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AIの働き方アドバイスが職場の幸福感向上に貢献、日立が実証実験で効果を確認

日立研究開発グループ技師長の矢野和男氏

 株式会社日立製作所(以下、日立)は26日、2016年6月~10月にかけて、AI技術とウェアラブル技術を活用した組織の幸福感(組織活性度)を計測する技術について、日立グループ内の営業部門を対象に実証実験を行った結果、AIによる従業員への働き方アドバイスが、組織活性度の向上に寄与することを確認したと発表した。

 日立では、社会課題となっている働き方改革に対して、人や組織の活性度、幸福感と生産性の関係に着目し、人工知能「Hitachi AI Technology/H(以下、H)」と、名札型ウェアラブルセンサーの活用による組織活性度を計測・分析する技術を2015年に開発した。

 ウェアラブルセンサーでは、赤外線送受信装置により会話の両や相手(二者間の対面状態を赤外線で検知)を、加速度センサーにより体の動きや会話の質(体の揺れからふるまいを推定)をデータとして取得。また、赤外線ビーコンを設置することで、そのエリアに滞在している人を検知することで、たとえば会議の人数や時間などを算出することを可能にした。

名札型ウェアラブルセンサーで人間の行動を定量化

 こうして定量化されたデータと、幸福感に関する質問の調査結果からは、無意識な身体運動の持続時間の多様性が、組織の幸福感と強く相関していることが判明。人間には無意識に身体が静止している時間があり、「静止せずに動き続ける時間(持続時間)」の分布を調べると、活性化し、ムードがよく、幸福感の高い組織ほど、持続時間の多様性・ばらつきが大きいことが分かったという。

無意識な身体運動の持続時間の多様性が、組織の幸福感と強く相関
持続時間の多様性・ばらつきの大きさを「組織活性度」の指標に

 これを組織活性度(職場の幸福感)の指標として、その向上につながるアドバイスをAIで自動的に生成する技術を開発。名札型ウェアラブルセンサーから収集した行動データを時間帯・会話相手などの項目で細分化し、これをHに入力することで、各個人にカスタマイズしたアドバイスを自動的に作成、配信する。

 実証実験は、スマートフォンアプリにより、「出社・退社時間」「会議の長さや人数」「デスクワークの仕方」について、一人ひとりに合わせたアドバイスを提示。日立グループの法人営業部門、26部署、約600人を対象に実施した。

アドバイスの例

 実証実験の結果からは、働き方アドバイスを提示するアプリの利用時間が長い部署ほど、翌月の組織活性度が高いことを確認。さらに、組織活性度が上昇した部署では、翌四半期(10月~12月)の受注額が目標より平均で11%上回った一方、組織活性度が下降した部署では平均16%下回っており、組織活性度が業績予測の先行指標として活用できることを確認したという。

アプリの利用時間が長い部署ほど、翌月の組織活性度が高くなった
組織活性度と受注達成率の相関性

 また、社内実証で取得したデータを、日立グループの従業員満足度調査の結果を組み合わせて分析することにより、働きがいのある職場づくりに重要な項目を特定できることを確認。組織活性度が高い部署では、自身の「意思決定や権限委譲」と「挑戦意欲」に関する項目について前向きな回答をしており、対面コミュニケーション中の双方向の会話比率が高い部署ほど、従業員が「上司からのサポートを実感し、やりがいを持ち、質の高い仕事に取り組んでいる」と回答していることが確認できたとしている。

組織活性度と従業員満足度データの関連性

 日立研究開発グループ技師長の矢野和男氏は、組織活性度を計測・分析するサービスはすでに20社を超える組織に提供しているが、さらに今後も、従業員が働き方を考える上での一助となるフィードバック技術の開発と試行を続けると説明。これらの技術と、日立のIoTプラットフォーム「Lumada」なども活用することで、働き方改革を推進していきたいとした。