ニュース

Windows 10の法人ビジネスは順調に展開中――、マイクロソフトが最新状況を説明

Windows 7のサポート終了2年前から積極的な移行支援も

 日本マイクロソフト株式会社は6月30日、Windows 10の法人ビジネスに関する最新情報について説明を行ったほか、今年秋のFall Creators Update(1709)で提供されるWindows 10の法人向け新機能などについても説明した。

 さらに、2020年1月に延長サポートが終了するWindows 7からの移行に向けて、今後、積極的な認知度向上を図る活動を開始する方針を示した。現在、サポート時期を知っているとしたユーザーが46%にとどまっている状況を改善し、2018年6月までにこれを100%に高める姿勢を明らかにしている。

 Windows XPのサポート終了時のような混乱を招かないために、サポート終了の2年前から、積極的な移行促進活動を推進する考えだ。

Windows 10の進化

 Windows 10は2015年7月の提供開始以来、2015年11月12日のNovember Update、2016年8月2日のAnniversary Update、2017年4月11日のCreators Updateの3回のアップデートを行っており、今年秋には、Fall Creators Updateとして、最新のアップデート提供が予定されている。

 同社によると、これまでに5億台以上のデバイスでWindows 10が利用されているほか、約3分の2の組織が1年以内にWindows 10への移行を完了する計画との調査結果があること、さらに2017年末までに、85%の大企業がWindows 10への移行展開をスタートするという。

 またWindows 10は、管理が容易であり展開しやすいために、14カ月で展開コストを回収できること、さらに、セキュリティが強いことから、セキュリティに関する問題解決のための時間を33%削減できたことなどを、データとして示した。

Windows 10のアップデートの経緯
Windows 10の最新状況

 日本マイクロソフト Windows&デバイス本部Windowsコマーシャルチーム リードの浅田恭子氏は、マイクロソフトが新たに示した「Intelligent Cloud」「Intelligent Edge」の考え方について触れながら、「Windows 10は、Intelligent Edgeのための中核的なプラットフォームと位置づけており、Modern ITに最適であること(Designed for Modern IT)、高度なセキュリティがあること(Advanced Security)、生産的なエクスペリエンスとデバイスを提供すること(More Productive Experiences&Devices)の3点にフォーカスして開発したものである」と説明。3つの観点からWindows 10の進化を示してみせた。

日本マイクロソフト Windows&デバイス本部 Windowsコマーシャルチーム リードの浅田恭子氏
Windows 10の進化の方針

 Designed for Modern ITは、Windows as a Serviceの考え方や新たなWindows AutoPilotなどで提供される「シームレスな展開(Seamless Deployment)」、MDM機能やMobile Application Managementなどによる「最新の管理手法(Modern Management)」、Windows Analyticsなどによる「プロアクティブな対応(Pro-Active Insights)」で構成される。

 また、Advanced Securityでは、Device GuardやWindows Information Protectionなどによる「データとデバイス(Secure Data+Device)」、Windows HelloやCredential Guardによる「ユーザー認証(Secure User Identities)」、Windows Defenderウイルス対策やWindows Defender Advanced Threat Protection(ATP)などによる「攻撃に対する検知と対応(Detect and Respond Quickly to Attacks)」に取り組んでいるとした。

「Designed for Modern IT」の考え方
「Advanced Security」の考え方

 そして、More Productive Experiences&Devicesは、Windows InkやCortana、HoloLensなどによる「自然なやりとり(Enable Natural Interactions)」、Microsoft Edgeなどによる「必要なことをより速く(Do What Matters-Faster)」、Surfaceなどのマイクロソフトのデバイスと、エコシステムによって提供される各社デバイスによる「妥協のない選択肢(Choice Without Compromise)」で構成。

 「デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて、Windows 10は進化を遂げている」と語った。

「More Productive Experiences & Devices」の考え方

サービスモデルを改善

 さらに、Windows10およびOffice 365 Pro Plusに関するサービスモデルを改善したことについても説明した。

 これまでは、Windows 10のアップデートの時期が不定期であり、Office 365 Pro Plusの機能のリリース時期は4カ月ごとと異なっていたが、今後は3月と9月の年2回にし、リリース時期をあわせるように改善した。

