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PostgreSQL版Aurora、DAX、Redshift Spectrum――、AWSジャパンが最新アップデートを発表

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社(以下、AWSジャパン)は4月28日、米国サンフランシスコで開催された「AWS Summit San Francisco 2017」(4/17~4/18)での発表、アップデート内容に関して報道関係者向けに説明を行った。

 AWSジャパン 技術統括本部 エンタープライズソリューション部 部長 瀧澤与一氏は「顧客の価値にフォーカスしたサービスを提供できるのがAWSクラウドの強みだが、今回のアップデートにより、個々の顧客の細かなニーズにより適したラインアップがそろった」と語り、AWSならではの“顧客中心主義”なアップデートであることを強調している。

AWSジャパン 技術統括本部 エンタープライズソリューション部 部長 瀧澤与一氏

新サービス

 サンフランシスコで発表されたアップデートの概要は以下の通り。

Amazon DynamoDB Accelerator(DAX)

書き込みに対して読み込みが圧倒的に多い“リードヘビー”なワークロードに最適化された、インメモリ型キャッシュクラスタ。リードに対してキャッシュ層を作り、自由に広げていくことが可能なフルマネージドのキャッシュサービスで、DynamoDBテーブルの前段に置かれる。DynamoDBとはAPI互換あり。キャッシュからレスポンスが返るときはマイクロセコンドのレスポンスを実現。米国(バージニア、オレゴン)、EU(アイルランド)リージョンでパブリックプレビューとして提供。

DAXありとDAXなしの比較。1回目はキャッシュがないのでほぼ同じパフォーマンスだがキャッシュが作成された2回め以降はDAXなしだとレスポンスの平均が約20ミリ秒なのに対し、DAXありではマイクロセコンドを実現している
Redshift Spectrum

RedshiftクラスタとAmazon S3の間にSpectrum層を置くことで、S3上のファイル(CSV、Parquetなど)を外部テーブルとして定義可能に。ローカル上のデータと組み合わせ、SQLでクエリも可能。ユーザーからはSpectrum層は見えないが、クエリ処理のためのSpectrumクラスタはインテリジェントにスケールする。国内企業ではNTTドコモとリクルートテクノロジーズがRedshift Spectrumのアーリーアダプタで、すでに「数十TB以上のRedshiftのデータ解析をこれまでの数倍以上のスピードで実行できる」(NTTドコモ)、「Redshiftによる解析のコストを大幅に削減できる」(リクルートテクノロジーズ)と高い評価を得ている。

Redshift SpectrumはS3上のファイルを外部テーブルとして定義できる。Spectrum層はAWSがすべてコントロールし、ユーザからは見えない
AWS CodeStar

AWS上でのチーム開発を迅速にスタートするためのサービスで、数分で開発メンバーの登録などが可能に。コーディング、ビルド、テスト、デプロイ、実行などを一貫してサポートするプロジェクトテンプレートが豊富にそろっており、ソフトウェアのデリバリを容易に管理できる。CodeStarそのものに追加料金は発生せず、CodeStarでプロビジョニングしたAWSリソースのみに料金が発生。

AWS上でのDevOpsな開発スタイルを支援するCodeStarはプロジェクトのスタートからソフトのデリバリまでを一貫して管理する

「AWS re:Invent 2016」で発表されたサービスのアップデート

F1インスタンスの一般提供

FPGA(Xilinx製)をクラウド上で利用できるEC2の新インスタンス。「すでに2000社以上から引き合いがきている」(瀧澤氏)という注目度の高いインスタンスで、ユーザーが作成したFPGAイメージはAmazon Marketplaceでも販売できる。現在は米国東部(バージニア)リージョンのみでの提供だが、その他のリージョンでも順次展開予定。

Amazon Aurora PostgreSQL-Compatible Edition Preview開始

データベースエンジン(ストレージシステム)にAurora、インターフェイスにPostgreSQLを採用した“PostgreSQL版のAurora”がテックプレビューとして利用可能に。PostgreSQL 9.6と互換だが、スループットはPostgreSQLの約2倍を実現。PostGISなどの拡張モジュールやPerformance Insightなども利用可能になる予定。

日本でも期待の高いPostgreSQL版Auroraがプレビューとして提供開始。「プレビューはかつてのベータ版と同等以上の作り込み」と瀧澤氏
その他

AWS X-Rayの一般提供(5/1より北京およびGovCloudを除く全リージョン)、Amazon Lexのプレビュー(米国東部のみ)

アプリケーションの状態をX線のように監視できるAWS X-Rayもほぼ全リージョンで提供開始へ

各サービスの新機能

・Amazon Recognitionに“性的に露骨で不適切な画像”を特定/検出する機能の追加
・Amazon Pollyに新機能「スピーチマーク」「ウィスパー」
・Amazon DynamoDBのVPCエンドポイントのパブリックプレビュー
・Amazon Lexを使用してモバイルアプリに会話型ボットをインターフェイスとして実装し他のサービスと連携する「Amazon Mobile Hub Integration with Amazon Lex」
・70以上のSaaS製品をAmazon Marketplaceから選択できる「SaaS Contract for AWS Marketplace」
・リンクされたサービスに対して必要な権限を与え、アクションを自動で実行させることができる「Service-Linked IAM Roles」(現在はAmazon Lexのみ)

PostgreSQL版Aurorへの期待

 今回のアップデートの中でも、日本のユーザーから注目を特に集めたもののひとつがPostgreSQL版Auroraのプレビュー開始だ。瀧澤氏は「特にOracleユーザーからの引き合いが非常に強い。現在はプレビューの段階だが、われわれとしてもできるだけ早急に日本の顧客にも提供できる準備を整えたい」とコメントしており、OracleユーザーがMySQL版AuroraよりもPostgreSQLをインターフェイスにしたAuroraへの移行に注目している現状を明らかにしている。

 「顧客との打ち合わせの場でもOracle DBのライセンス料やサポートに関しての話が出ない日はない。中でもPostgreSQLはOracleとの親和性がMySQLよりも高いと言われており、Auroraエンジンと組み合わせたPostgreSQLの期待は強く感じている。できるだけ早急に応えていきたい」(瀧澤氏)。

 今回のアップデートを総括して滝澤氏は「重箱の隅をつつくように、AWSが個々の顧客のより細かいニーズをすくい取っていることがあらわれたアップデート」と評価している。

 例えばAmazon DAXなどはその最たる例で、単にエンタープライズグレードなNoSQLを提供するだけでなく、「リードに特化した、より高速で、アプリケーションを変更する必要がないNoSQLが欲しい」という特定のユーザーのニーズにフォーカスしたからこそ生まれたサービスだ。

 「AWS自身も顧客のニーズとともに成長し、変化している。すぐにGA、ではなくパブリックプレビューから始めたり、リージョンを限定して提供しているのも、顧客のビジネスの状況を考えてのこと」という瀧澤氏の言葉にあるように、製品ロードマップをベンダが描いてそれに沿って提供していく旧来のスタイルではなく、顧客のフィードバックをもとに機能拡張や新サービスを提供し、その提供スタイルすらも変えていくという新しい王道を、AWSはクラウドのトップベンダーとして確実に切り開き、進んでいるといえる。

 なお、AWSジャパンは5月30日~6月2日の3日間に渡り、東京・品川において「AWS Summit Tokyo 2017」を開催する。サンフランシスコでは新サービスや新機能の発表が目立ったが、東京では任天堂およびDeNAによる「スーパーマリオラン」のクラウド基盤構築事例など、世界的に見てもユニークな事例の発表が数多く行わる予定だ。