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OSにもデバイスにもネットワークにも縛られない企業クラウドを~アイネットとACCESSが提携

田口勉氏

 アイネットとACCESSは21日、企業向けクラウドサービスにおける業務提携を発表、両社のそれぞれの強みを生かした新たなクラウドサービス基盤の構築および企業向けクラウドサービスの企画/開発を共同で進めていく旨を明らかにした。アイネット 常務取締役 事業統括 田口勉氏は「お客さまはもうサーバーの仮想化だけでは満足しない。データセンターとクラウドインフラを事業の要とするアイネットと、HTML5とSDN(Software Defined Network)に強みを有するACCESSが提携することで、クラウドの新たな付加価値をお客さまに提供していく」と語る。

 今回発表された両社の提携の骨子は、アイネットが保有するデータセンターとクラウドサービス上に、ACCESSのネットワーク仮想化ソリューション「ACCESS SDN Solutions」を導入し、新たな企業向けクラウドサービス基盤を構築するというもの。加えて新たなクラウド基盤上で稼働するアプリケーションサービスを両社で順次、企画/開発していくとしている。特にACCESSが得意とするHTML5技術を活用し、タブレットやスマートフォンなどのモバイルデバイスに対応したSaaSソリューションの提供に注力する構えを見せている。

 現時点で予定されている新クラウドサービスは、企業向けチャットソリューション「thresh」、デジタルサイネージ「Dream Signage」、ゴルフスイング3D解析製品「Fullmiere(フルミエル)」の3つ。これにより、アイネットがすでに提供するコロケーションサービスやITマネージドサービスに加え、IaaS/PaaSからSaaSまで幅広いレンジのクラウドサービスをポートフォリオとして展開できることになる。

デジタルサイネージ「Dream Signage」
ゴルフスイング3D解析製品「Fullmiere(フルミエル)」

 アイネットは首都圏(横浜)にすでに延床面積1万6,400平方メートルおよぶ3棟のデータセンターを保有しており、現在は新たな棟を建築中で、工事が完了すれば延べ床面積2万2,000平方メートル、ラック数は3,000に拡大することになる。また、北海道には100ラックのバーチャルデータセンターを開設、ディザスタリカバリやバックアップなど、クラウドのリスクコントロールのための遠隔地サイトとしてユーザーに活用されている。

 この国内有数のデータセンターリソースを生かして、400社を超えるユーザーに対しコロケーションサービスやITマネージドサービス、ストレージサービスなどの企業クラウドサービスを提供してきたが、「ビッグデータ時代といえる現在、クラウドサービスは新たな方向へと舵を切るときを迎えている。サーバー仮想化を超えたクラウドのベネフィットをお客さまに提供する必要がある」と田口氏は指摘、特にモバイルデバイスへの対応、そしてM2MなどのNon-Web系への対応が重要になってくるとしている。

 そうした新しいクラウドの価値を顧客に届けるために、ネットワーク仮想化技術(SDN)とモバイル(HTML5)に強いACCESSの技術を取り入れ、クラウドインフラからアプリケーションレイヤまでオファリングできるサービスプロバイダとして新たなビジネスの展開を図るのが今回の提携におけるアイネットの狙いだ。

 一方のACCESSは「次世代クラウドとは、OSフリー、デバイスフリー、ネットワークフリーという3つのフリー(3F)が特徴。そうした次世代クラウドの実現にはSDNとHTML5が欠かせない」(ACCESS 取締役 副社長執行役員 兼 最高執行責任者 楢崎浩一氏)としており、今回の提携はこの分野で多くの実績を重ねているACCESSの技術力の高さをアピールする機会となる。

 特にSDNに関しては、ネットワークおよびデータセンターの複雑化を解消する技術として注目されながらも、大手ネットワーク機器ベンダの足並みの乱れなどにより、突出したリーディングプロバイダ/ソリューションはまだ登場していない。もし早いタイミングでアイネットの潤沢なデータセンターリソースをベースにしたクラウド基盤をACCESS SDN Solutionsでもって構築できれば、ACCESSはアイネットともにネットワーク仮想化における優位性を確保できることになる。

 国内、それも首都圏にある大規模なデータセンターリソースをベースに構築される、ビッグデータとモバイルをにらんだ次世代の企業向けクラウド基盤。全国のガソリンスタンドにおける売り上げ事務の合理化を図る企業として設立されたアイネットは今後、店舗、工場、倉庫、各種施設などの現場でも活用されるクラウド基盤の構築およびアプリケーションの提供をめざすとしてる。そうした環境ではモバイルデバイスやセンサーから発信されるさまざまな構造のデータが、高い頻度で大量に蓄積されることになる。

 アイネットが提供するクラウドサービスは「仮想化環境としてはCitrixとVMwareの両方に対応しており、他社クラウドとの連携も可能。オープンであることが大きな特徴」と田口氏は強調するが、これにSDNの柔軟性とHTML5の汎用性が加われば、企業向けクラウド市場でのリーチを大きく広げることも可能だ。"仮想化だけでは満足できない企業ユーザー"が満足するクラウドポートフォリオをどれだけ広範かつ迅速に提供できるかが、今回の提携のカギを握ることになるだろう。

(五味 明子)