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日立の情報・通信システム事業、2015年度に売上高2兆1000億円を目指す

 株式会社日立製作所(以下、日立)は12日、情報・通信システム事業の事業戦略について説明。2015年度に、情報・通信システム事業において、売上高2兆1000億円、海外売上高比率35%、営業利益2000億円、営業利益率9.5%のほか、サービス売上高比率を65%以上、グロスマージンは2012年度比で2.8ポイント改善、販売費および一般管理費比率では0.8ポイントの改善を目指すとした。

業績の推移
2015年度事業計画

社会イノベーション事業をITでけん引

 日立 情報・通信システムグループ長兼情報・通信システム社社長の齊藤裕執行役副社長は、「グローバルメジャープレーヤーを目指した事業拡大、収益力強化を推進するとともに、日立全社の成長を支える形で事業を進めていく。社会イノベーション事業をITでけん引し、顧客価値をOne Hitachiによって提供していく」と、中期的な方向性を示す。

 その一方、「昨年の時点では、2015年度には営業利益率で10%を目指すとしていたが、それを今回は9.5%とした。0.5%減ったのは、2015年度に研究開発投資を0.5%増やしたためだと受け取ってもらっていい。収益をあげることも大切だが、マーケットで勝たなくてはならない。そのための投資も必要である。だが、グローバルで戦うためには、2000億円を超えるキャッシュフローにはこだわっていきたい」とも話している。

社会イノベーション事業をITでけん引するとともに、顧客価値をOne Hitachiによって提供していく
日立 情報・通信システムグループ長兼情報・通信システム社社長の齊藤裕執行役副社長

 2015年度のセグメント別売上高は、システムソリューションが1兆2490億円、営業利益は990億円。プラットフォームの売上高が9690億円、営業利益が800億円、通信ネットワークの売上高が2030億円、営業利益が190億円とした。また齊藤氏は、65%以上としている2015年度のサービス売上高比率に関して、具体的には68~69%の水準を目指す考えを示した。

 同社では、ソリューション提案力強化、ITサービス基盤強化を通じて、グローバルサービス事業に対応した経営モデルを確立。グローバルサービス事業拡大に向けて高付加価値化を推進することで、サービス事業のポートフォリオの変革に挑む考えであり、日立データシステムズの製品力をベースとしたソフトウェア・サービス事業の拡大とともに、日立コンサルティングの上流コンサルティングを通じて社会イノベーション事業をけん引していく姿勢を示した。

グローバルサービス事業強化を5つのポイントで推進

5つのポイントで、グローバルサービス事業を高付加価値化

 さらに今回の説明のなかでは、グローバルサービス事業の強化という観点での取り組みを強調。「社会イノベーション事業の取り組み加速」「日本市場における品質と信頼性のさらなる向上」「グローバルでのバリューチェーン全体へのサービス化拡大」「グローバルで実績のあるストレージプラットフォームをソフトウェア・サービスでさらに高付加価値化」「新たな顧客価値実現に向けた投資」という点から、グローバルサービス事業について説明した。

 「社会イノベーション事業の取り組み加速」では、情報活用による革新を通じて、日立グループの強みを生かした社会イノベーション事業を推進。BIやデータ分析によるコンサルティング力強化に取り組むなど、ソリューション提供力の拡充を掲げる。また、世界の現場で対応するためにビッグデータラボの拠点展開を拡充するといった動きにも取り組む考えだ。

 「日本市場における品質と信頼性のさらなる向上」では、日本で求められているイノベーションに対応した体制を構築すると語る一方、「過去2年間の取り組みによって、不採算案件はおおむね収束し、着実にコントールできるようになった。プロジェクトマネジメントの徹底強化により、上流からのリスクコントロールを実行。提案力を強化したい」とした。

 また、静岡銀行と次世代基幹システムの構築を基本合意したこと、年金一元化や番号制度の導入に伴うシステム開発などへの例をあげ、大型SI案件の完遂に取り組むことも強調した。

