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OpenStack Summit Tokyo 2015開幕、さまざまな取り組みや活用事例などを紹介
(2015/10/28 10:17)
オープンソースのクラウド基盤ソフトウェア「OpenStack」の国際カンファレンス「OpenStack Summit Tokyo 2015」が、東京の品川で10月27日に開幕した。会期は30日まで。
OpenStack Summitは、年に2回開催され、1回は北米で、もう1回は北米外で開催される。カンファレンスや展示会のほか、年に2回リリースされるOpenStackの次バージョンについて機能追加などの設計を議論する「Design Summit」も併催される、重要なイベントだ。
今回は、初の日本での開催となる。オープニングに立ったOpenStack Summit Tokyo 2015 実行委員長の長谷川章博氏(日本OpenStackユーザ会)は、「Welcome to Japan」と第一声。「影響力のある『OpenStacker』たちに、56か国から5000人以上、東京に集まっていただいた。OpenStackはコミュニティベース。みなさん全員のパワーで世界をよりイノベーティブにしていきましょう」と会場に呼びかけた。
個人向けの認定制度を2016年から開始
初日の基調講演には、OpenStack FoundationのエグゼクティブディレクターであるJonathan Bryce氏が登壇した。
Bryce氏は1つ目の話題として、OpenStackの個人向けの認定制度「Certified OpenStack Administrator」を2016年から開始すると発表した。試験はバーチャルで開催する。「まだまだOpenStackの人材は足りない。これによって、人材が育っていくことを期待している」(Bryce氏)
各機能をスコアリングする取り組みと、Project Navigatorの新設
2つ目の話題は、10月にリリースされたOpenStackの12番目のリリース「Liberty」と、それにまつわるOpenStackの開発体制だ。なお、OpenStackでは毎回のコードネームは、アルファベット順の頭文字にあわせて付けられる。
Bryce氏は「Libertyにコントリビュートした人!」と会場の開発者の挙手を求め、Libertyでは特に管理性、スケーラビリティ、拡張性を重視したと語った。そして、「開発者からユーザーまで、皆がすべてのプロセスに参加して決められるのがOpenStackの特徴だ」と説明した。
一方で、「混乱を招くところも一部にあった」として、“OpenStackとは何か”を整理したと説明した。OpenStackでは、各機能がそれぞれコンポーネントとして開発され、リリースごとにコンポーネントが増えていく。このうち、主要なコンポーネントを「コアサービス」とした。「コアサービスは、80~90%のケースにあてはまる基本的な機能。このコアサービスに加えて、必要のある人がデプロイする、オプションのコンポーネントがある」(Bryce氏)
これらの間の相互運用性を守るため、半年前のOpenStack Summit Vancouver 2015で、DefCore委員会の設置が発表された。壇上にはDefCoreの共同議長であるEgle Sigler氏が登場。相互運用性が必要な理由について「OpenStackをベースにした製品などでロックインが起きないようにするため」と説明した。また、実際の活動について、各プロダクトをスコアリングし、それをコミュニティに戻していると語った。
それを受けてBryce氏は、OpenStackの公式サイトに新しく「Project Navigator」というコーナーを新設したことを発表した。Project Navigatorではコンポーネントごとに、採用状況や成熟度、開発プロジェクトの状況などさまざまな指標をさまざまなソースから分析して掲載している。
コンテナでマイクロサービスを俊敏にデプロイ
Bryce氏は「OpenStackで起きている面白い状況」として、かつてはOpenStackでは仮想マシン(VM)でインスタンスを動かしていたが、OpenStackでHadoopノードを管理する「Sahara」のような用途ではベアメタル(物理サーバー)を「Ironic」で展開するようになってきたと説明。さらに、VMやベアメタルの中でコンテナを動かす用途が出てきて、Libertyで追加されたコンテナ管理の「Magnum」に非常に大きな関心が集まっていると語った。そして、OpenStackではこれらが「One Platform」として動くと主張した。
ここでOpenStackとコンテナを活用している実例として、Lithium Technologies社のLachlan Evenson氏がゲストで登場した。Lithium社はソーシャルマーケティングのSaaSサービスの企業で、ソーシャル影響力判定サービスのKloutもその傘下。
Evenson氏は、ある日「30個のマイクロサービスを1か月でデプロイしてほしい」と言われたときのことを語った。ちょうど氏は育児休暇をとるところだったので、Dockerでそのプラットフォームを用意した。休暇から戻ってみると「これでいい」と言われたので、Kubernetesによるオーケストレーションや、ロギングなどを整えて、本番環境を作ったという。
このプラットフォームでは、gitで変更をコミットすると、それをトリガーにしてDockerのイメージが作られ、AWSとOpenStackで動作するというデプロイパイプラインを紹介。それを実際にOpenStackのDatadogプラグインでモニタリングしている画面をデモした。なお、チャットからKubernetesにコマンドを送る「kubot」もデモされた。
さらに、簡単なゲームをデモし、そのソースをライブで書き換えてgitからコミット。その場でビルドサービスが走ってデプロイされ、変更されたゲームが動くところを見せた。
Yahoo! JAPANがOpenStackを採用した理由
続いて、ヤフー株式会社の伊藤拓矢氏が、Yahoo! JAPANでの大規模なOpenStackの利用事例を紹介した。
