インタビュー

「統合ソリューションが提供できるのはDellだけ」~Dell幹部、Integrated IT Companyの意義を語る

 「Dellのエンタープライズ事業は好調で、特にアジア太平洋・日本地域では過去1年に2けた成長を遂げている。IDCの調査においてサーバーの出荷台数シェアトップを維持したほか、内部および外付けストレージの合計出荷容量もトップを誇っている」と、事業の好調さをアピールしているのは、Dell エンタープライズソリューションズ アジアパシフィックジャパン担当 バイスプレジデントのPeter Marrs氏だ。

 日本でも、直販による新規顧客の獲得や、チャネルビジネスへの積極的な投資の結果、市場を上回る伸び率を示しているという。「特に最近では、新たなシステムインテグレーターと組むことで全体のビジネスが成長している。また、Web関連企業の顧客が拡大している」と、Marrs氏は説明する。

 Dellではいま、さまざまなソリューションをエンドツーエンドで提供できる企業として、自社を「Integrated IT Company」と位置づけ、他社との差別化を図ろうとしている。エンタープライズ事業が好調な要因のひとつも、こうしたエンドツーエンドソリューションが提供できることにあるとする。Marrs氏に、あらためてIntegrated IT Companyであることの意味や同社の方向性を聞いた。

Dell エンタープライズソリューションズ アジアパシフィックジャパン担当バイスプレジデント Peter Marrs氏

すべてを1社で提供できている、Dellの強み

――DellのいうIntegrated IT Companyとは、どのようなものなのでしょうか。これまでのDellと何が違うのですか?

 まず市場の状況をお話ししましょう。IBMはPC事業やサーバー事業を売却し、ほかの事業も切り売りするのではないかとうわさされています。また、Hewlett-Packard(HP)も、エンタープライズ部門とPCおよびプリンタ部門の分社化を予定しています。このように他社が事業を分離させている一方で、DellではPCからサーバー、仮想化、クラウド、そしてこれらのインフラストラクチャやネットワークなど、すべてを1社で提供できています。

 PCを利用するお客さまが、デスクトップ仮想化を検討している状況を考えてみてください。IBMやHPに相談したとしても、PCと仮想化では窓口が別になり、煩雑性が増すことになりますが、DellであればPCであってもデスクトップ仮想化であっても、同時に対応できます。

 実際、私もエンタープライズ事業の担当ですが、お客さまとエンタープライズビジネスの話をしながら、PCのアップグレードなど、クライアントビジネスにまで踏み込んだ相談を受けることがあります。こうしたお客さまに対し、包括的な対応ができるのは現在Dellだけで、これがIntegrated IT Companyの醍醐味(だいごみ)なのです。

――確かに、市場の状況から見るとDellが唯一のIntegrated IT Companyになったのは理解できます。ただ、それはすべて他社が事業を切り離すといった外的要因で自然にそうなっただけではないでしょうか。DellがIntegrated IT Companyというメッセージを打ち出すことで、これまでと何か違うことはあるのでしょうか。

 もちろん、Dell自身もIntegrated IT Companyとして会社を変革するための取り組みを進めています。例えば、ここ4~5年で総額180億ドル程度を企業買収に費やし、提供できるソリューションの幅を拡大しました。

 2012年に買収したWyse Technologyは、デスクトップ仮想化ソリューションを提供する企業で、この買収によりDellは、デスクトップからサーバー、ストレージまでを含めた包括的なソリューションが提供できるようになりましたし、同じく2012年に買収したQuest SoftwareによってIT管理製品が提供できるようになりました。さらに、2010年に買収したBoomiにより、パブリッククラウドとプライベートクラウドを連携させて一元管理できるようになっています。

 ソフトウェア定義型インフラストラクチャ(Software-Defined Infrastructure:SDI)の分野においてもアプライアンスを発表したほか、リファレンスアーキテクチャも構築しています。また、MicrosoftやVMware、Red Hat、Clouderaなど、パートナーとの関係も強化しています。

