NECと米Netezzaに聞く、DWHアプライアンスを共同開発した理由
日本電気株式会社(NEC)と米Netezzaは2月に、データウェアハウス(DWH)アプライアンスの共同開発を発表。x86ベースのハードウェアを利用したNetezzaの主力DWHアプライアンス「TwinFin」と同等の機能・処理能力を持った「InfoFrame DWH Appliance」を、NECのハードウェアをベースに製品化するとしていた。
それから4カ月が経過し、4月より出荷が始まったこの製品は、どういった思惑で開発されたのか。また、どういった展開を検討しているのか。こういった点を、米Netezzaのジム・バームCEO、NEC プラットフォームBUの赤津素康支配人、NEC ITプラットフォームソリューション事業部の今井浩栄統括マネージャー、日本ネティーザのダグラス・エッツェル社長に聞いた。
■技術の進化で汎用ハードウェアを採用、まずはIBMのプラットフォームへ
――まずは、長年自社開発のハードウェアで提供していたものを、x86の汎用ハードウェアベースに切り替えた理由をお聞かせください。
米Netezzaのジム・バームCEO |
IBMのハードウェアをベースに開発された「TwinFin」 |
バームCEO:おっしゃるように、最初はDWHアプライアンスを、プロプライエタリハードウェアで始めました。それは、HDDからのスループットを最大化する必要があったからです。
2002年から2003年くらいには、x86 CPUではなく、HDDからデータを読み出すスピードがそれほど速くないことが、一番の問題でした。そこで、FPGAを用いて、システム全体で最大のスループットが出せるようにしたのです。
ところが、CPUやネットワーク、ストレージの最新技術動向を見ていたところ、2年前くらいから、商用のブレードサーバーを用いても、必要な帯域を満たせるようになりました。帯域とコストだけでなく、電力と冷却についても、シングルラックで必要なものを提供できるようになったのです。
ですから、今の製品(TwinFin)は、ストレージにせよ、ネットワークにせよ、ブレードにせよ、商用のものを利用しています。ハードウェアは変化します。インテルが新しいCPUを出すにせよ、ネットワークやストレージが出るにせよ、革新を生かすことができます。
ただし、FPGAのデータカードは、独自のものを引き続き利用しています。
――x86ハードウェアを採用する上で、最初にIBMを選んだ理由は何なのでしょうか?
バームCEO:確かに、TwinFinをIBMのブレードとストレージ、スイッチを使っています。なぜIBMだったのかといえば、それは、技術的な密な関係を構築できたからです。あまりにも関係が密なので、ハードウェアの開発に対して、アプリケーションに有利な開発をしてもらえるほど、強い影響力を持つことができました。
――しかし、特定のベンダーのハードウェアを使うことに対して、販売パートナーからの懸念はなかったのでしょうか。
バームCEO:確かにありました。
だからこそ、NECにパートナーシップを持ちかけたのだといえます。そして結局は、NEC製のハードウェア上で(当社のアプリケーションを)走らせるものができた。今は、NEC製とIBM製があるわけです。
NECとのパートナーシップは、当社にとってとてもユニークな位置付けにあります。IBM製品ベースのものは、当社が売って、当社がサポートをする。しかしNEC製のものは、NECの製品であって、販売もサポートもNECが担当。当社はその後ろでサポートする、といった形になります。これは、本当のパートナーシップといえるでしょう。
――自社ハードウェアを使いたい、という申し出は、NEC以外にもあったのでしょうか?
バームCEO:はい、ありました。
その中から、ビジネス、戦略、テクノロジーを含めて、ベストなパートナーを選んだのです。それがNECだった、ということです。
■NECが自社ハードウェアベースで開発した理由
――NEC側では、どういった狙いがあったのでしょうか。
NEC プラットフォームBUの赤津素康支配人 |
InfoFrame DWH Appliance |
赤津支配人:当社は30年来ビジネスをしてきましたから、カスタマーベースもたくさんあります。特にメインフレームを利用いただいているようなお客さまから、NECもメーカーなのだから作れないのか、という声がありました。
また、仕入れて売るだけだと。サポートなどの問題もありますね。今までは、一次サポートを受け付けることはできましたが、そのあとはNetezzaの方でやってもらっていた。自社ハードウェアでしたら、NECフィールディングが持つ拠点、500カ所がすべて活用できる。安心していただける、という点は大きいでしょう。
今井氏:また、運用管理の仕組みを統一したいですとか、バックアップを含めてやってくれ、という話をいただくことも多いのですが、当社が製品化したことで、こういった付加価値ソリューションの部分がやりやすくなっています。
4月に出荷を開始して以来、すでに2社にお納めしました。商談の件も増えており、順調だといえるでしょう。
――Netezza、NEC双方にお伺いします。InfoFrame DWH Applianceの開発にあたって、苦労したことはあったのでしょうか。
バームCEO:強調しておきたいのは、NEC、IBMの両製品とも、スタンダードなハードウェアを用いているという点です。ブレードも、インターコネクトも、ストレージも標準のものを使っている。
実は、正直なところ、NECとの統合の方が簡単でした。
こういうプロジェクトは緊密な関係ができあがってこそ完遂できるものです。IBMと緊密な関係があったからTwinFinができ、そしてNECともあった。だからこそ、最初のバージョンのInfoFrame DWH Applianceは、とても短い期間で開発できました。
赤津支配人:今回は、一年もかからずに仕上げたのですが、当社は、これまでもアプライアンスを手掛けていた、ということが大きいと思います。(次世代グリッドストレージの)「HYDRAstor」も、一番大変だったのは、ソフトウェアとハードウェアのチューニングの部分でしたが、今回も、ソフトウェア、ハードウェアの技術者をNetezzaに送り込んで開発していました。
ふつう、外国のベンダーとの共同開発は難航するものですが、今回はそうでもありませんでした。いろいろな面で、よく、対応していただいたと思います。
――自社製品になったことで、販売の上でのモチベーションは、これまでと違ってきますか?