 サポートについても改定している。Windows 10は常に2つのCBBをサポートし、60日間の猶予を付与していた。またOffice 365 ProPlusでは、サポート期間をリリースから12カ月間としていたものを、いずれもリリース日から18カ月のサポートとした。

 「Windows 10 1809からは、Pilot(これまでのCB)を投入し、4カ月後にBroad(これまでのCBB)を提供。Pilotをリリースしてから、18カ月というサポート期間を設定した。それぞれのビルドに対して、18カ月というサイクルを明確にしたことで、導入やアップデートの計画が策定しやすくなる」(日本マイクロソフトの浅田リード)と位置づけた。

 また、「Windows 10のアップデートサイズが約3.5GBと大きいことに対しても改善。Windows 10 1703から改善を適用しており、今年秋のFall Creators Updateでは、配布サイズを35%軽減する」と述べた。

Windows 10とOffice 365 ProPlusのサービスモデルを改善
リリースから18カ月間にサポート期間を統一した

最新の事例を紹介

 続いて、日本におけるWindows 10の導入事例についても紹介した。

 昭和シェル石油では、ロイヤル・ダッチ・シェルとの資本関係の変化にあわせて、国内独自のITシステムの導入を検討。そのなかで、Windows 10への移行を決定。リプレース対象外のPCを含む3000台のPCを移行したという。特にWindows 10の導入によって、生産性向上とエンドポイントにおけるセキュリティ強化を実現できることを評価したという。

 ソフトバンク・テクノロジーでは、生産性向上を目的にWindows 10を導入。約2カ月という短期間でアプリケーションの互換性を検証。SCCM(Microsoft System Center Configuration Manager)を利用することで、ビルドとバージョンの制御を行って、最適なバージョン管理と資産管理の透明化を実現。IT部門の管理負荷を軽減したという。

 さらに、今回初めて公表したAEONの導入事例では、2016年からWindows 10への移行を検討し、同グループ約4万5000台のPCを移行。事前にIE11における動作検証を完了していたこともあり、検証期間を大幅に短縮し、エンドポイントにおける情報漏えいリスクを最小化できたという。

Windows 10の法人導入事例

Windows Analyticsの新機能

 今回の説明では、Windows 10において新たに提供される機能についても説明を行った。

 まずWindows Analyticsでは、新たに提供される「Upgrade Readiness」のほか、現在プレビュー版として提供しており、2017年中にも提供が開始される「Update Compliance」、プレビュー版の公開も行われていないが、2017年後半にリリース予定の「Device Health」について説明した。

 Upgrade Readinessは、アップグレード計画のサポートを行う機能で、Windows 7およびWindows 8から、Windows10への移行の支援するほか、Windows 10において最新バージョンへとアップデートすることを支援する。

 「マイクロソフト推奨の方法に基づいたワークフローを使用して、アップグレードのプロジェクトをガイドするもので、アプリの互換性情報やドライバの互換性情報の提供のほか、コンピュータのアップグレード台数などの情報も提供し、それに基づいて新たなバージョンへのアップグレードの可否を判断できる」という。

 なお、Windows 10においては、95%以上のアプリの互換性を実現しており、先に触れたソフトバンク・テクノロジーの移行事例でもアプリの互換性にはまったく問題がなかったことを強調してみせた。

アップグレード計画のサポートを行うUpgrade Readiness
まずは重要なアプリを識別する
評価対象のバージョンも設定できる
アプリの互換性情報やドライバの互換性情報なども表示される
問題解決についてもガイドしてくれる

 Update Complianceは、更新プログラムの適用状況を把握できるものであり、Windows UpdateやWindows Update for Businessを利用しているユーザーが、企業内全体のクライアントのアップデート状況を管理できるようになるという。無償での利用が可能だ。

更新プログラムの適用状況を把握するUpdate Compliance
クライアントのアップデート状況を管理できるようになる
課題となる状況も視覚的に表示されている

 Device Healthは6月30日に発表されたもので、デバイスのクラッシュといった異常をアラートとしてあげるほか、クライアントが最高の環境で利用できるように設計。ヘルプデスクの利用やコールを削減し、サポートコストの削減を実現できるという。

