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ネットワーク仮想化を徹底的にオープンな仕組みで~日本IBM、新コンピューティングモデル「SDE」を発表

日本IBM 専務執行役員 システム製品事業担当 三瓶雅夫氏
IBMへのSDNの取り組み

 日本IBMは11日、ユーザーのワークロードに応じて自動で最適化されたコンピューティングリソースを割り当てるコンピューティングモデル「Software Defined Environment(以下、SDE)」のコンセプトを発表。これに準拠した製品の第一号としてネットワーク全体の仮想化をオーバーレイ方式で実現するソフトウェア「IBM Software Defined Network for Virtual Environments VMware Edition(以下、SDN VE)」の提供を開始した。

 日本IBM 専務執行役員 システム製品事業担当 三瓶雅夫氏は「サーバーやストレージの仮想化は進んできたが、ネットワークの仮想化はかなり遅れており、これがシステムのボトルネックとなっている。徹底的にオープンなテクノロジでもって、お客さまのシステムで稼働するワークロードを抽象化し、最適なリソースを継続的に自動でマッピングしていくことがSDEの狙い」と語り、ハードウェアからソフトウェアまで、今後IBMが提供するさまざまな製品にこのコンセプトを実装していくとしている。

 新たなバズワードとなっている“SDN(Software Defined Network)”を思い起こさせるSDEだが、そのコンセプトはSDNというよりは企業内クラウドの自動化に近く、ソフトウェアによるITリソースの最適化と自動マッピングを企業内システムに拡げることで、これまでサイロ化されていたワークロードをプール化し、柔軟な変化を可能にするシステムを動的に構築しようとするコンピューティングモデルだ。

 三瓶氏はSDEがもたらす価値として、手作業で実施していたシステム構成を動的かつ自動的に行うことで変化に対して迅速に対応する「アジャイル」、さまざまなワークロードを無駄なく最適なコンピュータリソースに割り当てることで効率化を図るとともに、構築や運用/保守のコストを削減する「効率」、OpenStackやOpenDaylightといったオープンなプロトコルに対応し、ハイブリッドクラウドの容易な構築とベンダロックインからの解放を提供する「オープン」の3つを挙げ、IBMが提唱する次世代インフラビジョン“Smarter Computing(ITインフラの効率化を図るクラウド/行動につながるインサイトを引き出すデータのリアルタイム分析/脅威やコンプライアンスに対応したセキュリティの3つをコアとするインフラ)”に近づくコンセプトだとしている。

 「今後はIBMが提供していくあらゆる製品のなかで、ワークロードのパターン化(ひな形化)を進めていく。すでにPureSystemsには多くのパターンを実装しており、ワークロードを“速く、安く、オープンに”デプロイすることに成功している」(三瓶氏)。

SDEのコンセプト
SDEの価値で重要なのはオープンであること
SDN VEの製品概要
SDN VEによる導入効果
従来ネットワークとSDNのちがい

 ここで三瓶氏が言う“ワークロード”とはIBMが同社の顧客8000社のシステムを分析した結果に基づくもので、「トランザクションデータベース」「ビジネス・アプリケーション」「アナリティック」「Web/コラボレーション」の4つに大別できる。これまでは、たとえば受発注、物流、人事/給与、情報系と個別にサイロ型システムが構築されるケースが多かったが、今後はワークロードごとにインフラを抽象化/プール化し、継続的に最適化を図ることでSDEを実現していくとしている。

顧客の業務を構成する4つの主要なワークロード
個別サイロ型インフラからクラウド最適型インフラへ

 SDEを実現するにあたっての最大のボトルネックは「ネットワークにある」と三瓶氏。サーバーの仮想化もストレージの仮想化もかなり普及したが、ネットワークはまだそのスピードに追いついていないという現状はよく知られている。

 これを解決する製品の第一弾が物理ネットワークに変更を加えずに自動で仮想ネットワークの構築を可能にする“オーバーレイ型”を実装したSDN VEとなる。名前の通り、仮想環境(VMware)上でSDN(Software Defined Network)を実現するソフトウェアで、VMware上で稼働する分散仮想スイッチと仮想アプライアンス製品として提供される。既存のL2/L3スイッチにデータ転送機能をかぶせるオーバーレイ方式を採用しており、物理ネットワークに手を加えることなく、仮想ネットワーク(SDN)を柔軟かつ迅速に構築することが可能だ。

 なお、日本IBM システム製品事業 System x事業部 ビジネス開発 瀧谷貴行氏は「SDN VEではオーバーレイ方式を採用したが、IBMはホップバイホップ型のOpenFlowコントローラの提供も行っており、お客さまの環境に応じて最適なソリューションを提案する姿勢」としている。また、KVMやHyper-VといったVMware以外のハイパーバイザに対応したエディションや、KVMエディションのオープンソース提供も予定しているという。「今後は、ネットワーク仮想化エンジンを中心にOpenDayLightに対して積極的にコントリビュートしていく。徹底的にオープンに進めていき、他のベンダからのロックインを防ぐだけでなく、IBMだけで囲い込むようなことは絶対にしない」(瀧谷氏)とSDEにおけるオープン化への取り組みを強調する。

SDN VEのライセンス価格は物理サーバー1ソケットあたり2万2100円からで、240ソケット/1年間のサブスクリプション&サポート付きの標準価格で530万4000円。

(五味 明子)