赤津支配人:それはそうです(笑)。
力の入り方が全然違います。今までは他社のハードウェアでしたが、自社製品になったことにより、販路を広げていくことにしても、積極的にできるようになりました。
――現状の製品ラインアップは、TwinFinとほぼ同じになりましたが、今後も、Netezzaのロードマップに従って拡充をしていくのでしょうか。まだ用意できていない中には、開発用途などで利用される小型モデル「Skimmer」など、ニーズがありそうな製品も含まれていますね。
赤津支配人:時期的なところをどうするか、市場の状況を見ながら、順次増やしていこうと計画しています。
今井氏:金融系などですと、Skimmerではなく、同じ製品を二重にほしい、というような要望もあって、必ずしもSkimmerが必要ないのではないか、という議論があるんです。また、完全に自社製品になったことで、貸し出しも含めた柔軟な対応もできる。いずれにしても、ニーズを見ながら考えていきます。
赤津支配人:自社ソリューションでは、WebSAMとの連携、iStorageとの連動といったソリューション化を考えています。BIツールのバンドルなども、当社にはアプリケーションのエンジニアがいますので、特定の業界向けに提供できます。アプリケーションまでを含めて、アプライアンスをインダストリーカットで提供できるようになっているのです。
――また、NECは今回の製品開発では、世界での展開を検討しているとも伺っていますが、その状況はいかがでしょう。
赤津支配人:まだ明確に、この製品を持って海外へ、とは思っていません。当然、Netezzaがやっていますからね。ただ当社としても、日本のお客さまが東南アジアに工場をお持ちだったりすることはたくさんありますから、海外でやっていかないといけない部分は確かにあります。サポートの問題もありますので、ワールドワイドに急に展開する、とはまだいきません。
■「iClass」を用いた新しい活用法も検討していく
――高性能なDWHアプライアンスをBI用途以外に使う、ということも、今では増えてきたと聞いています。ネティーザが発表している「iClass」オプションでも、新たに需要予測などに活用可能、としていますが、自社のラインアップにInfoFrame DWH Applianceが加わることで、新たな領域に入っていくことを狙っているのでしょうか?
バームCEO:iClassについては、本当にNECとのパートナーシップについて理想的な能力だと思っています。単なるSQLエンジンのエンジンではなく、並列処理のグリッドとして使う、新しいプラットフォームの新しい使い方です。
C++、Javaやオープンソースの統計解析言語であるR、Hadoopなど、さまざまな言語に対応しますし、パートナー企業にも重要な意味を持っています。多くのアプリケーションプロバイダとパートナーシップを組み、アライアンスを締結したいと思っています。
多くのアプリケーションをアプライアンスに組み込んで利用できますから、そういったことを考えると、NECとの協業では期待できる領域ですね。もちろん、BIやビジネスアナリティクス、データマイニングでももっともっと使っていけますが。
――例としては、どういったものが考えられますか?
バームCEO:まずは、金融業でのリスク分析が挙げられます。住宅ローンまわりでの証券など、金融商品が問題になってきていますが、規制要件を満たすためには、ソリューションを使ったリスク解析が必要です。現在は、ある特定の融資に対してリスクがどのくらいか、といった分析を、ある金融のお客さま向けに開発しています。
また、iClassを使って、ETLプロセスの多くの部分を、アプライアンス内部でできるように開発を進めています。これまでは、社内で開発した独自のものを使っていたそうですが、これをアプライアンス化したことで、面白い結果が出ました。
分析・解析のソリューションをSaaSで提供している、あるクラウドプロバイダの話ですが、ここでは、データを受け取ってから、それを迅速に分析できるようにすることを求められます。しかし以前は、あるデータ群を実際に使えるようにするために、受け取ってから最短48時間かかっていました。これが、アプライアンスによって33分に短縮された、というのです。状況が、まさにガラッと変わったのですね。
赤津支配人:日本でも、Webログの解析など、非構造化データに需要が広がってきて、新しいお客さまが増えています。Webを中心に商売をされている企業は、分析が命ですから、そういったところに投資をされていますね。こうした領域に、うまく広げていければと思っています。
――こういった点も含めて、NECへのノウハウの委譲は進んでいくのでしょうか。
バームCEO:その通りです。すでに始まっています。
そもそも当社は、何年も販売してきた経験から、アプライアンスのコンポーネントのバランスの取り方や、システム管理などの知識を持っています。それらは、これまでも委譲してきましたし、だからこそ製品が開発できた、ということです。
もちろん、これからも、どう使うのかといった点や、ほかのテクノロジーとどう統合するのかなどの知識を提供しますし、市場における競合製品についての知識も持っていますので、それらを委譲、転送していきます。
エッツェル社長:日本法人でも、NECと5年近くパートナーシップを組んでいて、DWHの経験やノウハウを強く持っています。当社のソフトウェアとノウハウと、そしてハードウェアと、パーツが全部そろいました。あとは市場で販売していくだけ。無駄もなく、すき間もなく、ぴったりのパートナーシップを持っているといえるでしょう。