Yahoo! JAPANではサービスの基盤としてOpenStackを採用しており、5万以上のインスタンスや4000以上の物理マシン、20PBのデータ領域、20以上の運用クラスタで動作しているという。
【お詫びと訂正】
- 初出時、インスタンスを「5000以上」としておりましたが、「5万以上」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。
Yahoo! JAPANでプライベートクラウド基盤が必要な理由として、地震発生時のトラフィックのスパイクを示した。そして、Yahoo! JAPANのデータセンターに求められる要件として、防災や災害などの重要な情報について、インフラを迅速にプロビジョニングし、しっかり動き続け、データセンターを抽象化・自動化してサービスがどこでも同じように動くことを挙げた。
そのための基盤は、最初は独自に開発していたという。しかし、「さまざまなオープンソースソフトウェアがOpenStackの標準化されたAPIをサポートしている」ことから、OpenStackに移行した。
同社では、OpenStackの標準的な機能をベースに、マイナーな機能をベンダーと共同開発しており、「ベンダーも機能をアピールできるメリットがある」という。さらにYahoo! JAPAN特有の機能は自社開発しているという。
最後に伊藤氏は、「OpenStackが人々を支えるインフラとして稼働している。『OpenStacker』たちに感謝したい」と語った。
NTTグループが「OpenStack Superuser Award」を受賞
基調講演の中では、OpenStackを活用しているユーザー企業を表彰する「OpenStack Superuser Award」も発表された。今回で3回目となる。
今回はファイナリスト4社の中から、日本のNTTグループの受賞が発表された。
「NECはSuper Integratorを目指す」
OpenStack Foundationの初期からスポンサーおよび開発者として参加してきたNECから、OpenStack Foundation理事でもある柴田次一氏が登場した。
柴田氏はユーザー企業の「Superuser」に対して、インテグレーター企業の「Super Integrator」について語った。「ユーザーが増え、エコシステムが拡大することにより、多くのSuper Integratorが必要とされている」と語った。
氏はSuper Integratorに求められることとして「オープンであること」と「ソースコードをコントリビュートすること」を挙げた。
そしてNECについて、「コンピュータとネットワークの技術を持つ」「キャリアやエンタープライズの分野の経験がある」「ユーザーでもありインテグレーターでもある」と説明した。
最後に、10月20日に発表した、OpenStackによりクラウド基盤の構築・運用を支援する「NEC Cloud System(OSS構築モデル)」を紹介。「NECはSuper Integratorを目指して尽力する」と語った。
パブリッククラウドへ逃げられないためには
Bryce氏の「最終的に必要なのはアプリケーションを走らせること」という紹介によって、Bitnami社のErica Brescia氏(共同創設者兼COO)が「シャドークラウドをいかに消し去るか」を語った。Bitnami社は、さまざまなパブリッククラウドやプライベートクラウドに向けて多くのイメージを提供している企業だ。「あと数時間で、Oracle OpenWorld 2015にてOracle Cloudへの対応も発表します」とBrescia氏。
Brescia氏は「クラウドにユーザーが望んでいること」として、イメージがそろっていて簡単に始められる「Easy to Use」を挙げた。「いまは、自社のインフラより、パブリッククラウドで始めるのが簡単というのが現状だ。Node.jsの環境もワンクリックでできる。そうした期待に応えられないと、自社のインフラは使ってもらえない」。
そのために必要なことは「一番重要なのは、コストやパフォーマンスではない。すぐに使える俊敏性だ。何週間も待ってはいられないし、クラウド時代にFAXで申請なんて考えられない」(Brescia氏)
そこでBitnami社では、使いやすさに力を入れているという。「iPhoneのように、マニュアルを読まなくても使える。複雑な手続きは必要ない」とBitnami氏。
IntelのOpenStackへの取り組み
OpenStackを運用する企業として、Intel社Open Source Technology CenterのImad Sousou氏が登場した。
Sousou氏は、Intelのクラウドの目的を「何万もの新しいクラウドを解放する」と説明。そのために、テクノロジーへの投資や最適化を行っているという。
実際にやっていることとして、「OpenStack Innovation Center」の設立や、OpenStack専任のエンジニアの採用、2つのデータセンターを作って1万台のサーバーをOpenStack開発に提供すること、Mirantis社への投資などを説明した。
GMOインターネットを利用するC ChannelとAimingが説明
基調講演最後のゲストとして、パブリッククラウドプロバイダーであるGMOインターネット社の斉藤弘信氏(テクニカルエバンジェリスト)が登場した。
GMOインターネットは、4つのクラウドサービスをOpenStackベースで動かしている。4つのアベイラブルゾーンで1400ノードが動き、15000人以上の顧客がいるという。
斉藤氏はOpenStackを採用した理由として「OpenStackにはわれわれの必要なコンポーネントがそろっている」「プロダクトを改善できる」の2つを挙げた。
4つのサービスから斉藤氏は2つのサービスを説明。さらにそれぞれ利用企業が登場した。
1つ目のConoHaは、すべてSSDのパブリッククラウドで、OpenStack Junoベースで動いている。利用企業としては、女性向けファッション関連動画サイト「C Channel」が紹介され、代表取締役の森川亮氏(元LINE社長)がサービスを説明した。
2つ目のGMOアプリクラウドは、ゲーム向けクラウドサービス。OpenStack Havanaと一部Junoがベース。利用企業としては、ミッドコア層向けスマートフォンゲームの株式会社Aimingが紹介され、CTOの小林俊仁氏が自社ゲームを説明した。