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ソラコム、LPWA技術「LoRaWAN」に正式対応 機器の販売に加えゲートウェイ共有モデルを提供へ
2017年2月8日 05:55
ソラコムは7日、同社が展開するIoT通信プラットフォーム「SORACOM」において、LPWA(Low Power, Wide Area)の通信規格のひとつである「LoRaWAN」に正式に対応することを発表。新サービス「SORACOM Air for LoRaWAN」として、新たに提供を開始した。また同時に、ソラコムが所有するLoRaゲートウェイを「共有サービス」として提供することも明らかにし、LoRaWANによる“無線のシェアリングエコノミー”を推進していく姿勢を示している。
LoRaWANはデータ転送速度は低速ながらも、省電力で広範囲をカバーできる点が最大の特徴で、低消費電力が課題となるIoTデバイスにとっては魅力的な通信規格のひとつだ。ライセンス不要の周波数である920MHz帯無線、いわゆる“サブギガ帯無線”を利用するため、低コストで閉域ネットワークを構築できる点も、センシングや組み込みなど大量のIoTデバイスを運用する事業者から評価されている。
LoRaWANの規格(データリンク層)を策定する「LoRa Alliance」には、ZTE、IBM、Cisco、Orange(仏キャリア)といった企業が名を連ねている。
国内では3GやLTEといったセルラー通信と比較して、話題になることが少なかったLPWAおよびLoRaWANだが、2016年5月、ソラコムがLoRaWAN事業を展開するM2B通信企画に出資を発表してから、急速に注目が高まりつつある。
ソラコムはその後、試験的にゲートウェイとデバイスを含んだ「LoRaWAN PoCキット」を提供するなど、LoRaWAN事業に段階的に参入してきたが、今回、一般向けにサービスを提供することで、IoT市場におけるLoRaWANのポテンシャル拡大を狙う。
ソラコムは今回のSORACOM Air for LoRaWANの提供に伴い、SORACOM対応の屋内LoRaゲートウェイ(基地局に相当)と、SORACOM対応デバイスであるLoRa Arudino開発シールドの販売を開始する。
いずれもエイビットが制作し、販売はソラコムのほか同社のパートナー企業が行う。ユーザーはこのゲートウェイとデバイスを必要個数購入したのち、ゲートウェイを設置するだけで各デバイスからSORACOM Airを利用することができる。
従来、LoRaWANネットワークを自前で構築するにはネットワークサーバの設定作業が大きな負荷となっていたが、SORACOM Air for LoRaWANではSORACOMプラットフォーム上のネットワークサーバーを利用するので、ユーザー側の作業はいっさい必要ない。またセルラー版のSORACOM Airと同様に、Web上のユーザーコンソールから容易にゲートウェイ/デバイスを管理することが可能だ。
さらに、ソラコムが提供するアプリケーションサービス「SORACOM Beam」「SORACOM Funnel」「SORACOM Harvest」も、LoRaゲートウェイの月額利用料金と同額分の利用が可能になっている。
共有サービスモデルで目指す“パブリックな資産”としての無線の活用
ソラコムはSORACOM Air for LoRaWANの提供開始に伴い、料金体系の異なる新たなサービスモデルを2つ発表している。
ひとつはエンタープライズ企業など閉域ネットワーク(プライベートネットワーク)での利用を想定した「所有モデル」だ。ユーザーは自分自身で購入したゲートウェイとデバイスを自由に設置して、プライベートなLoRaWANネットワークを構築/運用する。もちろんゲートウェイの設置場所は利用形態に応じて移動可能だ。
この所有モデルの場合、初期費用(ゲートウェイ購入費用)は6万9800円/台、月額利用料金は3万9800円/台で、2台目以降は同一オペレータの場合は2万9800円/台となる。なおデバイスの価格は1台あたり7980円(後述の共有サービスモデルも同様)。
もうひとつのモデルは「共有サービスモデル」で、ソラコムが所有するLoRaゲートウェイを利用する形態だ。このモデルのゲートウェイは契約ユーザー以外でも誰もが自由に利用できるパブリックなLoRaゲートウェイとして設置され、契約ユーザーは所有モデルよりも大幅に安い月額料金でサービスを利用できる。
共有サービスモデルの場合、ゲートウェイを購入するのではなく登録するかたちとなり、その初期費用は2万4800円、月額利用料金は9800円/月。契約ユーザーはゲートウェイをどこに設置してもよいが、設置場所をソラコムに申請する必要がある。なおソラコムは共有ゲートウェイの設置場所の情報を「SORACOM LoRa Space」として同社のサイト内で公開する予定だ。
共有サービスモデルを提供する理由について、ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏は「無線の資源は公園などと同様に公共の資源だと認識している。できるだけ多くの人にこの資源を無駄なく使ってほしいというのがソラコムの願い。安価に設置でき、誰もが利用できるLoRaゲートウェイを増やしていくことで、個人の開発者や少数のLoRaデバイスを試作/検証したい企業などを支援していくことができると思っている」と語る。
なお所有モデルにおいても「パブリックモード」または「シェアードモード」に設定すればゲートウェイを公開状態、もしくは特定のユーザーのみと共有状態にすることは可能だ。
「LoRaWANの普及のためにも“まずは使ってもらう”というアプローチは非常に重要。低価格で利用できる共有サービスモデルの普及が進めば、LoRaWANの認知度が高まるだけでなく、無線という資源をシェアリングサービスとしてより多くの人々に使ってもらうことが可能になり、コミュニティの発展にもつながる。一方で、エンタープライズではセキュリティ上、他社のデータを受け付けない、閉じたモデルが必要なケースが多い。どちらのモデルのニーズも高いと判断して、所有モデルと共有型サービスモデルを用意した。あとは市場にニーズを問いたい」(玉川氏)。
前述したように、LoRaWANはソラコムの事業参入のニュースを受けて国内での注目度が高まってきたという背景がある。玉川氏にLoRaWANの魅力について聞くと「“LoRa”という名称は“Long Range(長距離)”に由来するが、その名の通り低消費電力で、どこまでも電波が飛ぶところ」という回答が返ってきた。
「IoT屋として、技術者として、惹かれる部分が多い、とてもおもしろい技術。ソラコムがめざす“持続可能な社会”の実現にも近づく一助となる」という玉川氏の言葉には、IoTの通信規格としてLoRaWANが成長していくことへの強い期待が込められている。
すでにファームノート(牛の動線管理)や博報堂アイ・スタジオ(登山者の遭難防止)といった、アーリーアダプタによるLoRaWANサービスのユースケースが公開されているが、今回ソラコムが一般向けにサービスを提供したことで、LoRaWANがIoTの通信規格としてひろく普及するきっかけをつかめるのか。引き続き市場の動きに注目していきたい。