「サーバーの仮想化をデータセンター全体へ拡大する」~変革期を迎えたVMwareの戦略を聞く


VMware クラウドサービス担当バイスプレジデント Mathew Lodge氏

 VMwareが新たな変革期を迎えている。米サンフランシスコにて開催された「VMworld 2012」にて「Software-Defined Datacenter」という新たな戦略を提言し、これまでのサーバー仮想化の世界からデータセンター全体の仮想化を目指す世界へとソリューションを拡大しようとしているのだ。この戦略を推進するにあたって、同社は新CEOのPat Gelsinger氏も迎え入れている。

 この変革期を同社幹部はどうとらえているのか。米VMware クラウドサービス担当バイスプレジデントのMathew Lodge氏に同社の新たな戦略について聞いた。

 

サーバーの仮想化をデータセンター全体へ拡大する

――あらためて今回発表したSoftware-Defined Datacenterとは何なのか、わかりやすく定義してもらいたい。また、この戦略の中核製品となる「VMware vCloud Suite」は今後どのように展開していくのか。

 Software-Defined Datacenterとは、これまで顧客がサーバーの仮想化で実現していた柔軟性やコスト削減といった利点をデータセンター全体に拡大するものだ。つまり、ネットワークやストレージでも仮想化の利点を享受できるようになる。

 vCloud Suiteは、ソフトウェアの仮想化、ネットワークの仮想化、ストレージの仮想化をすべて統合した初めてのソフトウェアだ。将来的には、買収したNiciraのテクノロジーも統合し、これまでハードウェアでしかできなかったより多くの機能をソフトウェアで実現させたいと考えている。

――このところVMwareは積極的に買収を進めている。7月23日に発表したNiciraの買収は、VMwareにとってどのような意味があるのか。

 VMwareでは2年前に「VMware vCloud Director」という製品でバーチャルネットワーク機能を実現しているが、Niciraはこの分野を強化するものとなる。特に、NiciraではOpenFlowプロトコルを統合できるため、これを活用してスイッチを直接コントロールできるようになる。つまり、非常にダイナミックなソフトウェアベースの設定がネットワーク全体で実現可能となるのだ。

――では、7月2日に買収を発表したDynamicOpsは?

 DynamicOpsは、異なるさまざまなクラウドの管理を統一できるものだ。VMwareのインフラだけでなく、例えばAmazon Web Servicesや、ベアメタルのハードウェアも含め、すべてをオーケストレーションできるのがDynamicOpsの特徴だ。

――今後も買収を続けると思うが、どのような企業に興味を持っているか。

 これまでと同様、われわれは社内での開発と買収を組み合わせていく。革新的な技術を持ち、優れた製品に対するビジョンを持つ小さな企業、またVMwareにとって補完的な役割ができる企業を買収することは今後もあるだろう。

 社内での開発部隊も非常に革新的な開発を行っているが、われわれ1社ですべてが解決できるわけではない。そのため今後も補完的な技術を持つ企業があれば買収のターゲットとなるだろう。

 

“インテグレーション”で競合に差を付けた

――競合とされるMicrosoftやCitrix Systemsをどう見ているか。

 Microsoftは本当に強いライバル会社で、真剣にとらえている。とはいえ、Microsoftは1年以上前からHyper-Vの次期バージョンについて語っているが、製品を市場に出していない。一方、われわれが今回発表した内容は、仮想化やクラウドコンピューティング分野に対する顧客の期待値を上げるようなものだ。今までの戦いは仮想化分野のみでの戦いだったが、今後の戦いの場は仮想化だけではなく、クラウドインフラ全体なのだ。われわれは全体のインテグレーションという意味では優位に立ったと言えよう。

 Citrixも真剣に考えるべき競合だ。ただ、いま市場はインテグレーションを中心とした戦略に向かっている。われわれは「VMware Horizon Suite」でモバイルユーザーのためのインテグレーションプラットフォームを提供できる体制を整えており、この分野でCitrixと差をつけている。

――Paul Maritz氏のこれまでの功績についてどう考えているか。そして、新たなCEOとなるPat Gelsinger氏を迎えるにあたって感じていることは?

 2008年の時点でPaulほど完ぺきなCEOはいなかった。当時彼は、今後のITの方向性について見据え、ITが企業を変えるというビジョンをしっかり持っていた。あのころのVMwareは仮想化にフォーカスしていたが、その視野を広げ、今のVMwareへの道のりを築いてくれた人物だ。テクノロジーリーダーとしても彼ほどすばらしい人はなかなかいない。自分自身、彼の下で仕事ができて幸運だったと感じている。彼と共に仕事をするのは楽しかったし、このような機会があったことに感謝している。

 VMwareのような企業をトップとして率いていくのは難しいことだ。その中で、今回Patのような人物をCEOとして迎え入れることはとてもラッキーだ。彼も、Intel在籍時はもちろん、最近ではEMCでもすばらしい実績を遂げていて、ビジョナリーでありテクニカルな人間でもある。このような人物がトップとして会社を率いてくれるのは大変ありがたい。特にVMwareはソフトウェア企業なので、エンジニアリングでのイノベーションが非常に重要となる。その意味でもPatはVMwareを次のレベルに成長させる力を持った人物だと考えている。

 

日本市場の状況は?

――日本市場の現状について、また今後についてどう考えているか。

 VMwareは日本でも非常に好調で、状況には満足している。日本は2011年3月11日に大変な災害に見舞われたが、その後の復旧、そして成長には目を見張るものがある。災害対策にVMwareのテクノロジーを使うといった事例もあり、少しでも復旧に貢献できていることをうれしく思う。

 クラウドコンピューティングや仮想化市場はまだ始まったばかりだが、日本でもパブリッククラウドに参画する企業が増えてきている。今後さらにクラウドプロバイダーは増えていくだろう。競合が増えることで、テクノロジー面でもサービス面でもよりよいものが生まれる可能性がある。今後もいい意味での競争が増えればいいと思っている。

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