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IBMにしか作れない新たな市場の創造がミッション~日本IBMがソフト事業戦略を発表

ヴィヴェック・マハジャン氏

 「ソフトウェア事業の成長はIBMの成長そのもの、2013年は昨年の戦略を引き継ぎながら、新たな市場を創出することがIBMに課せられたミッション」――1月16日、日本IBM 専務執行役員 ソフトウェア事業担当 ヴィヴェック・マハジャン氏は同社の2013年ソフトウェア事業戦略説明会の冒頭、こう宣言した。昨年、IBMはハードウェアとソフトウェアの垂直統合ソリューションである「PureSystems」のラインナップを発表したが、2013年のソフトウェア事業はPureSystemsを基軸に置きながら、2012年の戦略をさらに拡大展開していく方針のようだ。本稿ではマハジャン氏の説明をもとに、2013年におけるIBMのソフトウェア事業の方針を概観してみたい。

2012年の戦略の結晶は「PureSystems」

 2013年の戦略の前に、マハジャン氏はまず2012年の戦略を振り返っている。昨年のソフトウェア事業が重点分野として掲げていたのが、「ビッグデータ」「ソーシャルビジネス」「セキュリティ」「モバイル」の4つだ。このほかにも「基盤系ミドルウェアも非常に好調な1年だった」(マハジャン氏)としている。

 そして2012年において、同社にとって最も重要な製品として発表されたのがハードウェアとソフトウェアの垂直統合型ソリューション「PureSystems」シリーズだ。ネットワーク・サーバー・ストレージ・仮想化・管理機能などを1つの筐体内に統合したインフラストラクチャシステム「PureFlex System」、PureFlexにミドルウェア・データベース・Webアプリケーションサーバーなどをパターン化して組み込んだ「PureApplication System」、ビッグデータや大規模データウェアハウジングのニーズを受けて登場したNeteezaの後継機「PureData for Transactions」「PureData for Analytics」がある。

 ソフトウェア事業においては、PureApplicationとPureDataが今後の事業戦略の核として位置づけられるとマハジャン氏。「PureSystemsはIBMが何十年ぶりにニューヨークで発表を行った、今後のIBMの全事業のベースとなる製品。市場での評価も高く、今年も継続的に新しいイノベーションを生み出す存在となる。コンペティターはいない」と自信を見せる。

2012年の4つの注力分野
戦略の中核となるPureSystems

2013年のIBMソフトウェア事業が注力する4つの分野

 PureSystemsを戦略の基軸とするIBMだが、2013年のソフトウェア事業はこれをベースにどんなステップアップを狙っているのか。マハジャン氏は「我々が市場やお客様から求められていること」として、「グローバルのベストプラクティスによる日本の顧客の競争力強化の支援」「先進テクノロジによるITの変革」「新たな市場の創出によるIT業界の活性化」の3つを挙げている。

 「グローバルのベストプラクティスはIBMが最強であり、世界のどこに行っても、たとえばアフリカに行ってもIBMが強い。世界が使っている製品で日本のお客様の競争力を高めていく。また、市場がIBMに期待しているのは新しいテクノロジの創出であり、コモデティではない。PureSystemsも新しいテクノロジに対するニーズからスピンアウトしたもの。コモデティではなくニューテクノロジ、これはIBM全社に共通する戦略である。そして新たな市場の創出は、いま日本のお客様が最も我々に求めていること。市場が我々に期待していることの現れであり、我々の義務でもある」(マハジャン氏)

 この市場からの声を受けて、「2013年にIBMのソフトウェア事業が必ずやらなければならないこと」としてマハジャン氏は以下の4つの項目を挙げている。

1. PureSystemsとMobile Enterpriseで実現する柔軟で俊敏なIT基盤の構築

 「PureSystemsにコンペティター(競合)はいない」と改めて強調したマハジャン氏。データセンターやクラウド市場をメインターゲットにした、ハードウェアとソフトウェアを1つの筐体に収めた垂直統合システムは他社にもあるが、「PureSystemsは単にハードとソフトを組み合わせただけではない。用途に応じて最適に稼働させるためのパターン(Webアプリケーション、BPM、データマートなど)とアプリケーションが重要。銀行には銀行の、製造業には製造業のパターンがある。お客様のニーズに最適なパターンを提供できるのはPureSystemsだけ」とその優位性を強調する。今後はさらにPureSystemsラインナップの拡充をめざすという。

 そしてPureSystemsが基盤となるクラウド環境と密接な連携を果たすために、いまや欠かせないのがMobile Enterprise、エンタープライズで安心して使えるモバイルになる。IBMは「モバイルアプリケーションの構築とバックエンドとの連携」「エンドポイントセキュリティと管理」「既存ビジネス機能のモバイルへの拡張と新たな機会創出」を掲げており、とくにコラボレーションやアナリティクスに特化したモバイルアプリケーションの提供に力を入れていくとしている。