社会イノベーション事業の取り組み加速
日本市場における品質と信頼性のさらなる向上

 「グローバルでのバリューチェーン全体へのサービス化拡大」では、金融チャネルソリューションにおけるATM機器事業の取り組みを例にあげながら、「ATM機器事業においては、装置/モジュールから保守サービスまで一貫提供している。

 さらに、今年3月にはインドのPrizm Payment Servicesを買収し、ペイメントサービスを開始した。こうした実績を生かしてアジア各国にペイメントサービスを提供していきたい。現在約2万台のペイメントサービスを、今後3年間で約5万台に拡大する」としたほか、「この分野ではM&Aも含めて事業を拡大していく」と述べた。

 「グローバルで実績のあるストレージプラットフォームをソフトウェア・サービスでさらに高付加価値化」という観点では、ストレージソリューション事業の売上高を2013年度の4390億円から、2015年度には4800億円に拡大。「2014年4月には、エンタープライズ向けストレージプラットフォームのHitachi Virtual Storage Platform G1000を製品化した。データをインテリジェンスに変換する基盤により、顧客のビジネスイノベーションを支えるようなプラットフォーム事業を構築したい」と語った。

グローバルでのバリューチェーン全体へのサービス化拡大
グローバルで実績のあるストレージプラットフォームをソフトウェア・サービスでさらに高付加価値化

 「新たな顧客価値実現に向けた投資」では、ビッグデータラボの設置や、日本における日立システムズパワーサービスの発足による社会インフラ向けサービスの強化、アジアでの金融チャネルソリューションの強化、サービス事業の強化などに触れ、「北米にグローバルサービス事業の司令塔を置き、ターゲット地域において事業を積極的に推進していく」という。

 2013年度における海外売上高は5884億円だが、これを2015年度には7350億円に拡大。日本国内の人員は、5万6200人から2015年度には5万6300人へと微増だが、海外の人員は1万8700人から2万1700人へと拡大。「北米、欧州ではソリューション提供力強化に向けた投資継続を行い、アジアではアライアンスによるサービス提供拡大、日系グローバル企業との協創推進、中国ではOne Hitachiでの顧客アプローチ強化によるソリューション事業の拡大に取り組む」とし、ここでは、日立データシステムズ、日立コンサルティングを核としたソリューション提供の拡大と社会イノベーション事業の開拓が鍵になるとした。

新たな顧客価値実現に向けた投資
海外売上高を2015年度には7350億円へと拡大したいという

キャッシュフロー拡大と戦略的投資で成長を目指す

 さらに、情報・通信システム事業における経営基盤に強化についても言及。「キャッシュフローの拡大と戦略的投資の実行を図りながら、成長することを目指す。Hitachi Smart Transformation Projectの推進効果とともに、バーチカルを中心とした成長分野への投資拡大、戦略的投資案件の厳選、保有資産の有効活用と総資産の圧縮に取り組む。また、連結ベースでの人財ポートフォリオマネジメントの強化を行い、グローバルに通用するエキスパート人財育成の継続的強化と最適配置を行う。さらに、顧客業種の経営環境変化に対応して、スピード感を持ってビジネススキームの変革に取り組む」と語った。

 Hitachi Smart Transformation Projectでは、2013年度実績で160億円のコスト削減効果があったが、2014年度には150億円、2015年度には220億円のコスト削減効果を見込み、「2011年度~2015年度までの累計では650億円のコスト削減効果を見込んでいる」とした。

財務基盤を強化
Hitachi Smart Transformation Projectの進ちょく状況

 一方、ビッグデータについては、2015年度に1500億円の売上高を目指す計画には変更はなく、「いまのところ順調に進んでいる」(日立 情報・通信システム社システム&サービス部門の塩塚啓一CEO)とした。

 なお、今年5月15日に明らかになった、日立社員による国立国会図書館の内部情報の不正閲覧および複写した事件については、「当社が国立国会図書館の情報資産を運用する形となっているが、そこで閲覧してはいけないものを見るという、あってはならない事件が起きた。徹底して調査をした結果、なぜこうしたことが起こったのかという点についてはすでにまとめた。現時点で、対策、処分については話せないが、今後、私の処分も含めて、説明する機会を設けたい」(齊藤氏)と語った。

大河原 克行