デバイスの正常性を把握するDevice Health

Windows Defenderをセキュリティ製品のブランドへ

 またWindows Defenderでは、Windows Defenderセキュリティセンター、Windows Defenderウイルス対策、Windows Defender Smart Screen、Windows Defender Advanced Threat Protection(ATP)について説明した。

 なお、これまでのWindows Defenderは、アンチウイルスソフトとして製品定義していたが、今回からはWindows Defenderウイルス対策だけが、アンチウイルスソフトであり、そのほかの製品にもWindows Defenderのブランドを使用すると説明、「セキュリティ製品のブランド名に置き換わった」という。

 Windows Defenderウイルス対策は、「12年前に登場したWindows Defenderへ投資を行い、さらに進化させたものであり、BingやEdge、Office 365などの情報を利用した数十億のソースから発せられる、何兆ものシグナルを機械学習で解析。これを利用して、脅威から保護ができるものである」と説明。

 「クラウド保護に関しては、世界で未知のウイルスが登場、それを最初の人がクリックして感染しても、35秒後には全世界の人がブロックされるようになる」とした。先ごろ猛威を振るったランサムウェアのWannaCryでも、この機能が働いたという。

次世代型セキュリティ対策へと進化したWindows Defenderウイルス対策

 Defender ATPは、OS組み込み型のEDR(Endpoint Detection and Response)として提供。現在、何台のPCが感染しているのか、攻撃を受けているPCはなにかというインシデントの検出、いつどこから感染がはじまり、どのようなマルウェアによって、どの範囲でどの程度の被害があるのかといったインシデントの調査を行える。

 あわせて、マルウェアの活動を止めたり、感染拡大を防御できたりするほか、ネットワークの切り離し、エンドポイントの修復を可能にすることも可能だ。これは、Windows 10 1607から提供されている機能で、Office 365 Enterprise E5の契約者には無償で提供している。

 「組織のセキュリティの把握、調査、対応にかかる時間を短縮できるのが特徴であり、エージェントのインストールが不要。OSのアップデートとともに、機能拡張が可能である。カーネルレベルで動作しているため、リアルタイムで脅威を検知できるメリットもある」とした。

OS組み込み型のEDRとして提供されるDefender ATP
現在、何台のPCが感染しているのか、攻撃を受けているPCはなにかを確認
いつどこから感染がはじまり、どのようなマルウェアによって、どの範囲でのどの程度の被害があるのかといったインシデントも調査
Creators Updateで提供されたDefender ATPの新機能

 なお、今年春のCreators Update(1703)では、Defender ATPの新たな機能として、管理コンソールからクライアントで実行されている特定のプログラムを停止する「Stop & Quarantine File」、管理コンソールからクライアント上で特定のファイルの実行を防止する「Block File」、管理コンソールを通じてクライアントをネットワークから切り離す「Machine Isolation」、セキュリティインシデントの調査用ファイルが収集できる「Forensic Data Collection」を提供したことも説明した。

今年秋のFall Creators Update(1709)で提供されるWindows Defender ATPの強化

 また、今年秋のFall Creators Update(1709)で提供されるWindows Defenderの新機能としては、HIPS(host-based IPS)型の次世代侵入防止システムWindows Defender Exploit Guardのほか、Windows Defender Application Guardがあり、さらに、Windows Defender ATP、Windows Defender Device Guard、Windows Defenderウイルス対策も強化されるという。

 今年秋のDefender ATPの進化では、「影響が出る前に、攻撃を止める」といった点を考慮。Attack surface reductionとして、Exploit Guardにより、企業でのコードの実行を制限し、実行時の悪用を軽減できるという。また、Windows Defender シリーズのステータスや関連のイベント、ブロックした攻撃などの情報が確認可能できる新たなダッシュボードを提供する。

 Windows Defender Application Guardでは、コンテナ型仮想技術によりブラウザを仮想化し、安全に分離。Microsoft Edgeで、信頼されていないサイト閲覧時に、一時的なコンテナ上でサイトを開き、サイトの閲覧が終了した時点でコンテナを破棄することで、ホスト本体には感染させずに、安全に動作させることができる。