PureSystemsの強みは業種に特化したパターンと豊富なアプリケーション

2. Smarter Commerceとビッグデータを核としたフロント系ソリューションにより、ビジネスの俊敏性を向上

 Smarter Commerceとは、購買、マーケティング、販売、サービスといった企業のコアビジネス(バリューチェーン)に対するソリューションの提供を指しており、ここ数年でIBMが買収したDemandTec(SaaSベースのマーケティング分析)、Emptoris(サプライチェーン分析)、Tealeaf(顧客体験管理)といった企業の技術が支えている。「IBMが買収するのはピンポイントですぐれた技術をもっている企業。ポートフォリオの拡充が目的なので、大企業の買収はしない」とマハジャン氏。2013年はこれらの買収企業の製品を本格的に日本で展開していくと語る。

 バリューチェーンと並んでフロント系ソリューションとして重要としているのが“顧客への洞察”に対するソリューションで、IBMはこれをビッグデータと結びつけて提供しようとしている。ここでの中心もやはりCognos、SPSS、Neteezaといった買収企業の技術で、最も重要なのはビジネスアナリティクスの分野だ。だが「ビッグデータはアナリティクスだけでなく、パフォーマンス管理、ソフトウェア開発、セキュリティ、システム管理といった分野でもポートフォリオを拡張できる」(マハジャン氏)とも語っており、拡大するビッグデータ市場におけるIBMの存在感を多方面から強めていく姿勢を見せている。

3. 高度化する脅威から顧客を守るセキュリティの提供

 「セキュリティはIBMが日本市場から最も強く求められている分野。セキュリティのポートフォリオをトータルで抱えているのはIBMだけ」とマハジャン氏はIBMの優位性をここでも強調する。攻撃手法が高度化し、攻撃を受けたあとの企業ダメージが拡大する中、企業はIT基盤のセキュリティを担保するだけでなく、脅威の分析/予兆やリスク管理までを含む“セキュリティインテリジェンス”が求められているという。

 IBMは1月11日にセキュリティインテリジェンス製品「QRADER」の出荷を開始している。脅威に関するあらゆるデータをログなどからリアルタイムに収集/蓄積/分析する製品で、日本の顧客からも「英語版のままでいいから使わせてほしいというお客様が後を絶たない」(マハジャン氏)と強い引き合いがあるという。リスクと脅威を管理することはもはや企業の義務となりつつある現在、こうした製品のニーズはさらに高まりそうだ。

広範なセキュリティポートフォリオ

4. ビジネスパートナーとともに事業を全国へ拡大

 IBMによれば、日本は「関東のIT市場規模はドイツ+中国と同等」「関東以外のIT市場規模はフランスと同等」という市場規模をもつ。したがって今年は「(首都圏以外の)より広い地域のお客様にIBM製品を導入してもらうため、パートナーと密に連携していく」(マハジャン氏)ことを掲げている。特にVAD(Value Added Distributer)と呼ばれる“ミニIBM”的な存在のパートナーの育成に力を入れていくとしている。すでにいくつかのパートナー支援プログラムが発表されており、インセンティブについてもメニューが増えている。「IBMのインセンティブは他社よりも断然いいという評判をいただいている。パートナーの力を発揮してもらうためにも、パートナーのスキルアップを支援し、十分なインセンティブを用意したい」(マハジャン氏)

 ここでマハジャン氏はスキルアッププログラムの一例としてDB2に関するトレーニングを挙げている。「データベースはIBMが唯一、No.1を取れていない分野。製品としてトップを取る力は十分にある。市場からも強いリクエストをもらっている」と強調、2013年はOracle DBからの移行トレーニングやDB2認定資格の推奨などを積極的に進めていくとしている。

ビジネスパートナー向け支援プログラム
2013年はDB2の拡販に力を入れる

 「IBMはコモデティには手を出さない。そのかわりイノベーションは決してやめない」。 説明会の最後、マハジャン氏はあらためてこう断言した。「2012年のIBMの特許数は6478件、これはAmazon、Apple、EMC、HP、Oracleなどを合わせた総数より多い」(マハジャン氏)という圧倒的な研究開発のリソースに買収企業の豊富なポートフォリオ、これらでもって他社にはできない新たな市場を作り出すことが2013年のIBMソフトウェア事業の目標だと総括する。「時代の流れは早い。変化に迅速に対応するための製品をお客様に届けるのがIBMのミッション」とマハジャン氏。そのためにはIBM自身がどこよりも柔軟に動かなくてはならない。顧客とともに、IBMもまた、そのアジリティを問われる1年となる。

(五味 明子)