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AWSは尊重するが、コストやセキュリティ、信頼性は負けてない――、ラリー・エリソン会長

Oracle OpenWorld 2016 基調講演

 米Oracleは年9月18日~22日(現地時間)、米カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニセンターなど6会場を使用し、Oracle OpenWorld 2016を開催している。

 全世界141カ国から6万人が参加。日本からは400人以上のパートナー企業や顧客企業が会場を訪れ、日本オラクルの杉原博茂社長をはじめとする同社関係者も出席した。

 会期中には、2249のセッションが行われ、そのうち2054のセッションが、パートナーおよび顧客によるもの。約2000人のスピーカーが登壇するという。

 また、サンフランシスコ市への経済効果は1億9400万ドルと試算されており、年々拡大するこのイベントが同市に大きな影響を与えていることを裏付けた。

Oracle OpenWorld 2016
モスコーニセンターの様子

 「サンデー・ラリー」と呼ばれ、恒例となっている日曜日夕方からの米Oracleのラリー・エリソン(Larry Ellison)経営執行役会長兼CTOによる基調講演では、「Complete, Integrated Cloud」をテーマに講演。クラウドに軸足を置いたOracleが、新たな第2世代のIaaSをラインアップに加えることにより、SaaS、PaaSとともにポートフォリオを拡大。今後、さらにクラウドビジネスを成長させていくことを宣言するものになった。

米Oracle ラリー・エリソン経営執行役会長兼CTO

 Oracle OpenWorldが開催される直前の9月15日に発表した2017年度第1四半期(2016年6~8月)の売上高は前年同期比2%増の86億ドル、そのうちクラウド事業が前年同期比59%増の9億6900万ドルとなった。それに対して、ソフトウェアライセンスの売上高は前年同期比2けた減となっており、クラウドが売上高全体の1割を超えるとともに、全体の成長をクラウドがドライブしていることを数字の上でも証明してみせた。クラウドの売上高は7四半期連続でプラス成長。通期では、SaaSおよびPaaSでは67%の売上高成長を見込んでおり、当初計画を上回る見通しだという。

 現在、Oracleのクラウドユーザーは、全世界で2万社以上。そのうち、SaaSおよびPaaSのユーザーは1万9000社以上だという。

 「SaaS、PaaS、IaaSのすべてがそろい、クラウドカンパニーとしてのピースがすべて埋まった」と、エリソン氏は、今後のクラウド成長に自信をみせた。

 日曜日(18日)午後6時からスタートした基調講演では、「この歳になると、ステージの階段を慎重に昇らなくてはいけない」と観衆を笑わせながらスピーチをはじめた。

 エリソン氏は、「いまは、時代の変革のなかにある。コンピューティングは、多くの企業が持つものから、より少数のスーパーデータセンターが持つものへと変わってきた。これは、ほかの業界ではすでに当たり前のことであり、自宅にお金を置いたり、水や電気も自宅で作ったりはしない。水道会社や電力会社から供給されることによって、利用者は、より安いコストで使えるようになった。しかも、高いクオリティで管理してもらうことができる。情報も同じ時代がやってきた」と前置き。

 「これまでOracleは、SaaSおよびPaaSでクラウドビジネスを成長させてきたが、今年はIaaSの領域に本格的に取り組んでいくことになる。この2年ほど、IaaSの品質や信頼性、パフォーマンスを高めてきた。Oracleは、クラウドにおける6つのデザインゴールとして、コスト、信頼性、パフォーマンス、標準化、互換性、セキュリティという6つを掲げているが、これはオンプレミス時代から受け継いでいるもの。クラウド時代もまったく変わらない」など語り、Oracle Cloudの基本姿勢を示した。

Oracleクラウドの6つのゴール

 IaaSについては、「AWS(Amazon Web Services)がパイオニアであり、そこにいち早く取り組んだことは尊重している」としながらも、「IaaSは、すでに電気やガソリンなどと同じようにコモディティ化しており、コストが重要視されている。Oracleの場合は、コストを安くできるのに加えて、パフォーマンスが高く、セキュリティや信頼性の面で差別化できる。その強みによって、AWSと戦っていくことになる」とする。

 また、「Oracle Databaseは、AWSでも、Microsoft Azureでも利用できるが、Amazon Redshiftは、オープンソースを使っていても、AWSの環境でしか使えない。Redshiftを利用すると、AWSの環境から抜け出せなくなる。さらに、ネットワークコストについても、データを入れるのは安いが、データを外に動かすのは高い。究極のロックインである」などと指摘した。

 エリソン氏は、第2世代と呼ぶIaaSを提供することを発表。「可用性の高い3つの独立したドメインを利用することで信頼性を確保するとともに、広帯域幅を持つ、超低遅延型の高速ネットワーク環境を利用。これがリージョンを超えて、全世界でつながることになり、ミッションクリティカルなワークロードにも対応できる。コンピューティングコアはAWSの2倍であり、メモリも2倍、ストレージは4倍、I/Oのキャシパティは10倍。それでいて、コストが低くて済む。競合他社を馬跳びで抜くことができる。AWSは、これから深刻な状況に陥ることになる」などと“口撃”した。

第2世代IaaSの概要
Oracle CloudとAWSの比較

 SaaSにおいては、salesforce.comやWorkdayを引き合いに出しながら、「Oracleは、統合されたスイートサービスとしてクラウドを提供できる企業。50の製品を、50のベンダーから調達するのは困難であり、セキュリティリスクが発生したり、責任の所在が不明確であり、管理に手間がかかるといった課題も生まれる。ERPやHR、CXなどを統合した形ですべてを統合するのがOracleのクラウド戦略」と語る。

