「VMwareをインフラ分野のApple的存在に」~VMware新CEOのPat Gelsinger氏に聞く


 米VMwareが米国サンフランシスコで開催中の年次イベント「VMworld 2012」にて、ひときわ注目を集めている人物がいる。9月に同社の新CEOに正式就任する予定のPat Gelsinger氏だ。

 まだ正式就任前だというのに、同氏は初日の基調講演ではVMwareの新たなビジョンとなる「Software-Defined Datacenter」について語り、このビジョンを実現する新製品「VMware vCloud Suite 5.1」を発表。新CEOのお披露目の場としては十分すぎるほどのプレゼンスを示している。

 Intel在籍時には頻繁に来日し、日本の報道陣にもなじみの深いGelsinger氏だが、2009年にEMCに移籍してからは日本のメディアでカバーされることも少なくなっていた。今後VMwareの新CEOとしてさまざまな場に登場することが予測される同氏が、まず今回のイベントでアジア太平洋地域の報道陣からのインタビューに応じた。

 

ターゲットの拡大で今後も成長を継続する

9月1日にVMwareの新CEOに就任するPat Gelsinger氏

――VMwareは売り上げも伸びており、成功している企業だが、新CEOとして今後も成長を続けるためにどうしたいと考えているのか。

 (現在のCEOである)Paul Maritzはすばらしいリーダーなので、これまでの戦略を変えるつもりはない。私はこの戦略を加速するだけだ。そして、Software-Defined Datacenterの計画を実行し、次世代のモバイルおよびソーシャルユーザーに対応した戦略を進めたい。

――これまでVMwareの主な売り上げはサーバー仮想化分野が中心だった。今後デスクトップの世界にも仮想化を広めることで、収益率はどのように変化していくと見ているのか。

 VMwareは、シングルサーバーの仮想化を推進することからはじまり、次に複数のサーバーの仮想化へ、そして今度はデータセンター全体の仮想化へと戦略をシフトしている。仮想化製品の役目を拡大し、エンドユーザーコンピューティングやモバイル、ポストPCの世界など、すべての分野で仮想化を進めているのだ。データセンター分野での売り上げは今後もVMwareにとって最大の収入源となるが、今後はエンドユーザーやモバイルデバイスエリアでの売り上げも大きくなることが見込まれる。

 VMwareでは以前、追求すべき市場規模を300億ドルと見込んでいたが、Software-Defined Datacenter戦略を推進することにより、市場規模は500億ドルへと拡大した。ターゲットとすべき市場が広がったため、VMwareの成長は今後も続く。

 

仮想化の浸透化が低いアジア太平洋地域ではまだまだ成長の余地が

――アジア太平洋地域での戦略は?

 多くの成功企業は、まず本国で成長してから他国へと製品やオペレーションを拡大している。VMwareでも同じだ。欧米に比べるとアジア太平洋地域はまだ仮想化の浸透率が低いので、成長の余地がある。

 この地域における開発能力も活用していきたい。各地域の開発チームとセールス&マーケティングチームとが連携し、顧客のフィードバックに耳を傾けてより各国の市場に合った製品を提供したいと考えている。

――この地域の企業を買収する考えはないのか。

 VMwareは今後も買収を続けると同時に、有機的なイノベーションも継続する。米国ではIT企業のスタートアップが盛んなため、必然的に米国企業を買収することが多いが、さまざまな国で買収を進めたいと考えており、どの国の企業でも買収の可能性はある。

 

Software-Defined Datacenterのビジョンを推進することが第一歩

――VMwareのCEOとしてやりたいことは何か。

 Software-Defined Datacenterのビジョンを推進することだ。これは非常に広範かつ包括的なビジョンで、vCloud Suiteは最初のステップとなる。このステップを意味のある第一歩にしなくてはならないと考えている。

 また、グローバリゼーションを成熟レベルに持って行きたい。数年後には真の意味でグローバルなIT企業になりたいと思う。

 さらには、イノベーションというVMwareの根底にある企業文化を、より強固なものにしていきたい。Appleはコンシューマーエレクトロニクス分野でイノベーションの象徴的存在だが、VMwareはデータセンターやITオペレーション、インフラ分野でイノベーションの象徴的存在となりたい。

 私はIT業界で30年間過ごしてきたが、成功する企業は時に横柄になることがある。しかしVMwareはそのような企業になりたくない。顧客を満足させることにフォーカスしたいと考えており、パートナーのエコシステムも継続させたい。正しいことするだけでなく、正しい方法でやっていきたい。

――Paul Maritz氏のCEOとしての過去4年間をどう評価しているか。

 CEOとしてのPaulはすばらしい成績を収めた。創業者から次のCEOへの移行は失敗することもあるが、彼は成功を収めている。VMwareは10億ドル規模の企業から50億ドル規模の企業へと成長したし、ハイパーバイザーを提供する企業からSoftware-Defined Datacenterを実現する企業へ、エンドユーザーデバイスをサポートする企業へと、ビジョンや分野を広げたのだ。

 VMwareの業績は、何四半期にもわたり常に業界や市場の期待値を上回っている。基調講演で観客の多くが彼をスタンディングオベーションで見送ったことも、彼のCEOとしての功績がすばらしかったことの証しだ。それはつまり私に対するハードルが非常に高いことを意味しているので、このへんでやめておこう(笑)。

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