インタビュー

全世界のサーバー7台に1台を提供しているQuanta、日本での事業展開を本格スタート

 ODMベンダーであるQuanta Computer Inc.では、近年サーバー製品に注力している。サーバー製品の業績は順調に拡大しており、「800万台といわれる全世界の年間出荷台数のうち、7分の1を当社が占めている」と話す。

 このサーバー製品の実績をさらに拡大することを狙い、提供製品をデータセンターで活用するストレージ、ネットワークスイッチ、ラックへと拡大。こうしたデータセンター(クラウド)向け製品の販売については、Quanta Cloud Technologyの名称の100%子会社を設立し、順調に業績を伸ばしている。

 すでに、日本での製品販売は行っているものの、今後は日本法人を設立し、販売パートナーであるテックウインド株式会社との協業により、販売ターゲットをさらに拡大することも目指すという。日本ではまだ知名度がそれほど高いとはいえないQuantaだか、同社はいったいどんな企業なのか。

 Quanta Computer Inc. Sales Dept. Cloud Computing Business Unit Business Group of Cloud SpecialistのLorena Hong氏、QCJ株式会社 field Application Engineerの島田洋一氏、テックウインド株式会社 営業本部 PM第二部 プロダクトマネージャーの野嵜太郎氏に話を聞いた。

目指すのは、クラウド分野で最大のハードウェア企業

――日本のユーザーは、Quanta Computerという企業について、知らない人が多いと思います。まず、Quanta Computerという会社がどんな会社なのか、教えてください。

Quanta Computer Inc. Sales Dept. Cloud Computing Business Unit Business Group of Cloud SpecialistのLorena Hong氏

Hong氏
 まず、Quantaがどんな会社なのかについてですが、Quanta Computer Inc.は1988年、台湾で誕生しました。台湾では株式を上場しており、昨年のフォーチュン500の中で、321位が当社です。従業員数は約12万人。本社がある台湾は、開発・営業のスタッフを中心に約5000人が在籍し、このうち600人がエンジニアです。最も多くの従業員がいるのは、工場がある中国です。

 もともとはODM(Original Design Manufacturing)専業企業で、現在でもノートPCのODMでは世界最大シェアを持っています。

 しかし最近ではODMだけでなく、自社ブランドで製品を提供するようになってきました。Quanta全体の売り上げは増えているのですが、そうした中でも、年々、ODMに対する自社ブランド製品の売上比率が向上しています。

――事業の中心はノートPCなのですか?

Hong氏
 いえ、近年売り上げを大きく伸ばしているのがサーバー製品のODM、そして自社ブランド製品です。サーバー事業をスタートして以降、急速に事業が拡大しており、年間に全世界で出荷される800万台のサーバーのうち7分の1は、われわれが生産したサーバー製品になっています。

 そして現在では、サーバー製品にとどまらず、ストレージ、データセンター向けのネットワークスイッチ、ラックソリューションとデータセンターで必要となるハードウェア全体に事業領域を広げてました。このデータセンター(クラウド)向け製品については、Quanta Cloud Technologyという別会社を設立し、こちらを通して販売しています。

 当社では、ODMで培ってきたノウハウ、技術を生かし、ボードレベルからラックまで、すべて自社でデザインができることが強みです。サーバーに限らず、ストレージ、ネットワークスイッチ、ラックまでの、クラウドデータセンター向けハードウェアで世界最大の企業となることを目標としております。

 ソリューションとしては例えば、Facebookが提唱している「Open Computer Project(OCP)」というものがあり、当社では「Rackgo X」というブランドでOCP製品を提供しています。通常、ラックといえば19インチサイズですが、OCPでは21インチラックを用いてより集積度を向上させています。ラックの中に、サーバー、スイッチ、ストレージなどをより効率化して組み込むことで、集積度の高いソリューションとして提供しているのです。

短期間に成長できた鍵は“ODMで培った高い技術力”

――日本法人を設立するのは、これから日本でのサーバービジネスを本格化するからですか?

Hong氏
 もちろん、日本法人設立は日本でのビジネスを強化することが目的です。しかし、実はすでに日本でのデータセンター向けサーバー製品の販売は2、3年前から行っています。日本で大きなデータセンターを運営しているKDDI、さくらインターネットといった企業が当社のサーバー製品のユーザーです。さくらインターネットに関しては、インテルのケーススタディで紹介されているのですが、サーバーにとどまらずストレージも採用いただいています。

――非常に短期間で、データセンター向け事業が伸長しているようですが、その要因はどこにあるのでしょうか?

QCJ株式会社 field Application Engineerの島田洋一氏

島田氏
 ご存知の通り、サーバーのコモディティ化はものすごく進んでいます。メーカーの差別化ポイントはどこになるのかといえば、ずばり品質とサポート体制になると思っています。

 品質に関していえば、長い間、ODMによって製品を提供してきたことで培った、開発・生産ノウハウが大きな強みとなっています。ODM事業を展開する際、品質こそ命となります。品質にこだわり、高品質の製品を提供することができなければ、ODMベンダーには次のビジネスチャンスはありません。万が一、「故障が多い会社だ」と認識されてしまったら、次に呼ばれることはなくなってしまうからです。ですから、ODM事業を展開していく中で、品質重視は当たり前のものとなりました。

 今回、クラウドデータセンター向け製品は、自社ブランドで提供しています。品質にこだわることは当たり前となっている中で、自社ブランドで事業を展開するわけですから、品質に対しては以前にも増して重視しています。

 先ほど、データセンターで向けに特化した製品でOCPをご紹介していますが、すでにいくつものデータセンターに採用されています。完全にコモディティ化された製品とは内容が少し異なるのですが、大規模データセンター事業者がわれわれの製品を採用していただいていることで、信頼性の高さについてはおわかりいただけるのではないかと思います。

野嵜氏
 同行営業させていただく機会に、これだけ短期間にサーバー事業が急成長した要因を実感することがあります。機能的には認知度が高いメーカーの製品と変わらない。それでいてコストダウンが徹底しているので、ユーザーは低価格でハードウェアを調達できることになります。ユーザーにとっては魅力的な製品です。

――先進的なユーザーには導入事例があるということですが、日本でのQuantaの知名度についてはいかがですか?

