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教育ITの急速な多様化がうかがえた教育ITソリューションEXPO見学記
(2015/5/22 06:00)
5月20日~22日の間、東京ビッグサイトにて第6回 教育ITソリューションEXPOが開催された。
展示会は「学校業務支援」「eラーニング」「教育用ハードウェア」「教材・教育コンテンツ」「特別支援教育」「セキュリティ」「災害対策」の各テーマごとにエリアが分けられていた。教育関係者が多く足を運んだ展示会の様子をレポートする。
NTTはグループ各社が集結
最も面積が広かったのは「学校業務支援」ゾーンで、ICT授業を支援する製品が数多く展示されていた。
NTTブースではグループ各社の製品が勢揃い。その中でも、NTTラーニングシステムズ、ジェイアール四国コミュニケーションウェア、ラインズが共同提供する「おまかせ教室」が目を引いた。
教材の作成・配布・回収などで授業を支援する「テックキャンパス」、個別学習用ドリルなどを提供する「ラインズeライブラリ」、協働学習を支援する「コラボノート」で構成され、これらがクラウド型で提供される。
コラボノートは、単一画面に複数人で書き込める機能だが、クラウド型で提供されているため、外部の有識者に遠隔から授業に参加してもらうことが可能になる。実際、JAや漁協の関係者が小学生の質問に答える――そんな授業が実践されているという。
説明員によれば「生徒の作品などをクラウド(学校の外部)に保存することにいままでは拒否感が強かったのですが、少しずつ教育分野でもクラウドはありかもと意識が変わりつつある状況です」とのことだ。
このほか、NTTソフトは聴覚障がい者向け支援ツール「こえみる」を出展していた。耳の不自由な生徒とどのようにコミュニケーションを取るか。「こえみる」では声を文字化することで先生の発話をリアルタイムに表示し、手話では伝えにくい「しとしと」などの擬態語もテンポよく伝えられるようにしている。
教材活用度を分析~京セラ丸善
京セラ丸善システムインテグレーションのブースでは、主に大学や専門学校を対象とした教材配信ツール「BookLooper」を展示。さらにその新サービスとして、教材の利用ログを閲覧・分析する「BookLooper kizuki」をお披露目していた。
BookLooperで配信した教材は、「どの教科書の利用率が多い?」「マーカーの多い部分は?」「テスト前の利用状況は?」などの利用ログを蓄積している。その情報を分析ツールで可視化することで、「例えば、大学の講義で予習をさせて、教材をよく読んでいる学生とあまり読んでいない生徒を組ませてグループ学習を行うことで学習効果の底上げができることが分かっています。また、テキストを予習させる中で最重要点と異なるところに多くマーカーが引かれている場合、重要なところを理解できていないと判断して、講義で補うような学習計画が立てられます」(京セラ丸善)という。
KCCSと丸善の合同会社なので、丸善のコンテンツを生かせるのも強みとのことだ。
ビデオカメラを用いた「校内放送機能」~富士ソフト
富士ソフトは、総合教育ソリューション「みらいスクールステーション」を展示していた。これは「校内LANを介して教材などのコンテンツや音楽、ビデオカメラで撮影した映像を各教室のテレビに配信する」ものだ。
そうしたコンテンツを学習に活用することももちろん可能だが、ビデオカメラを用いた「校内放送機能」が特徴で、大がかりな設備なしで放送室を実現できる内容となっている。「例えば、校長先生の話や放送室からのお昼のお知らせを手軽に全教室に配信できる」(富士ソフト)という。
構成要素はコンパクトな「サーバー」と、Apple TVのような機能を担う「メディアボックス」のみ。これだけあればコンテンツをテレビに配信できる手軽さが売りで、無線LAN環境とタブレットを組み合わせた授業も大がかりな設備なしで始められる。
設備一式をパッケージにした「みらいスクールポータブル」も展開しているため、無線LAN環境を全学に配備できない教育機関は、このセットを数台用意しておいて、必要なクラスに貸し出すという運用もスモールスタートとして効果的だ。
文教ブランド「dynaSchool」を展開する東芝
東芝は、文教向けの新ブランドとして「dynaSchool」シリーズを展示。使いやすさにこだわったツールを複数展開している。
