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日本でもChromebook普及が始まる? 教育現場でのクラウド活用が後押し

~教育ITソリューションEXPO見学記

 5月17~19日に東京ビッグサイトで開催されている「第8回 教育ITソリューションEXPO」。教育分野の展示会ではあるものの、ITに特化したイベントだけにクラウド、セキュリティ、動画配信など最新テクノロジーを搭載したソリューション、デバイスが並んだ。

 その中で来場者の注目を集めたのが、クラウドと連携した低価格端末の、教育現場での利用だ。レノボ・ジャパンのブースではCPUにAtomを搭載したYOGA BOOKを並べ、実機を触りながら学校向けソリューションを紹介するデモを行った。

 また、シネックスインフォテックのブースでは、Googleが教育向けソリューションを紹介するデモを実施し、Chromebookが米国で高いシェアを集めていることを紹介。多くの来場者が足を止めてデモを注視し、日本でもChromebookが普及する可能性があるのではないかと感じさせた。

800社が出展した、教育ICT分野では日本最大、アジア最大の専門見本市、第8回教育ITソリューションEXPO

学校現場でクラウドは当たり前?

 「教育現場で利用するコンテンツも、クラウドベースのものが当たり前になってきました」――。

 今回の展示会場を取材する中、あちこちの展示ブースから聞こえてきた声である。

 教育現場でのクラウド活用に対しては、総務省が平成26年度から、学校・家庭等をシームレスにつなぐとともに、多種多様なコンテンツを利用でき、低コストで導入・運用可能な「教育クラウド・プラットフォーム」の実証を行い、スムーズな導入のためのガイドブックを提供。さまざまなベンダーが教育向けクラウドソリューションを提供している。

 そうした現実は理解してはいるものの、学校関係者のための展示会で、「学校現場でクラウド」という声をあちこちのブースで聞くと少し驚く。学校現場に導入されるITソリューションは、普通の企業向け、あるいはコンシューマ向けとはまったく異なるものが利用されているのが当たり前だったからである。

 「学校マーケットに強い販路を持っている」という理由で、市場でほとんどシェアがないメーカーのPCが使われているケースを目にしたこともある。

 こうした状況をふまえて、学校マーケット向けに提供されるソリューションは一般マーケットとは違うものが採用されている――、そんな先入観があったために、「クラウドが当たり前」という言葉にちょっと驚きを感じてしまったのだ。

Googleの教育向けソリューション紹介が注目を集める

 しかし、クラウドが当たり前という状況は、世界の学校市場を見れば避けることができない流れともいえる。米国ではGoogleのChromebookが高いシェアを獲得し、Microsoftがその対抗として「Windows 10 S」を発表した。こうした動きはこれまでになかったことで、米国の教育マーケットが大きく変化していることが伝わってくる。

 日本では学校現場で使われているPCは、小学校/中学校で1人1台環境を実現するためにタブレットを導入している例はあるものの、PC教室に置いてあるPCはデスクトップが依然として多い。

 Chromebookは現在も販売されているが、さほど売上は伸びていない。Chromebookのような低価格端末よりも、マシンパワーのあるクライアント機の方が優位であることは事実だ。

 しかし、展示会場を歩いていると、ほかのブースよりも多くの人を集めているデモがあった。それが、シネックスインフォテックのブースで行われていた、Googleの教育向けソリューションの紹介だった。デモは1日に複数回行っているそうだが、「毎回、多くの方に見ていただいています」とのことだった。

 デモではChromebookだけを紹介しているわけではないが、米国の教育市場でChromebookが高いシェアを獲得していることを数値データ入りで紹介。Chromebookの存在を耳にしたことがある人にとっては、インパクトがあるデモだったのではないか。

シネックスインフォテックのブースでは、Googleが教育ソリューションを紹介するデモを実施。毎回、多くの人がデモを見るために集まったという。

 Chromebookに対抗するためにMicrosoftが発表した「Windows 10 S」が日本市場でどうなるのか、5月18日現在、明らかになっていない。もし、今回の会場の中で日本マイクロソフトからWindows 10 Sを紹介するデモが行われていたら人気になっていただろう。

クラウドと組み合わせてYOGA BOOKを利用

 そんなデモを目にした後でレノボ・ジャパン(レノボ)のブースを見た。舞台の前にテーブル付きのいすが置かれたデモコーナーには、YOGA BOOKが用意されている。自分の手でYOGA BOOKを触りながらデモを見ることができる仕組みとなっている。

レノボのデモコーナーでは、全席にYOGA BOOKを設置。通りかかった人が手に取って製品の軽さを確認している様子も

 ブースの中ではYOGA BOOKだけでなく、学校での利用が多いデスクトップモデルの展示も行われている。レノボ側の説明によれば、「YOGA BOOKにもフルキーボードは搭載されているものの、一般的には、入力作業が多いプログラミング教育などにはデスクトップモデルが適している。予算、どんな目的での利用なのかなど、要望に合わせた製品を選択できるよう、さまざまな製品を展示している」という。

 その中で一番目立つ場所にYOGA BOOKが大量展示されているのは、Chromebookの展示を見た直後だったこともあり、大変興味深かった。

 これまでの学校に置くPCはデスクトップモデルが多かったが、クラウドと組み合わせることで、CPUにAtomを搭載したYOGA BOOKでも十分に活用できるようになる。レノボ側でもそうした利用環境を意識し、コードタクトの授業支援システム「schoolTakt」など、他社製の教育向けコンテンツをブースの中で展示。PCだけでなく、システムとセットで利用することをアピールしていた。

 もちろん、PCを児童/生徒1人1台環境を整備するという発想は、決して目新しいものではない。文部科学省、政府の方針として2020年には1人1台環境の実現が叫ばれたこと、タブレットが人気を集めたことから、2014~2015年あたりから1人1台のタブレットを使った教育ソリューションが各社から登場した。

 ChromebookやWindows 10 Sもその時と同様、ブームとして盛り上がるだけで終わってしまう可能性は十分にある。ただ、今回の展示会場で教育現場でもクラウド活用が定着してきていることを目の当たりにすると、数年前のタブレットブームの時よりも実践的な1人1台が実現する可能性を感じた。

その他のブースの展示を紹介

タブレット利用ソリューションも多数展示されている
リッチクライアントを利用してもシンクライアントを実現するソリューションを紹介したブースも。シンクライアント環境は管理の簡素化、セキュリティ強化などにメリットがある
ソニーブースでは電子ペーパーを使ったソリューションを展示
プログラミング教育を扱った展示も多数登場し、シャープブースではロボホンを動かすプログラミングを行うコンテンツを紹介。「かわいらしいロボホンを動かすことで、多くの子供たちがプログラミング教育に親しみを持ってもらえる」という。
東京書籍ブースでは、VRを使ったデモを提供。「VRコンテンツは容量が大きいものが多いので、学校のネットワークでどのように利用していくのかが今後の課題」とのこと