インタビュー

“複合機”を超えて“サービスビジネス”へ、コニカミノルタの転換期

市村雄二氏

 かつて“コピー機“と呼ばれた複合機は、機能拡充によって従来のコピー・プリントにとどまらない高機能ハードウェアとなっている。特にネットワークに接続されたことでクラウドとの連携など、サーバーに近い機能を持つものも出てきている。

 こうした中身の変化によって、メーカーのビジネスモデルも大きく変化している。コニカミノルタでは急速にビジネスモデルの転換を進めている。ハードウェア中心のビジネスモデルをサービス中心のビジネスへと転身を進めているのだ。

 その代表例が、スキャンデータをクラウドに保存する「Smartスキャン」、プリントデータをクラウドに保存しどこでも印刷可能にする「Pullプリント」、社内外のどこからでもオフィスの複合機にプリント指示できる「Remoteプリント」などを提供する「INFO-Pallet Cloud」だが、ほかにもさまざまなサービスによる付加価値を提供している。

 同社はどのようにサービスビジネスへの転身を図っているのか、マーケティング本部 副本部長 ICT・サービス事業統括部長の市村雄二氏に訊いた。

トータルでデジタルワークフローを提供できる会社に

――複合機の機能進化は目を見張るものがあります。これだけ変化が激しいと、ビジネスにも大きな変化が必要だと思います。今日はコニカミノルタの複合機ビジネスがどう変化しているのかをうかがいたいと思います。

市村氏
 コニカミノルタは、それぞれのジャンルにフォーカスし、トップを目指すジャンルトップ戦略を推進しています。この戦略でナンバー1シェアを獲得したのがローエンド商業印刷分野、そしてもう一つが企業のセンターマシンです。

 企業のセンターマシンとは、卓上に置くA4プリンタではなく、大規模オフィスの中央に設置する、多機能で高画質印刷を行うA3カラー複合機を指します。オフィスのセンターマシンにフォーカスし、全世界30カ国でシェア1位・2位となりました。プロダクトシェアも上昇しましたし、プリント枚数も増加傾向にあります。

 それでは何故、世界30か国でジャンルトップとなることができたのか? ポイントとなるのが、付加価値の付け方です。従来の複合機時代とは異なり、センターマシンはITサービスと連携して利用することが当たり前になりました。

 ただ、ITサービスというのはなかなか曲者で、(当社としても)マーケットは大きくなるものの、競合相手の顔ぶれはコピー機時代とは大きく異なってきます。ITサービスとなれば、ワールドワイドではIBM、日本でのビジネスにあたってはNEC、富士通といった大手ITベンダーがメインプレイヤーです。

 こうした大手ITベンダーとシステムインテグレーションで競合するのではなく、自分たちの得意分野である、デジタルワークフローソリューションに特化し、そこで戦うというのが当社の戦略です。

――デジタルワークフローソリューションとは具体的に何でしょうか?

市村氏
 たとえば「SAPを導入したが、利用している紙の枚数は導入前とちっとも変らない。経理の担当者は依然として出力した紙をファイリングし、保存している」。色々な企業の方から、こんな声をよく耳にします。新しいITシステムを導入し、社内の合理化をはかったにも関わらず、発注はあいかわらずFAX、契約書はメールの添付で届き、これをスキャンして入力している。データの置き場所もバラバラで、セキュリティ的にもよくないし、効率もあがりません。

 そこで当社では「SAPコネクタ」というツールを開発しました。従来は紙で行っていた作業を、デジタル上で展開するためのワークフローを構築したのです。SAPユーザーはSAPの画面から入力でき、受発注に関しては間違いが起こらないよう、実績に基づいた数値でなければ入力できないようになっています。突然、あり得ない数字を入力してしまったといったミスを防ぐ機能も設定できます。このようなデジタルワークフローサービスは、これまでのシステムインテグレーションとは異なるものですし、単に紙をデジタルに置き換えただけのサービスでもありません。

