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エンタープライズも“はじめにモバイルありき”~日本IBM、「Worklight 6.0」などモバイルファースト製品群を強化

日本IBM 専務執行役員 ソフトウェア事業担当 ヴィヴェック・マハジャン氏

 日本IBMは6月13日、同社のモバイルコンピューティング基盤構築支援ソリューション群「IBM MobileFirst」の強化を発表、モバイルアプリケーションプラットフォーム「Worklight 6.0」や新ソフトウェア製品、新アプライアンスなどの提供を開始した。日本IBM 専務執行役員 ソフトウェア事業担当 ヴィヴェック・マハジャン氏は「変化の激しいIT業界の中にあって、とりわけモバイルはそのスピードが速い。エンタープライズが抱えているオンプレミスとの連携やセキュリティといった課題を解決しながら、現在のモバイルの流れにキャッチアップでき、なおかつ統合されたソリューションを提供できるのはIBMだけ。今回の強化で一段とその優位性が高まった」と語る。

 今回新たにリリースされた製品は以下のとおり。

・「Worklight 6.0」:機能テスト自動化ツール、情報収集/分析機能、Geo Location(ジオロケーショon)サービスを追加
・「IBM MessageSight」:モバイルデバイスを含むM2M(Machine to Machine)通信で発生する大量の情報をセキュアに送受信するアプライアンス
・「IBM Business Process Manager V8.5」:モバイルデバイス向けUIの作成などモバイル機能の強化をはかったビジネスプロセスの可視化と管理機能を提供するソフトウェア

 今回のMobileFirst製品群強化においてもっともIBMが注力しているのがWorklight 6.0の機能拡張だ。IBMは今年2月、エンタープライズ向けモバイルアプリ開発を得意とするイスラエルのソフトウェアベンダWorklightを買収したが、この買収をきっかけにIBMのモバイルファースト戦略が本格的に始まったともいえる。現在、WorklightはIBMのMEAP(モバイルエンタープライズアプリケーションプラットフォーム)製品として、モバイルアプリケーションの開発からデプロイおよび運用に必要な機能を提供する。

 6.0となったことで、

・Worklightで開発したモバイルアプリのテストにおいて、1つの端末の操作記録を他の異なる機種の端末で自動再生が可能になり、複数の端末やOSのアップデートに伴うテスト作業を軽減、短いサイクルでの開発を実現
・バックエンドサーバに接続するモバイルアプリケーションのログを収集/分析することで、障害やセキュリティアラートへの迅速な対応やカスタマーエクスペリエンスの向上を支援
・ユーザの行動範囲をエリア化して把握する「Geo Fence(ジオフェンス)」による正確な位置情報で接続頻度を減らし、電源などのリソース負荷を軽減するほか、位置情報を活用したモバイルアプリケーションによるビジネス創出を可能に

 といった機能を活用できるようになり、モダンでリッチななモバイルアプリケーションの開発/活用がエンタープライズでも実現するとしている。

IBM MobileFirst製品群の全体像
IBM Worklight 6.0
Worklight 6.0で強化された位置情報サービス
IBM Business Process Manager 8.5

モバイルアプリが企業のブランド力の証明になる

競合他社に比較したIBM MobileFirstの優位点

 日本IBM ソフトウェア事業 WebSphere事業部長 三戸篤氏は、これからのエンタープライズモバイルが取り組むべき指針として、以下の3点を挙げる。

・モバイル“にも”対応するのではなく、モバイルに“まず”対応する
・モバイルの単体利用ではなく、バックエンドとモバイルをつないだ活用を
・モバイルの利用を基軸にしたプロセス、顧客に対して新しいサービスを提供するプロセスを構築する

 「単に携帯電話でメールやスケジュールを確認するだけの時代はもう終わった。現在では、睡眠時間を除くほとんどの生活時間帯をモバイルでつなぎながら過ごしている人が多数を占める。いまやモバイルそのものが新しいビジネスモデルであり、企業の成長に直結することは明らか。モバイルを基盤としたアプリを作ることがブランド力の証明になり、逆にそれができなければビジネストランザクションの危機に陥る」(三戸氏)。

 エンタープライズにおけるモバイル利用はここ1、2年で劇的に増大しているが、デスクトップの世界と異なり、モバイルはテクノロジの進化が速く、機種やOSのアップデートが頻繁に行われ、その種類も非常に多い。従来のエンタープライズアプリケーション開発の常識にとらわれていると、あっという間にトレンドの外に追いやられてしまう。また、ことモバイルに関してはユーザーはその使用感に我慢することは少なく、アプリケーションのUIが使いにくかったり、起動が遅かったりすれば、そのアプリを使うことはなくなってしまう。アプリケーションは開発して終わりではなくつねに改善が必要になり、また障害によるダウンタイムの発生なども極力避ける必要がある。これまでよりもはるかに速く短いアプリケーションライフサイクルをいかに克服していくのか、これがエンタープライズモバイルの大きな課題となっている。

 IBMはここ最近、モバイルファースト/クラウドファーストを強く提唱しており、6月初旬に米オーランドで開催されたテクノロジサミット「Innovate 2013」においてはDevOpsを前面に掲げていた。これは同社がアプリケーション開発の主戦場をモバイル/クラウドに定めたことを意味しており、コンシューマに比べてその対応が遅れているエンタープライズ企業に対し、同社の豊富な製品ポートフォリオでもって積極的に展開していく戦略だ。

 Worklight 6.0をはじめとする今回のMobileFirst製品群強化は、その優位性を一段と高めることが狙いだと見られる。今後も「自社開発に加え、買収やパートナーシップ提携など積極的にモバイルに投資していく」(三戸氏)というIBM。「お客様が我々に期待しているのは新しいマーケットを作ること。モバイルでそれができるのはIBMだけ」とマハジャン氏が言うように、モバイルエンタープライズ市場をどれほど活性化させることができるかに注目したい。

(五味 明子)