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「IBMはLenovoとクラウド市場を獲りに行く」、x86事業売却をイエッター社長が説明

 「IBMとLenovoは、クラウドビジネスでのプレゼンスを強めていくために今回の提携を行った。これは(単なる事業売却ではなく)戦略的な協業だ」――。3月6日、日本IBM 代表取締役社長 マーティン・イエッター氏は報道関係者向け説明会の席上、同社のx86サーバー事業売却についてこう強調した。

 既報の通り、米IBMは年明け早々にx86事業を中国Lenovoに売却する計画を発表し、世界中のIT関係者を驚かせた。IBMがサーバー事業から撤退するのではといううわさは以前から流れていたが、売却先がLenovoだったことに加え、POWERベースのポートフォリオは手元に残しつつ、リソースそのものからサービスに至るまでx86に関する事業をすべて売却する、という同社の選択を疑問視する声は少なくない。

 「IBMのx86事業はここ1、2年、非常に順調に推移しており、特に日本市場での伸びは大きい」と語るのはIBM本社でSystem x事業を統括するアダリオ・サンチェス(Adalio Sanchez)氏。ではその順調なビジネスをなぜLenovoに売却するのか、説明会の内容をもとに今回の事業売却の背景を考察してみたい。

IBM→Lenovoに移るポートフォリオ

IBM本社でSystem x事業を統括するアダリオ・サンチェス(Adalio Sanchez)氏
IBMとLenovoのパートナーシップは2005年から友好的に発展してきた

 イエッター社長はこうしたプレス向けの説明会にはほとんど登場しない。そのイエッター社長が自らプレゼンを行った大きな理由として、IBMとLenovoの間における長期的なパートナーシップを強調することが挙げられる。プレゼン中、何度も「戦略的な協業(strategic collaboration)」というフレーズを繰り返していたところに、単なる事業売却/市場撤退ではないというIBMの主張が見えてくる。

 では、IBMはなぜLenovoを売却先に選んだのだろうか。発表前には富士通やDellなどの名前も取りざたされていたが、イエッター社長は「2005年にPC事業をLenovoに売却して以来、IBMとLenovoは非常にちかしい関係にあり、パートナーシップを深めてきた。LenovoはIBMのPC事業を取得して以来、世界のPC市場でトップシェアを誇っている。そしてx86事業で成功してきたわれわれが、x86サーバー市場でシェアを高めたいとするLenovoに事業を譲渡するのは(パートナーとして)ごく自然な流れ。LenovoであればIBMのx86サーバーをより成長させることができる」と、あたかもLenovo以外に選択肢はないかのように、その関係の深さを強調する。

 ここで今回の発表によりIBMからLenovoに移るx86ポートフォリオをあらためて振り返ってみたい。

・ハイエンドサーバー … X6
・ブレードサーバー … IBM Flex System、IBM BladeCenter
・ラック型/タワー型サーバー … IBM System x
・高密度サーバー … IBM NeXtScale、IBM IDataPlex
・その他スイッチ製品

 これらに加え、サービスやセールスにかかわる従業員もそのままLenovoに移籍する。サンチェス氏も同様にLenovoに移る予定で、引き続きx86事業を指揮することになる。なお、すでにIBMからx86製品を購入した顧客に対しては「取引完了後、5年間にわたってIBMが保守サービスを提供する」(サンチェス氏)としており、IBMと保守契約を締結している顧客は、期間中の保守サービス変更はないという。

 「今回の発表は、単にトランザクションが少し変更になっただけで、お客さまは何ら変更を感じることはない。これまでと同じ人間が同じ製品を同じように販売し、同じサービスを同じ場所で提供していく。Lenovoが中国の企業だから心配しているお客さまがいる? Lenovoはグローバルカンパニーだ。何も心配するようなことはない」(サンチェス氏)

IBMはバックエンドにフォーカスする

日本IBMの代表取締役社長、マーティン・イエッター氏

 今回の発表で最も注目したいのは、POWERアーキテクチャに関してはIBMはそのまま維持していくという点だ。例えばFlex Systemについては、Lenovoに売却するのは「PureFlex」などx86製品のみであり、「PureFlex(POWER版)」「PureApplication」「PureData」といったPOWERおよびPOWER/x86混在製品はIBMが開発/販売を続けることになる。

 「POWERはIBMにとってのバイタルであり、手放すことはない。メインフレームについても同様」とイエッター社長。つまり汎用性の高いx86製品はLenovoに渡し、IBMは自らのハードビジネスにおける主戦場をHPC寄りに移したといえる。

 ここでIBMが「好調なビジネスを続けている」というx86事業をLenovoに売却するのは、むしろ好調なうちにx86を渡さなければ、“規模の経済”を基準にした価格競争で疲弊し、POWERを軸としたHPCで勝てなくなる可能性が高くなるだろう。

 現在のクラウドやデータセンター、あるいはスーパーコンピュータで使われているハードウェアはx86が主流だ。にもかかわらずIBMがx86を手放すのは、「壊れないハードウェア」によりコミットすることで、新たなクラウド/データセンター市場を開拓したいという同社の意図が見えてくる。

 「両社でクラウド市場を獲りに行く」というイエッター社長の発言からも、いわばクラウドのフロントエンドはLenovo、バックエンドをIBMで固めていくというアプローチを採っていこうとしているのがわかる。

 単なる事業売却ではなく、クラウドにおける攻め方を変えるための"戦略的な提携"が市場にどんな影響を与えるのか。今後の変化に注目していきたい。

五味 明子