島田氏
 会社の知名度、商品の認知という点ではまだまだこれからですね。Quanta製品の品質を認知してもらって、大手メーカーと競合できるブランドイメージへと成長させていかなければならないと考えています。

 ただしデータセンター向け事業ですから、企業の知名度はない時点でも、商品を評価してもらえば十分にチャンスはあると思っています。

 企業がデータセンター事業者を選択する場合、「どこのメーカーのサーバーを使っているんだ?」と、サーバーメーカーを基準にデータセンターを選ぶことはありませんよね。クラウドサービスを利用するユーザーにとっては、トラブルなくサービスを提供してくれれば、ハードウェアはどこでもいいわけです。

 データセンター事業者の方々は、業界や競合他社の動向に敏感で、いいものを常に探していらっしゃいますから、そうした方々の目に止まれば、採用が増えると思います。

野嵜氏
 最初はブランド認知度が低いかもしれませんが、Quantaの実績が理解され、価格はメーカー製品と同等の品質でも低価格であることが伝わっていけば、日本でも採用が増えるでしょう。すでに大手データセンターには導入が始まっており、こうした実績が理解されれば、中規模データセンターなど、これまでリーチしていなかったお客さまにも評価されていくと確信しています。

テックウインドとの協力でサポート体制も拡充

――日本での製品販売にあたっては、製品の品質だけでなく、サポート体制がどれくらい整っているのか、製品を注文後のデリバリー体制が整っているのか?といった点が求められます。これは日本以外の国とは異なるニーズだと思いますが、これらの点はいかがでしょう?

島田氏
 今回、テックウインドと提携することを発表した狙いが、まさにこの部分を補完することにあります。われわれだけでは実現できない日本向け営業、サポート体制拡充を実現してもらいます。大手のデータセンター事業者などであれば、直接リーチすることができますが、中堅・中小企業などには、われわれだけでは手が回りませんから。

テックウインド株式会社 営業本部 PM第二部 プロダクトマネージャーの野嵜太郎氏

野嵜氏
 当初は、サーバー6製品、スイッチ2製品の8製品から取り扱いを開始します。サーバーについては、スタンダードな2ソケットのx86サーバー「S210-X12RS」、3Uスペースに12ノードという高密度実装を実現した「S910-X31E」をはじめとする6製品をサーバーの主要製品と位置付け、展開していきます。一方でネットワークは、ユーザーがオープンソースのネットワークOSなどを自由にインストールできる、ベアメタルスイッチ2製品を用意しました。

 営業に関しては、中規模クラスのデータセンター、さらにその下のレンジのお客さまも含め、われわれからアプローチしていきます。需要が多い製品については、在庫を置いてできるだけ短期間にデリバリーする体制を作りました。サーバー製品は、お客さまのニーズによって構成が大きく変わりますので、納期はこれだけと明言することは難しいですが、大きくお待たせすることなく製品をお届けできると思います。

テックウインドのQuanta紹介ページ。テックウインドではまず、サーバー6製品、スイッチ2製品を中心に製品を展開する

 サービス、サポートに関しては当社のFAエンジニアが担当し、プレセールスを含めた質問への対応、導入にあたっての技術支援を行います。

 故障、修理に関しては日本の大手事業者と提携して、全国規模で故障、修理ができる体制を整えました。センドバックの3年保守を標準提供するのに加え、オプションメニューとして、(1)パーツ先出し保守サービスパック、(2)オンサイト保守サービスパックという2つを用意しています。

 パーツ先出し保守サービスパックは、故障が起こった場合に窓口に連絡いただき、故障した部品をこちらから送付するという有償サービスです。

 オンサイト保守サービスパックは、障害発生後に連絡を頂き、訪問して修理を行う有償サービスです。中身については、365日・24時間サポートと、平日の9時~17時までのサポートという2種類を用意し、必要に応じてお客さまに選んでいただけます。

 このような体制により、安心してお使いいただける環境ができたと思っています。

――製品については、今後はどんな製品を用意しているのでしょうか?

島田氏
 データセンター向け汎用製品からスタートしますが、インテルの新しいCPUが出れば、即座に対応していきます。それほど遠くないタイミングで、新製品を紹介できるでしょう。

 こうした汎用製品とは別に、先ほどもお話ししたOCP製品も、将来的には提供していきたいと思います。日本ではまだまだ、欧米に比べてOCPは浸透していません。OCPを利用するには、データセンター自体の設備も高密度型サーバーに対応している必要がありますので、そのような最新のデータセンターがそろってくれば、日本でも販売を本格化させたいと思っています。

 まず汎用的な製品からスタートし、当社への認知が進んでいくことで、最終的にはOCPへの理解も深まり、日本市場にもOCPなどのラック製品を投入ということになると思っています。実際に製品を見ていただくと、大規模データセンターに最適化されたことがおわかりいただけるでしょう。

Interop Tokyo 2014に展示されていた、OCPの「RackgoX」シリーズ。上から、マイクロサーバー「S1M」、コンピュータサーバー「F03C」/「F03A」、JBODストレージ「JBR」

三浦 優子