欧米と同等のセキュリティサービスを日本でも

 また、日本で特に関心が高いセキュリティについても、Integrated IT Companyとして、端末レベルのセキュリティからネットワークセキュリティ、データセンターセキュリティ、またこれらを取り巻く監視ソリューションまでを含め、トータルなセキュリティソリューションを提供しています。過去数年に買収した企業の中には、セキュリティ関連企業も数社入っています。

 このように、買収や各社とのアライアンスにより、これまでには提供できなかった真のエンドツーエンドソリューションが提供できるようになってきており、Integrated IT Companyとしての基盤を固めつつあります。

――Dellがセキュリティ分野に取り組んでいることは、あまり知られていないように思えます。セキュリティ分野での取り組みについてもう少し詳しく聞かせてください。

 Dellは2011年にSecureWorksという企業を買収しました。これは、セキュリティのマネージドサービスを提供するためで、日本でも2013年2月にSecureWorksのビジネスを始動し、2014年2月には川崎にセキュリティオペレーションセンターをオープンしています。これにより、米国や欧州で提供しているマネージドセキュリティサービスやコンサルティングと同等のものが日本でも提供できるようになりました。

 セキュリティオペレーションセンターでは、企業内のトラフィックが急増しているといったような通常とは異なる不審な動きを事前に検知して告知するといったプロアクティブなセキュリティサービスを提供しています。デバイスそのものを守るソリューションだけでなく、こうした監視ソリューションまで提供できるのがDellの強みです。

Dellの今後の取り組み

――Integrated IT Companyとして、今後新たに展開する戦略や長期的な方向性について教えてください。

 Dellではアジア全体で営業体制を300人増員する計画で、うち70人が日本の人員となる予定です。チャネルビジネスについてもグローバルで1億ドルを投資する計画を立てており、金額は言えませんが日本でも積極的にチャネルやSIerへの投資を続ける予定です。

 製品についてお話しすると、Michael Dell(会長兼CEO)も言っていることなので再度強調しておきますが、Dellでは今後もデスクトップPCやノートPCの需要はあると考えているため、引き続きクライアント製品にも力を入れていく予定です。今後はより薄型で軽量、かつ長時間利用できるバッテリーが搭載された製品が求められるため、こうした部分を改善していく予定です。

 クラウドについては、今後もクラウドへの移行を検討するお客さまが増えることが見込まれます。その際、パブリッククラウドを選ぶのか、プライベートクラウドを選ぶのか、また移行にはどのようなステップが必要なのか、メリット・デメリットを理解してもらった上で決断できるよう、お客さまの意思決定を支援していきたいと思います。この分野では、MicrosoftやVMware、Red Hatなどとのアライアンスが重要になります。

 ビッグデータ関連ビジネスにも注力する予定です。オバマ大統領も、大統領選に立候補した際ビッグデータを活用して勝利を勝ち取ったと言われています。膨大なデータの中からいかにして価値を引き出し有効活用するかは、企業にとって重要な課題となるため、今後もこの分野のソリューションに注力したいと考えています。パートナーとして、SAPやClouderaなどとのアライアンスも強化する予定です。

 オープンネットワークへの取り組みも進める予定です。いま通信業界やWebテクノロジ系の企業では、NFV(Network Functions Virtualization)に注目しており、Dellでも今後5~10年でNFVが業界に浸透していくと考えています。そのためこの分野にもDellは積極的に取り組んでいきます。

 ネットワークやストレージ、データセンターは、ソフトウェアで定義されるようになり、プロプライエタリな世界からオープンな方向へと流れつつあります。これは長年のDellの方向性と一致しており、これがお客さまに評価されている点でもあります。今後もこの方向性を軸に、お客さまに信頼されるアドバイザーであり続けたいと考えています。

沙倉 芽生