 さらには、「オンプレミスのアプリをすべてクラウド向けに書き直すのに4年でやれといったが、結果としては10年かかった。考え方を根本から変えなくてはいけなかったし、そのためにSaaSだけで5000人もの人材を投入したが、予想以上に時間がかかった。これをやるためには多くのリソースが必要なのは明らかで、OracleとMicrosoftにはできるが、スタートアップのWorkdayにはできない。Workdayは、アプリだけでなく、データベースまで作るというユニークな考え方だが、これを実現するのは簡単なことではない」とした。

Oracle CloudとWorkdayの比較

 またPaaSに関しては、「これまでのデータベースやアプリへの投資を維持しながら、クラウドへ移行することができる互換性とポータビリティが重要である」としながら、「Oracleのクラウドサービスで使っている環境と同じものを顧客のファイアウォールのなかで使うことができ、顧客が持つ高速ネットワークにつないで利用ができるようにした。これは、ハードウェアやソフトウェアを販売するのではなく、クラウドサービスの延長線上として、サブスクリプション型で導入できるようにした。オンプレミスで利用していたものがそのまま利用でき、まさに101%の互換性がある」と冗談を交えながら、Cloud@Customerと呼ぶ新たなサービスを紹介した。

 「Oracleは、クラウド市場には遅く参入したが、2016年度は、どの企業よりも、SaaSおよびPaaSを販売し、ナンバーワンになっている」などと、クラウド事業の成長ぶりを改めて強調した。

さまざまな新製品を一挙に紹介

 今回の基調講演では、数々の新サービスを次から次へと発表してみせたのも特徴だった。「この項目はこれが最後のスライド」、「もう少しで終わる」と語りながら、次から次へと資料をめくりながら新サービスを紹介していった。

 そのなかから代表的なものを紹介する。

 ExaData Express Cloud Serviceは、シンプルにパブリッククラウドが活用できるExaDataの新たなサブスクリプション型サービスで、月額175ドルから利用できるというものだ。「ExaDataが、VISAカードの課金範囲内で利用できる」と笑いを誘った。

ExaData Express Cloud Serviceの概要

 また、Oracle Database 12c Release2は、マルチテナント、シャーディング、インメモリといった特徴をさらに強化。まずは、ExaData Express Cloud Service向けに提供。11月にEnterprise Cloud ServiceおよびExaData Cloud Serviceに、12月にはExaData Cloud Machine向けに提供する。

 「これまではオンプレミス向けに最初に提供していたが、今回はクラウド向けを先に出す形へと変えた。まずクラウドで先行利用してから、オンプレミスへ移行するといった使い方もできる」とした。

Oracle Database 12c Release2の特徴

 さらにVisual Assistant Chatbot Platformを発表。新たなモバイルUIを活用しながら、利用者がスマホやタブレットにテキストで自然言語で書き込めば、対話型の仕組みで、業務を支援してくれる様子をデモンストレーションした。

 ここでは、エリソン氏が対話をしながら、新たに名刺を発注する様子を披露。CEOの肩書きのままだったので、ChatbotがHCMシステムをチェックするように要請。それをもとに、CTOの肩書きに変更した様子をみせた。

 「これは新たな世代のインターフェイスになるものだ」とした。

Visual Assistant Chatbot Platformの概要
Chatbotで名刺の印刷を発注する様子

 そのほか、マシンラーニングについても言及。「日常使用するアプリのなかで、使えるものになってきた」として、Oracleデータクラウドによる50億人のデータをもとに、消費者の購買予測やサイトの効率的なデザインなどにおいて活用ができるといった使い道にも触れ、今後、Oracleのサービスのなかにマシンラーニングの活用を取り込んでいく方向性を示した。

マシンラーニングへの取り組みにも言及

 講演は、当初予定を上回り約1時間20分に達したが、クラウドへのさらなる注力ぶりを示すとともに、その進ちょくが予想を上回る形で進んでいることを示すものになった。そして、先行するクラウドベンダーを意識した発言が多かった基調講演だったといえる。

Project APOLLOを紹介

 一方、エリソン氏の基調講演を前に登壇した米Intel データセンターグループ担当のダイアン・ブライアント(Diane Bryant) エグゼクティブバイスプレジデントは、「Rise of the Enterprise: Delivering the Next Wave of Opportunity」をテーマに講演した。

米Intel データセンターグループ担当のダイアン・ブライアント エグゼクティブバイスプレジデント

 このなかで、IntelとOracleが共同で取り組んでいる「Project APOLLO」についても言及。両社の技術を活用することで、クラウドのワークロードをスケールアウトした環境で利用できるもので、最初にJava as a Serviceを提供したのに続き、Database as a Service、Bigdata as a service、Software as a Serviceなどにも展開。Xeonプロセッサとの組み合わせにより、パフォーマンスを1.8倍に拡大できたほか、スループット性能が52%向上、アプリケーションのレスポンス時間が4倍に高速化するなど、Intelのハードウェアと、Oracleのソフトウェアの組み合わせによる成果があがっていることが示された。

 ブライアント氏は、「ITの役割が拡大し、これがビジネスの成長へとつながっている。パブリッククラウドやプライベートクラウドへの投資が拡大することで、効率的で、柔軟性の高いビジネスが構築できるようになっている。また、データアナテリィスクソリューションが台頭し、新たな洞察をもとに、新たなアクションが可能になった点もエンタープライズにおける大きな変化である。さらに、今後は、データと人工知能によって、ゲームチェンジする機会を生むことになる。Intel、Oracle、そしてパートナーが組むことによって実現するテクノロジーイノベーションによって、エンタープライズ分野におけるチャンスが広がるのは明らか。ぜひ、この機会をとらえてほしい」と締めくくった。

「Rise of the Enterprise: Delivering the Next Wave of Opportunity」をテーマに講演