――まさに、これまでにはなかった付加価値を提供するものだということですね。

市村氏
 そうです。同様のサービスは、パーツ単位ではほかに提供している会社もあります。しかし、トータルでデジタルワークフローを構築し、提供できる会社は他にはありません。

 2014年10月に米Hyland Software(ハイランド社)とグローバルでの協業を行うことを発表しました。ハイランド社の「Enterprise Content Management System(ECM)と我々の複合機を組み合わせることで、紙の資料を単に電子化するだけでなく、統合的に運用管理するワークフローとして活用できるようになるのです。こうした他社の提案とは異なる、業務効率をあげる提案をすることで、単に複合機単体を販売するのではない、我々ならではの付加価値が提供できるようになります。

サービス販売だからこそ実現する顧客との強い信頼関係

――サービスビジネスが重要といっても、ハードウェア販売に比べるとさまざまな違いがあると思いますが。

市村氏
 従来の複合機販売は、印刷した数をカウントしてビジネスを行う物売りビジネスですから、サービスバンドルするビジネスは距離感があったことは事実です。ただ、直販ビジネスを重視してきた当社には「社内の変革」が占める割合が大きく、変革にかじを切りやすかったところがあります。

 とはいえ、「モノではなくサービスを売るという体質をどう身に着けていくか」は大きな課題となりました。企業としてサービスを売る体質を徹底するためには、個人が知識を身に着けただけでは駄目です。特にサービスは、物とは違って“一物一価”ではありません。どのレベルで提案するのかによって値段が変わってきます。日本の大手SI企業でも失敗コスト増が問題となるくらいです。サービスビジネスにはリスクも伴います。

 その一方で、適切なサービスを提供すれば信頼が高くなるのもサービスビジネスの特徴だといえます。その例が京大病院への導入例です。元々、コニカミノルタのハードウェアが導入されていない状態で、先方から「クラウドサービスを使いたい」という要望があったことでビジネスが始まりました。

 正直に言いますと、ビジネスが進展していく中で、「ハードを入れたい」という声が当社内からはあがりました。でも、現在、コニカミノルタではハードとサービスを個別にメリットを訴求し、初めてハイブリッドセールスの価値が高まる、という考え方をしています。

 サービスビジネスは、ハードウェアビジネス以上にお客さまとの信頼関係が高くなる傾向があります。他社マシンが入っている中、サービスビジネスで信頼を得ることができれば、後々でハードウェアビジネスに発展していくことも多いんです。サービスビジネスで信頼度が高まると、お客さまとの関係は粘着力ある関係になるんですよ(笑)。

クラウドは中堅以下の企業のIT活用を大きく変える

――これまでのハードウェア販売にとどまらない、付加価値を提供するビジネスへの転換は容易ではなかったのではないかと思いますが。

市村氏
 当社は複合機を販売する同業他社に比べ、直販ビジネスを大事にしてきました。チャネルに頼ったビジネスをしてきた企業よりもビジネス変革を行いやすかったという側面はあると思います。直販ビジネスでいち早く「物売り」だけでなく「事(こと)売り」を組み合わせ、他社とは違う業務効率実現につながる提案ができるようになったことが大きいと思います。

 とはいえ、サービスビジネスへ転換するためのマインドチェンジを行うためには、国など地域差もありますし、1年くらいは転換までの時間はかかりますね。

 直販が多いとはいえ、パートナー経由での販売もありますが、パートナーのビジネスは一部が変わり始めたところです。南アフリカのパートナーは早いスピードで変化していますが、欧州のパートナーは変化が難しいようです。商圏を持っていると逆に変化が難しいようですね。

――パートナーも含め、サービスビジネスへの転換が必須となった最大の要素とは何なのでしょうか。

市村氏
 やはりクラウドが一番大きかったと思います。クラウドと連携させることで、ハードウェアにも新しい価値を生みだすことができます。複合機でスキャンしたデータを、クラウドを介して外部から見えるようにする、外部でプリントするといったビジネスができるようになります。ハードウェアだけではできなかったサービスビジネスが実現するようになったのです。

