Adobe Scene7がもたらすカスタマーエクスペリエンスとは
米Adobe Systems社 シーラ・ダルグレン氏 |
アドビシステムズは2009年9月からSaaS形態のリッチメディアサービス「Adobe Scene7」を日本で提供している。
Scene7は一言でいうと、「写真やPDF、動画などの素材をアップロードしておき、オンデマンドでダイナミックに加工して表示する」サービスだ。主にECサイトで商品をより効果的に紹介するために使われる。顧客は、百貨店を含む従来の流通業から、オンラインショップ、エンターテインメント、出版、教育など、多岐にわたる。
Scene7の詳細と今後の戦略について、2010年7月に来日した、米Adobe Systems社でScene7のプロダクトマーケティング担当シニアディレクターを務めるシーラ・ダルグレン氏に話を聞いた。
■商品写真のズームや回転をダイナミックに実現
Scene7の機能の代表として、ダルグレン氏が「ここから始めるユーザーが多い」とまず紹介したのが、製品などの写真をリッチに表示する「Dynamic Imaging」だ。
実際にデモされたのが電機メーカーのPhilipsのオンラインショップ。製品のページで写真下の「360」のボタンをクリックすると、写真が大きく表示される。それだけでなく、スライダー操作でズームインやズームアウトをしたり、ドラッグでパンして見たい部分を中心に持ってきたり、ボタン操作で360度回転してさまざまな角度で見たりできる。
通常のオンラインショップでは、小さな写真と拡大写真の2とおりしか見られない場合も多い。それに比べるとPhillipsのオンラインショップでは、商品の細かいところまで確認できて、「オンラインと店舗との差をなくすカスタマーエクスペリエンスを顧客に提供している」とダルグレン氏は説明する。
Philipsでは、最近オンラインショップをアップデートし、電動歯ブラシのような小物などを含む全商品の写真をScene7に対応させたという。「これによって、顧客満足度が7%ポイントほどアップしました」(ダルグレン氏)。
オンラインショップ側では、1組のマスターだけをScene7にアップロードすれば、Scene7側でさまざまなサイズのイメージをダイナミックに生成してくれる。例えばズームに対応するのであれば1枚の大きな画像だけアップロードすれば、小さい画像はScene7が生成してくれる。また、360度回転に対応するにも、それぞれの角度の写真を1枚ずつアップロードすればよい。そのため、さまざまなサイズの写真を自分で作成する手間は必要ない。
Philips社のオンラインショップ | 倍率や角度を変えて商品を見られる |
■PDFからインタラクティブなオンラインカタログを作成
続いてダルグレン氏が紹介したのは、オンラインの製品カタログを作るeCatalogの機能。紙のカタログのためのDTPデータがあれば、それをPDFにしてアップロードするだけでオンラインの製品カタログができるという。ページをめくる動作やズーム、付箋などのインタラクティブな機能も自動的に付けられる。また、ハイパーリンクや動画なども追加できる。
通常は、紙のカタログを作ったあと、それを元にインタラクティブなオンラインカタログを作ると、手間とコストがかかる。しかし、Scene7なら「印刷用のデータをアップロードするだけ」(ダルグレン氏)。
また、オンラインで顧客がカスタマイズできるのがWeb-to-Printの機能だ。PhotoshopやIllustrator、InDesignなどで作ったデータをテンプレートや素材にして、オンラインで組み合わせたりテキストを入れたりして印刷物を作れる。グリーティングカードなどに向いている。作成した内容は、印刷品質のPDFとして出力される。
テンプレートを元にグリーティングカードを作成 |
■まず素材をアップロードするワークフロー
Scene7の機能に共通するのは、完成品をアップロードするのではなく、まず素材になりそうなものをアップロードしていって、サーバー側で加工して完成させる、という作業スタイルだ。加工した結果も、Webや印刷、ユーザーごとにカスタマイズされたメールなど多様だ。同じWebでもPCやスマートフォンなど機器ごとに対応する。
また、画像を保存し配信するためのデータセンターのストレージや回線、管理も不要になる。これらにより、コンテンツの作成から配信までの「バックオフィスの簡素化」がScene7のメリットの一つだという。
「これでコンテンツの制作フローが変わるかもしれません」とダルグレン氏は語る。Scene7では、「とりあえずサーバーにアップロードする」というフローになるということだ。
さまざまな形式のデータを、さまざまな形態で配信するまでの間を、Scene7が受け持つ |
■より消費者がイメージできる体験をオンラインで
ダルグレン氏によると、Scene7のメリットは第一に「すぐれたカスタマー体験を提供し、コンバージョン率を上げる」ことだという。ダルグレン氏は、フォレスター社の「カスタマーエクスペリエンスを顧みない企業は、売上のチャンスを4%捨てている」という言葉を引きながら、「消費者がもっと楽になってもいいのでは」と述べる。
ダルグレン氏はScene7で動画を使ってカスタマーエクスペリエンスを向上させる例として、米国のデパートJCPennyのサイトをデモした。服の説明に、モデルが着て歩く動画を掲載。さらに、動画をズームしたり、同じ服を違うモデルが着るところを選んだり、サムネイルで動画を並べて見たりできる。服は店舗で見るだけでは実際に着た感じまではイメージしづらいが、動画であれば店舗以上に消費者がイメージできる。
モデルが商品を着て歩くところを動画で見せる | モデルを選んだり動画をサムネイルで表示したりできる |
■アクセス解析と組み合わせてさらなるカスタマーエクスペリエンス
さらにダルグレン氏は「カスタマーエクスペリエンスにまだまだ改善の余地があります」と語る。Adobeがいま想定しているのが、顧客の反応を見てよりよいカスタマーエクスペリエンスに作り変えていくフィードバックのループだ。
Adobeは、2009年に買収したアクセス解析ソリューションのOmniture社の製品と連携することで、このループを実現しようとしている。Adobe CS5ファミリー製品でデザインしてScene7にアップロード、Scene7がダイナミックにコンテンツを生成する。そしてコンテンツに対する顧客の反応をOmniture Marketing Suiteで分析し、それを元に、Scene7やCS5に戻ってコンテンツに改善を加える、というマーケティングのループだ。
具体例としては、商品についたキャッチコピーをA/Bテストで効果測定するケースが考えられる。同じページでコピーを「Summer Sale」と「10% Off Select Items」の2種類で入れ替えて、クリック率を見てどちらのコピーを以後表示するかを決定。自動的に最適な表示に変えていくようにできるという。
「Summer Sale」と画像にコピーが入っている | コピーを「10% Off Select Items」に変更 |
これにもDynamic Imagingの機能が利用されている。コピーのテキストは製品写真の素材に入っているのではなく、Scene7でダイナミックに合成して表示する。そのため、コピーを変えるために人間が作業することなく入れ替えられる。
現在のところ、Scene7とOmniture Marketing Suiteはそれぞれ独立している。そこで、検査項目として、「商品のどの部分がズームされたか、カスタマイズでどの色が選ばれたか、なども調べられるようにしたい」(ダルグレン氏)。
さらに、同じく秋にはHTML5上でのタッチスクリーン操作にも対応し、iPadやiPhoneからタッチでズームなどの操作ができるようになることも語られた。
iPadのタッチスクリーンから操作 |