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「社会価値を創造できるインフラを提供する」~NEC・遠藤信博社長

C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2013 基調講演

 日本電気株式会社(以下、NEC)とNEC C&Cシステムユーザー会(NUA)は、11月14・15日の2日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムにおいて、「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2013」を開催する。

 初日である14日の10時からは、NECの遠藤信博社長による、「インフラで、未来をささえる ~“人が生きる、豊かに生きる”ための社会価値創造をめざして~」と題した講演が行われた。

豊かに生きるための社会インフラをICTを通して提供する

NECの遠藤信博社長

 遠藤社長は、NECが、電話の発明から100年を経過した1977年10月10日に、C&Cにより、コンピュータとコミュニケーションの融合の重要性を宣言したことに触れ、「それから36年間で大きな変化が起こり、いまやクラウドができあがり、リモートでICTが使えるようになった。21世紀のはじめには、いつでも、どこでも、誰とでも、お互いに顔を見ながら話ができる時代が訪れ、そのときにはすべての技術、通信、コンピュータおよびテレビジョンが統合されるとしたが、それが普通のものになってきた」と話す。

 また、「1990年代半ばから2000年にかけて、通信速度は1600倍、CPU性能は100倍、情報流通量は2倍となった。いままで扱えなかったデータを扱い、リアルタイム性が高まり、リモート利用が増加している」と述べ、現在の状況に触れるとともに、「2050年の世界経済は、人口が1.3倍の90億人に達し、都市に住む人口は70%となる。人口の増大をベースにした経済成長が期待される一方で、エネルギーは80%増が必要になり、食糧は70%増となる。これが歪みを生むことになる。いまの2倍近いインフラが必要になるということであり、これは、いまと同じインフラをもうひとつ作らなくてはならないということと同じだ」と指摘。

 その上で、「ここにICTの活用によって、新たな価値を創出することが求められる理由がある。安全・安心な暮らし、効率的な資源活用などの課題解決を目指す新しい社会インフラが重要になる」と、社会インフラの重要性を主張する。

C&C宣言
ITとネットワークの技術が飛躍的に進化

 こうしたことを踏まえて遠藤社長は、「NECグループは、人が生きる、豊かに生きるための社会インフラをICTを通して提供する社会ソリューション事業に力を注いでいる。私たちを取り巻く世界は、人口爆発、資源・エネルギーの枯渇、環境破壊など、地球的規模でさまざまな課題に直面している。今年4月にスタートした中期経営計画でも、人が生きる、豊かに生きるための社会インフラを、ICTを通して提供することを掲げた。大量に情報を収集する技術、それを分析して将来を予測する技術とともに、インフラとサービスの価値を提供するといったNECグループの強みを活用することで、エンドユーザーの視点に立脚し、安全・安心・効率・公平で、人と地球にやさしい情報社会の実現に取り組んでいく」と、NECの基本姿勢について言及した。

NECが注力する社会インフラ事業
ITとネットワークの技術が飛躍的に進化

ビジネスの付加価値向上のためのICT活用が増えてきた

 また、「企業においてはICT活用に変化が起きている」とし、業務効率化やコスト削減だけでなく、ビジネスの付加価値向上のための活用が増加していることに言及。「ICTの利活用の変化に伴い、CIOの役割は拡大していくことになる。新事業の創出、ビジネスモデルの変革、マーケティングの高度化などにも広がり、CIOが中心として取り組んできたコスト削減や効率化の取り組みから、CMOやCEO自らも、ITが生み出す能力、価値に注力する時期に入ってきたといえる」と述べた。

 さらに、「不連続性の源泉となる、ICTを通して生まれる価値は、Efficiency(高効率性、業務効率化など)、Value Creation(新規価値の創造、ビジネスモデル変革など)、Dependability(安定性、品質改善など)を向上させ、ビジネスの効果を不連続に、飛躍的に拡大させることができる。これらの価値創出の原動力となるのが、プラットフォームの価値、データ利用の価値をとらえたICTの革新になる」という点を指摘。

 プラットフォームの価値では、リアルタイムで、ダイナミックなサービスの提供や、リモートマネジメントを実現し、大量データをリアルタイムで処理する世界最速のストリーム処理技術、ICTシステムを高度化するSDNがあげられるとした。

 「プラットフォームの価値が高まることで、これまでは経験がなかったようなリアルタイム性を持つことができるようになる。クルマの自動運転も、センサー情報をサーバー側に集約してリモートでコントロールするといったこともできるようになるだろう。これは、ダイナミック性とリアルタイム性、リモート性といったクラウドの技術を活用することで実現できるものである」と語った遠藤社長は、続けて「過去の大量データから相関関係をモデル化し、さらに流れているデータとの相関関係分析で、異なる動きを発見し、コントロールに指示を与えることができる。これもダイナミック性、リアルタイム性で実現されるものである」などと述べる。

 さらに、「社会インフラの高度化において、SDNが重要な技術になる」とし、「ソフトウェアでネットワークをコントロールすることができるSDNは、NECの今後のビジネスのありようまで変えることができる」と、自社が強みを持ってきたネットワークについて語った。

不連続なプラットフォームの革新
リアル・ダイナミックを支えるプラットフォームの革新
リアルタイム化を支える高速ストリーム処理技術
SDNによる、ダイナミックなIT・ネットワークの最適化

データ活用の価値は?