教材コンテンツをタブレットに配信して手書きによる書き込みや生徒の作品を電子黒板に比較表示できるのが「dynaSchool Support」。手書きノートの内容をカメラでタブレットに取り込み、そこへ画像や動画などのデジタルコンテンツを挿入して、表現力豊かなノートやレポートを作成できるのが「dynaSchool デジタルノート@クリエイターズ」。
このほか、タブレットを衝撃から守るケースや、授業が終わったタブレットの環境を瞬時に元に戻す「dynaSchool Recovery」などを展開。「シンプルな機能に絞ってさまざまなツールを提供するのがdynaSchoolの特徴です」(東芝)とのこと。
デジタル教材を共通化するCoNETSも展示
「教材・教育コンテンツ」ゾーンでは、複数の出版社のデジタル教材を共通のプラットフォーム・操作感で扱えるCoNETSが出展。各社の教材とともに、アプリの使い勝手を紹介していた。
CoNETSは、これまで出版社ごとに操作感が異なっていたデジタル教材に、共通の操作性をもたらすものとして、教育現場での期待も大きい。すでに指導用教材から全国の学校でも導入が進んでおり、4月末からは学習者用ビューアもアプリストアで公開された。
「まずは指導用から広がっており、学習者用はこれから」とのことだが、EDUPUBなどの国際標準も見据えた動きなので、今後の普及に期待したい。
シャープは文教向けディスプレイ製品を訴求
「教育用ハードウェア」ゾーンでは、電子黒板やタブレットなどが数多く展示されていたほか、電子教卓などのユニークな製品もバラエティ豊かに並んでいた。
シャープのブースでは教育用ソフト「スタディシリーズ」といったツール群のほか、電子黒板となるディスプレイ製品がひときわ目立っていた。美しい色彩、豊かな表現力が特徴の「BIG PAD Campus」をはじめ、静電容量方式タッチパネルを採用した電子黒板や、4K電子黒板、筆入力タッチパネル電子黒板などを展示。ディスプレイに強いシャープらしい内容を紹介していた。
3Dプリンタやスマートグラスは教育分野に広がるか
このゾーンには、ユニークな製品も多く、XYZプリンティングジャパンは3Dプリンタ製品群を展示していた。教育機関でも何かに利用できないかと話題に上ることが増えてきた3Dプリンタ。同社によれば「活用法として想定されるのは、先生の教材作りと生徒のモノづくり授業。ただ、どこかのサービス事業者が3Dプリンタを採り入れたソリューションを提供しようという話にはまだなっていないのが現況」という。
まずは工業高校やCADを使うような専門学校での導入があり得そうだが、3Dプリンタの授業を正式なカリキュラムに採り入れているという話ももう少し先のようだ。ただ、一部の大学や小学校などでは試験的に導入しているところもあるという。
現状は趣味に活用する一般ユーザーが多いという同社だが、「今後は教育を含めた、業務利用にも力を入れていくことになると思います」とのことだった。
エプソン販売はスマートグラス「MOVERIO」を展示していた。こちらも教育用途は今後の開拓が必要だが、例えば保守・メンテナンスなどのフィールド業務では、保守機器のマニュアルをグラス内の画面に映したり、現場の作業をカメラで映して本部と共有するといった活用が始まっている。似たような内容で先生がスマートグラスをかけて、AR技術で豊かな体験を学ばせる授業も近いうちに始まっていくのかもしれない。
そのほか異彩を放っていたのが、シップが提供する電子教卓システム「e-STATIONS」シリーズだ。ディスプレイを備えた電子教卓からペンツールで板書をしたり、プロジェクタ、電動スクリーン、各AV機器などICT設備全般をコントロールし、デジタル教材を活用して教師が思い通りの授業を展開できるという。
学校ICTへの第一歩、無線LANも各社が展示
ICT授業に欠かせないのが無線ネットワーク。政府も2017年までに無線LANの100%整備をめざしており、学校ICTを始めるためにまず整えるべき環境となる。展示会でもNECや日立をはじめ、ラッカスワイヤレス、フルノシステムズ、アルバネットワークス、コンテックなどが無線LAN製品を展示していた。
これら業務用に設計された無線LAN製品では、コントローラーからのアクセスポイント一括管理や、無線出力やチャネルを自動調整し、1クラス40台の端末も安定して接続できるのが特徴となっている。
教育IT製品はその種類が急速に増えている。うまく使いこなせば、児童生徒のスキルを花開くような授業が可能だろう。一方で教育機関にとってはどれを選んでいいか悩ましい状況ともいえる。普段から授業を行う先生方には効果的な授業のアイデアが沢山生まれている。そのアイデアとICTを効果的に結びつけるような場となるよう、より具体的な用途をイメージできるような提案もベンダー側には期待したい。