コンテナ型仮想技術により、安全にサイトを閲覧できるWindows Defender Application Guard

Windows 7サポート終了への準備を進める

 一方、Windows 7のサポート終了に関する説明も行った。

 Windows 7が、2020年1月14日にサポートが終了する予定であり、それまでに、あと2年半となったこと、さらには、Office 2010のサポート終了も2020年10月13日に終了することを示しながら、「2018年6月末までに、中小企業におけるWindows 7の終了時期に関する認知度を100%にまで高めたい。それによって、余裕を持った移行が可能になる」(日本マイクロソフト Windows&デバイス本部 Windowsコマーシャルグループ エグゼクティブプロダクトマネージャーの古川淳一氏)とする。

日本マイクロソフト Windows&デバイス本部 Windowsコマーシャルグループ エグゼクティブプロダクトマネージャーの古川淳一氏
Windows 7およびOffice 2010のサポート期間

 楽天リサーチが、1000社の中堅・中小企業を対象に2017年6月に行った調査では、Windows 7のサポート終了を知っていると回答した企業は46%にとどまり、Windows 7からの移行に関する検証、移行はこれからと回答した企業は67%にも達した。

 こうした現状をとらえながら、日本マイクロソフトの浅田リードは、「中堅・中小企業への認知度浸透は遅れている」とする一方、日本マイクロソフトの古川エグゼクティブプロダクトマネージャーは、「100%の認知度は、確実にやり遂げるという意志を持った目標。最新のクライアント環境の実現を目指し、日本マイクロソフト全社をあげた活動をスタートする」と意気込む。

 具体的には、「移行、展開、運用に関する支援」、「パートナーの連携」、「全国の自治体への情報提供」を開始。活動が本格化するのは、サポート終了まで2年となる2018年1月以降となる見込みだが、それでも、Windows XPの終了時には、終了1年前から活動を本格化したのに比べて、1年前倒しで進めることになる。

Windows 7およびOffice 2010のサポート終了に向けた取り組み
54%の中堅中小企業がWindows 7のサポート終了時期を知らない

 その背景には、Windows XPのサポート終了時の反省があるという。

 「Windows XPのサポート終了時には、残りの1年間で日本全体の約30%に当たる法人PCがWindows XPから移行することになった。また、サポート終了に伴うPC出荷台数のうち、約半数は予算外の購入であり、別の予算にあてられていたものを引っぺがして、Windows XPの移行予算にあてた例が多かった。また、中堅・中小企業や地方自治体におけるサポート終了に対する認知度が低く、それが移行の動きを遅らせることにつながった」(日本マイクロソフトの古川エグゼクティブプロダクトマネージャー)と反省する。

 2020年1月のサポート終了にあわせたクライアントPCの移行措置を取るのであれば、それは2019年度予算で実行されることになる。そのためには、2018年度には予算確保に向けた活動を行わなくては、それに向けていまから準備しておく必要があるというわけだ。

 日本マイクロソフトでは、2年間トータルとして、Windows XPと同等のマーケティング予算を確保して、移行に向けた訴求を進めていく考えのようだが、Windows10では、WaaSというコンセプトにあわせた仕組みを変更する移行措置も求められており、早い段階から、Windows 7からの移行に向けた準備が必要なのは間違いないだろう。

 一方、日本マイクロソフトが独自に誕生させたWindows 10 のキャラクター「テン先輩」についても、説明が行われた。テン先輩は2016年10月から使用しているもので、Windows 10の「テン」と、動物の「テン」を掛けて、作り上げたキャラクターで、「米本社のブランドガイドラインをまったく無視した日本ローカルのキャラクター」(日本マイクロソフト・浅田リード)という。

 中小企業向けサイトである「MSBC」においても、テン先輩が登場し、これまでに3回にわたるメッセージを発信。WaaSモデルの要点を説明したり、Windows 7からの移行を提案したりといったコンテンツが用意されている。浅田リードは、「説明のわかりやすさから、テン先輩は、人気のあるキャラクターになっている」としており、今後もテン先輩シリーズを展開していくという。すでに、テン先輩のクリアファイルやステンレスボトルも用意されている。

テン先輩を起用したコンテンツも用意している
テン先輩のクリアファイルやステンレスボトル