大量のデータから生まれる価値

 一方、データ利用の価値では、テキストやログなどのサイバー情報に加えて、センサー、カメラ、スマートデバイスなどのさまざまなインターフェイスを活用して、実世界のビッグデータを収集。独自の技術をベースに開発した世界トップレベルのメディア処理技術と予知、予測を可能とする分析技術で新たな価値を見いだしていくとしている。

 「データの価値は、2つある。データをたくさん集めることで、見えなかったものが表面に出てくるというものがひとつ。クルマのワイパーでは、オン/オフというスイッチの情報だけしか見えないが、これをたくさん集めると、どこで、どれぐらいの強さで雨が降っているかがわかる。これが、Implicit(暗黙知)が、表面に出てきたというものである」と説明。

 もう1つについては、「蓄積された大量データから、部分集合を利用して法則を導き出すというこれまでの手法から、大量のデータのすべてを使うことで、精度の高い法則性を見つけることができるというもの。匠(たくみ)は、自然と過去のデータを自身で判断し、それによって、高品質、高価値の製品を作り上げている。この世界に追いつくようになる。将棋の世界では、今年から高段者がソフトウェアに負け始めた。これは棋譜というビッグデータのすべてを分析し始めたから生まれた状況である。これで、農業や工業でも、匠にも追いつける。ビッグデータという世界に変わったことから起きている事象であり、過去のデータを使い切ることが価値を生み出す」とした。

 また、NECは、こうした新たな価値創造が求めるなかで、技術的な観点から支援しているとして、「データの大量収集、蓄積データの分析、大量データの高速処理、ネットワークの高度化という4点から取り組んでいる」とも説明。

 ビッグデータの収集では、センサー、カメラ、スマートデバイスなどが重要になるとした上で、「大切なのは、センシング技術の向上であり、センサー情報に、認識技術や学習能力を組み合わせることで、より有用なデータを収集することができる」と話している。

 加えて、「ちょっと先を予測することが大切になってくる。NECは、世界トップレベルの分析技術によって、パターンや法則、規則性を導き出し、これを経験として蓄積できる」などとし、自社が持つ、インバリアント分析、異種混合学習、顔画像解析、行動分析、テキスト含意認識といった技術を示した。

Implicit 情報の大量収集による価値
蓄積された大量データから生まれる価値
棋士の感性
価値創造を支える技術
世界トップレベルの分析エンジン群
パターン・相関性発見

 なお遠藤社長は、今後のデータ量はますます増大していくことも指摘。いまは、年間2837エクサバイトのデータ量に達していることを紹介した上で、「これは、CDで4.7兆枚、DVDでは6000億枚に匹敵する。2020年には14倍となる4万エクサバイトに達する」との予測も示す。

 さらに、「目指すターゲットを決めて、そこに価値を創造するという手法が大切になってくるだろう」とし、「例えば、こんな味を作りたいといった場合に、どんな環境にすればいいのかといったことをデータから導き出すことができる。また生産性を3倍にしたい場合には、どんなことをやればいいのかといった、ターゲットに対する手法を提案できる。だが、味といってもさまざまで、そこにわれわれはノウハウを持っていない。お客さまが持つ知識や技術である『ドメインナレッジ』と、NECの収集技術、分析技術とを組み合わせることで、新たな価値を創造したい」とした。

世界に偏在するデータ量
ビッグデータの収集で価値を創造

 最後に遠藤社長は、「NECグループの強みと、豊富な経験を持つドメインナレッジともいえるお客さまとの共創により、お客さまの目指したいターゲットである真の価値を実現していく。これが、Efficiency、Value Creation、Dependabilityの向上にもつながり、お客さまの不連続で、飛躍的な拡大に貢献し、お客さまとともに社会価値を創造していきたい」と締めくくった。

 基調講演の前には、全NEC C&Cシステムユーザー会の三輪昭尚会長(=大林組)があいさつ。「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2013では、企業の価値を支える、社会やビジネスを変革するという切り口から、課題解決のソリューションが提案されている。この機会を利用し、十分実感してもらいたい」などとした。

全NEC C&Cシステムユーザー会の三輪昭尚会長

 そのほか、セブン&アイ・ホールディングスの村田紀敏社長による「変化への対応と基本の徹底~セブン&アイ・ホールディングスの経営戦略~」、野球評論家の村田兆治氏による「人生先発完投」、心臓外科医である天野篤氏とTBS「ニュース23」のメインキャスターである膳場貴子氏との「一途に、一心に ~挫折、出会い、使命の25年~」と題した対談、富士フイルムホールディングスの古森重隆CEOによる「事業環境の激変を乗り越え、高度な独自技術で新たな価値を~第二の創業期を推し進める、経営戦略と経営哲学~」、前中華人民共和国駐箚特命全権大使である早稲田大学特命教授の丹羽宇一郎氏による「中国の実像と日中関係の今後」、心理学者であるスタンフォード大学講師のケリー・マクゴニガル氏による「スタンフォードの自分を変える教室」などの講演も行われる。

基調講演の前には、ユーザー事例論文表彰式が行われた

大河原 克行