する「人物合成映像システム」の提供を開始した。

現実世界と仮想世界をシームレスに融合する「MREAL」

 MREALは、現実世界と仮想世界の映像をシームレスに融合させる映像技術。コンピュータグラフィックス(CG)のみで表現されるVR(Virtual Reality:仮想現実感)から一歩進んだ、現実と仮想が融合した複合現実を実現する。

MRとは
HMDで実現するキヤノンのMRの仕組み

 キヤノンによる1997年のプロジェクト発足から技術開発、事業性検証を経て、2012年に製品化された。製品はヘッドマウントディスプレイ(HMD)や基本ソフトで構成される。

 HMDを装着した人物の目前に仮想物体を描写し、仮想のモックアップがあたかもそこにあるかのように実寸感覚で体験できる。HMD装着者の視点や視線に応じた映像体験が可能なのも特徴で、HMD装着者は姿勢を変えながら、360度、自分の見たい角度から仮想物体を観察できる。

HMDを装着。目前に仮想世界を描写
自分の手も描写される
人物映像と仮想物体の前後関係を把握し、裏に回り込んだ描写も可能
人物と仮想物体の前後関係を正確に再現する技術
仮想のモックアップがあたかもそこにあるかのように実寸感覚で体験できる

「人物構成映像システム」でさらなる複合現実感を

「人物構成映像システム」の仕組み

 今回の「人物構成映像システム」では、新たに定点カメラや赤外線・磁気・音波センサーを追加することで、現実の人物映像をより正確に描写し、MREALの臨場感を向上させる。

 従来はHMD装着者の手や顔など体の一部しか仮想世界に合成できなかったが、「人物構成映像システム」により、全身をリアルタイムに合成できるようになる。また、各種センサーでHMD装着者の位置を正確に補足することで、人物の体型・姿勢・動き、人物と仮想物体の位置関係も忠実に再現。例えば、車両・大型機械の組み立てや整備において、作業者がムリな姿勢を取ることなく取り回しできるかなど、全身での判断・評価が可能となる。

 人物全身と仮想物体との前後・位置関係も正しく認識されるため、仮想物体の裏に人物が回り込んだ様子を再現できるのも特徴だ。例えば、住宅のショールームを仮想世界として再現し、その中に人物映像を合成。人物が家具の裏に回り込んだりするなど、実際にその部屋にいるような体験および検証が行える。

 この特徴を生かして、大和ハウス工業が戸建住宅を仮想体験できる施設「TRY家Lab(トライエ・ラボ)」を2014年4月にオープンした。体験者の人物映像を抽出し、仮想の住宅室内空間に合成表示することで、季節の日差し変化、カラーバリエーション、間取り変更の検討などが可能という。

従来は肌色の部分など体の一部しか合成できなかったが、「人物構成映像システム」により全身を合成できるように
人物と仮想物体の前後関係も正しく表示

 また、定点カメラを設置することで、HMD装着者の「主観映像」のほか、人物と仮想物体を俯瞰した「客観映像」も外部ディスプレイに表示できるようになった。

「主観映像」と「客観映像」で複合現実を体験できる
現実世界はクロマキー合成する
設備のメンテナンスが無理なく可能かを評価
その様子を客観映像で第三者も確認できる

建築・建設業や製造業へ販売

 販売はキヤノンITS、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)のMA販売事業部、およびMREAL販売パートナーが担当する。ターゲットとなる業種は、建築・建設業、および自動車・大型機械・造船・鉄道・航空機などの製造業。設計・生産・保守における作業性確認などの用途を訴求する。大和ハウス工業のようなセールスプロモーションも対象だ。

販売開始からの導入実績

 販売にあたっては、顧客ごとの用途に応じて、合成処理に必要な背景などの利用環境や付加カメラなどの機器・ソフトの構成が異なることから、顧客ごとにキヤノンITSがMREALをカスタマイズして提供する。このため価格は個別見積もりとなるが、予想価格は2000万円程度となる見込み。まずは売上1000億円以上の大手企業を対象とし、ローエンドモデルの投入などによって順次、準大手(2014年度後半から)や中堅企業(時期未定)へと対象を広げる考え。

川島 弘之