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自治体と協業しテレワークで3D CAD業務の人材育成を――、ワイズスタッフ、オートデスク、応用技術、SEEZの取り組み

 株式会社ワイズスタッフ、応用技術株式会社、SEEZ、オートデスク株式会社は、自治体との協力のもとで、オートデスクのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)用ソフト「Revit」を使って作業を行える人材を育成し、業務を受注するビジネスを開始した。すでに2つの自治体と協業して人材を育成し、スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社(以下、スターバックス)、大手ゼネコンの業務を請け負うことが決定しているという。

 CADを使った作業は、3D化が進展しているほか、設計だけではなく、企画から施工、そして施工された建物の管理に至るまでのトータルな情報管理を行うBIMが急速に普及している。しかしBIM需要が増加した上、就労人口減少の影響もあって、BIM作業を進めるための人材が不足しているという。今回の人材育成は、そうしたニーズをカバーするための施策となる。

 ワイズスタッフは、ネットワーク経由で在宅スタッフが作業を行うビジネスを展開してきた。しかしCAD分野は初めての分野となることから、応用技術、SEEZ、オートデスクと協力し、2016年度に北海道の旭川市と実証実験を実施。3人がテレワークによる教育を経て、スターバックスと協力して実際の業務作業を行うまでになっている。

 2017年度からは、旭川市では追加で5人、奈良県天理市でも前期5人、後期5人の計10人の人材育成を開始している。自治体にはテレワーク、女性の就労などを推進する予算があることから、無償で技術を勉強できる機会となる。

 「現在は2つの自治体と連携しているが、今回の仕組みを紹介することでさらに連携する自治体、企業を増やし、合計50人程度の人材教育を行いたい。その人材によって、2020年度に1億円程度の受注額を目指す」(ワイズスタッフ 代表取締役の田澤由利氏)。

ワイズスタッフ 代表取締役の田澤由利氏
BIMテレワーク事業のあゆみ

 今回の人材育成は、地方自治体からの委託を受け、ワイズスタッフがテレワーカーへの業務の発注と管理を担当。オートデスクの3D CADソフトを活用し、応用技術が業務システムの提供する。また、SEEZが操作トレーニングを担当するといった分担で行われている。

BIMテレワーク事業イメージ

 ワイズスタッフは1998年に設立し、ホームページ制作、メルマガ発行などを受託で請け負うビジネスからスタートした。設立当時から、外部のスタッフとネットワーク経由で連携し、現在は、事業領域は拡大しているものの、外部スタッフとネットワークで連携するテレワークでの協業が基本となっている。

 「当社にとって建設業は未知の領域だが、建設業界では3D CAD技術者が不足している。一方、自治体は家庭に入った女性が再び働く機会を作ることを模索している。介護、子育てなどの理由で家から出ることが難しい人にとっては、3D CADのスキルを身につけることで、家にいながら仕事を請け負える可能性がある。それぞれメリットがあることから、今回の事業に取り組むことになった」とワイズスタッフの田澤氏は説明する。

ワイズスタッフのビジネスモデル

 建設業界の動向としては、BIM需要が増加しているものの、「就労人口の減少や、高齢化によって働く人はリソース不足。また、夜中まで残って作業をすることに厳しい目があって、業務時間を効率化するための施策をとる建設業者が増えている。こうした課題を解決するために、テレワークによって人、企業をつなげるのが今回の協業」(応用技術 ソリューション本部営業推進部 担当部長の高木英一氏)という。

応用技術 ソリューション本部営業推進部 担当部長の高木英一氏
BIMに関する建設業界の動向

 特徴的なのは、単に人材を育成するにとどまらず、スキルを覚えた後で仕事につながるように実証実験段階から企業が参加していることだ。

 2016年度時点から協賛しているスターバックス コーヒー ジャパンは、「当社は社内にデザイナーがいて、店舗デザインを行っている。デザイナーがデザイン業務に集中するために、作図は外部に移管することを進める中で、オートデスク経由でワイズスタッフを紹介された。実践的なスキルを持った人材が必要となるので、実証実験段階から協力し、スターバックス特有の用語などにも慣れてもらうように努めた」(スターバックス 店舗開発本部 店舗設計部 設計企画チーム チームマネージャーの高尾江里氏)と、人材育成を歓迎している。

 2017年度からは、スターバックス以外に大手ゼネコンも実証実験に参加。建設業界側でも人材が増えることを歓迎している。

スターバックス 店舗開発本部 店舗設計部 設計企画チーム チームマネージャーの高尾江里氏

 研修期間は3カ月。以前、なんらかのCADを使った経験がある人が参加しているケースが多いものの、全く経験のない人でも参加は可能だという。

 教育を受けた人の現段階でのスキルは、Revitで作成された3D設計データを指示に応じて修正、2次元図面から簡易なレベルの3D設計データを作成すること。現在は、建材、壁、柱など繰り返し試用する部材データのひな形リストの作成、より多くの情報を含む高度な3D設計データの作成を習得するために取り組んでいる。

 将来は施主側と打ち合わせをしながらBIM業務を遂行できるようなスキルを持つ人材を育成することが目標となっている。

テレワーカーのスキルレベル
トレーニングの様子

 こうしたスキルの向上とともに課題となるのが、3D CAD業務にかかわる上で必要となるハードウェアおよびソフトウェアの確保だ。トレーニング期間中は、自治体側が提供するハード、ソフトを利用できるものの、本格的な仕事となると、自前で用意する必要が出てくる。現在の計画では、ワイズスタッフ側がハード、ソフトを貸し出して、賃金の一部を長期的にハード、ソフト代にあてることを見込んでいる。