 パートナーと一緒に展開しているビジネスについても、複数の外部サービスをシングルサインオンで使えるようにする。支払についてもシングルビリングで利用できるようにするといった、ハードウェアでお客さまを持っているからこそできるビジネスもあります。例えば、シスコのある会議システムサービスは年次単位での支払いが前提です。しかし、建設現場では半年でその現場が閉まるので、6か月だけ使いたいという要求もあるのです。そうしたニーズに答えていくサービスビジネスが始まりました。

 さらに、それまでIT投資ができる大企業にしか利用できなかった面がありました。中堅以下の企業は置き去りになっていた部分があった。それを変えていくのがクラウドです。新しいテクノロジーが出てきた時、その機会を見過ごすと大変なことになると思いますよ。

 例えばSalesforce.comの米国での展示会を見ると、IBMがブースを出していました。IBMがベンチャー企業の展示会にブースを出すなんて、昔だったら考えられなかったことではないかと思います。しかし、IBMはSalesforceの提供するクラウドサービスをインフラとして、そこに自分たちの製品やビジネスを載せることで新しい価値を生み出せると判断したからこそ出展したのでしょう。そういう判断を見過ごすとビジネスチャンスに乗り遅れることになってしまいます。

 当社でも従来は品川にあったショールームを浜松町に新たに開設しました。我々が実践しているオフィス変革を、お客さまにも実感してもらう場として活用してもらうことを目的としています。

 JPタワーにある本社でもフリーアドレスで新しい働き方を追求しています。日本企業はホワイトカラーの生産性が低いと言われます。それに比べると、米国では固定席を与えず、ワークフローを活用することでホワイトカラーの生産性をあげるための仕組みを作っています。そのノウハウを自分たちで取り組み、ノウハウとして蓄積し、活用していくことを目指しています。

“コニカミノルタ“というブランドをどう超えるのかが課題

――サービスビジネスを推進するためには、社内の人材教育も重要な課題となると思いますが。

市村氏
 2年前から、社内向け教育プログラムを大幅に強化しました。サービスビジネスを行うにあたり、自分が目指す姿を何パターンか、考えさせました。新たにサービスビジネスに取り組むにあたり、人物像から明確化する必要があると考えたからです。マネジメント層は、それを受けて若手に経験を積ませ、最初は数円単位から売り上げ目標を立てて経験させていきました。

 教育プログラムは、年齢ごとに内容が異なります。年齢がいけば、変化を望まない人もいますから、各人に合った仕事をする仕組みとしています。もちろん、若手は変化を望まないでは困りますから、iOS・Androidを学んでもらって、さらにMicrosoftのテクノロジーやオープンソースと何種類かのパスを用意し、学ぶことができるようにしています。

 社員が変化していくための教育制度は、急に変化が起こるマジックがあるわけではありません。地道に、淡々と人を育てていく取り組みを続けていくしかありません。継続的に教育を行っていくしかありません。

――今後、サービスビジネスを行っていく上でどんな方向を目指しているのでしょうか。

市村氏
 我々に課せられているのは、従来のコニカミノルタブランドのビジネスをどう超えていくのかだと思います。お客様と共に新しいドメインを創っていかなければなりません。

 今日、お話したことは全て従来のコニカミノルタの範疇でやってきたことだと思います。「そういう範疇におさまらないことをやれ!」と社内に言っています。ビジネスイノベーションセンターというところで、R&Dを含め、新しいソリューション作りを行っているのですが、「2割は市村には理解できないようなことをやれ!」と言っているんですよ(笑)。

 ワールドワイドで新しいソリューションを生み出す取り組みをしています。大学と組んで新しい研究をしているところもありますし、ベンチャーキャピタルと組んで新しいものを発掘する試みや、シンガポールでは政府と提携しています。おそらく、2015年度あたりから、こうした新しい取り組みから、新しいビジネスが生まれるのではないかと思います。

三浦 優子