IDF北京から、2011年の“新世代Xeon”E7/E3シリーズを解説する

HPC向けの演算プロセッサ「Knights Ferry」も登場


 今回は、先日発表になったXeon E7/E3シリーズに関して、4月12日から北京で開催されたIntelの開発者セミナーIDF2011 北京の資料をもとに解説していく。

 

製造プロセスが変わりセキュリティ機能が追加されたXeon E7シリーズ

Xeon E7シリーズは、Nehalem世代のXeon 7500番台を次のWestmere世代にしたもの。デスクトップのSandy Bridge世代から考えれば、アーキテクチャの世代としては1世代古い
Xeon E7シリーズは、32nmの製造プロセスにより、CPUコア数の増加、消費電力の低減が行われている

 Xeon E7シリーズは、マルチソケット向けCPU「Xeon 7500番台」の次世代版だ。Xeon E7シリーズは、Xeon 7500番台の最大8CPUコア/16スレッドから、最大10CPUコア/20スレッドへと性能が向上している。

 Xeon E7シリーズは、2ソケット、4ソケット、8ソケット以上の3つの分野に向けた製品構成になっている。つまり、4ソケット対応のXeon E7シリーズを利用すれば、40CPUコア/80スレッドになるし、8ソケットの構成になれば、80CPUコア/160スレッドという、UNIXサーバーやメインフレームサーバーを超える性能を持つ、巨大なx86サーバーになる。

 3次キャッシュメモリ(ラスト・レベル・キャッシュ)は最大30MBで、数世代前のPCのメインメモリと同じ容量が、CPUのキャッシュメモリとして搭載されている。

 メインメモリは、1ソケットあたり16枚のDIMMが搭載できる。さらに32GB DIMMにも対応したため、4ソケットのサーバーでは、なんと2TBものメインメモリを搭載するモンスターサーバーが構築できる。

 またXeon 7500番台では、UNIXサーバーと同じような高い信頼性、可用性、保守性を実現するために、RAS機能(Reliability、Availability、Serviceability)が搭載されている。この機能は、さまざまなモジュールにトラブルが起こったとしても、そのモジュールを切り離すことで、システム全体をダウンさせずに動かし続ける機能だ。Xeon E7シリーズもXeon 7500と同じRAS機能が搭載されている。

 Xeon E7シリーズの多くの機能は、Xeon 7500番台で搭載されていたものだ。Xeon E7シリーズでの大きな改良点としては、製造プロセスを32nmにしたことで、Xeon 7500番台(製造プロセスは45nm)からCPUコア数をアップしたり、発熱や消費電力を抑えたりすることに成功した。

 これにより、Xeon E7シリーズは、同じ熱設計や電力設計でありながら40%以上もの性能アップを果たしている。逆に言えば、同じ性能を出したときでも、Xeon E7シリーズは、Xeon 7500よりも40%も低い電力消費で動作する。大震災後、節電が叫ばれているときには、ぴったりなCPUかもしれない。さらに、Xeon E7シリーズは、Xeon 7500番台と同じソケットを採用しているため、サーバーメーカーは、Xeon 7500からXeon E7シリーズに切り替えるのに、簡単な検証だけで済む。サーバーを再設計しなくてもいいのは、新製品を短期間で投入できる。

 ただし機能面では、2ソケット向け「Xeon 5600番台」で追加されていた、AES暗号の処理(暗号化・復号)をCPUで行うための「AES-NI」命令の追加、「Intel トラステッド・エグゼキューション・テクノロジー(TXT)の追加が行われている。


Xeon E7シリーズのRAS機能。Xeon 7500のRAS機能とほとんど変わらないXeon E7シリーズで追加されたAES-NIにより、通信を暗号化するSSLの性能が暗号化で約4倍、復号化で11倍もの性能となっている

 

Sandy Bridge世代のXeon E3シリーズ

Xeon E3シリーズは、Sandy Bridge世代のシングルソケット向けCPU

 Xeon E3シリーズは、シングルソケット向けに分類されるCPUだ。用途としては、エントリーサーバーやワークステーションなどで利用される。つまり、「Xeon 3000番台」の次世代にあたるCPUだ。

 前段で紹介したXeon E7シリーズは、2010年にデスクトップCPUとしてリリースされたWestmere世代のアーキテクチャが利用されている。しかし、Xeon E3シリーズは、2011年1月にリリースされた第2世代のCore iアーキテクチャ(Sandy Bridge世代)を採用したものだ。性能面で見ると、Xeon E3シリーズは、以前のXeon 3000シリーズに比べ、30%ほどの性能向上が行われている。


Xeon E3シリーズは、Xeon X3450に比べて30%ほど性能がアップしているXeon E3シリーズは、性能も高く、消費電力も少ないため、4年前にサーバーに比べると、運用コストが非常に安くなるため、買い換えたほうがお得とIntelでは説明している

 Sandy Bridge世代のアーキテクチャの特徴としては、AVXという新しい命令セットが追加されている。AVXは、SSE演算命令を刷新したもので、以前のWestmereアーキテクチャから比べると2倍の性能向上を図っている。

 ただし、AVX命令自体は、今までのSSE命令セットとは、まったく互換性を持っていない。今までのSSE命令セットは、何度も拡張し、きちんとした整合性が取れなくなっていた。そのため、AVX命令は、新たに命令セットを作り直すことで、シンプルで拡張性があり、高い性能向上が見込めるようになっている。

 なおSandy Bridge世代のCPUでは、互換性を考えて、既存のSSE命令セットと新しいAVX命令セットの2つがサポートされている。Intelとしては、将来的にAVX命令セット1本にまとめたいと考えているようだ。このため、今後開発するアプリケーションでは、SSE命令からAVX命令に移行してほしいと説明している。


Sandy Bridge世代のXeon E3シリーズで追加されたAVX命令セットにより、浮動小数点演算は性能が2倍に向上する
Sandy Bridge世代のXeon E3シリーズでは、3次キャッシュメモリがXeon 7500番台と同じリング状に接続されている

 もうひとつSandy Bridge世代のXeon E3シリーズで特徴的なのは、3次キャッシュメモリの構造だ。エントリー向けのCPUであるにもかかわらず、Xeon 7500番台やXeon E7シリーズで採用されているリング状のキャッシュメモリが採用されている。これにより、大容量のキャッシュメモリに対して、均等で、高速なアクセスが可能になる。

 デスクトップ用のSandy Bridge世代CPUでは、グラフィック機能がCPU内部に搭載し、グラフィックメモリなどを含むアクセスが高速化されたため、Westmere世代のCPUに比べると、グラフィックに関する性能が向上している。

 ただ、サーバーやワークステーションで利用されるXeon E3シリーズでは、製品によって、グラフィック機能(GPU)を内蔵した製品とGPUがない製品に分かれている。

 低価格でエントリーレベルのサーバーを構成する場合は、外付けのビデオカードやビデオチップが必要なくなるため、GPUを搭載していたほうがメリットがある。ただし、3次キャッシュメモリがビデオメモリとして利用され、CPUコアが利用する3次キャッシュメモリが少なくなるというデメリットがある。

 GPUなしのXeon E3シリーズは、外付けビデオカードやビデオチップが必要になるため、ハイエンドのグラフィックカードと合わせたグラフィックワークステーション用途、価格的に少し高くなるが高い性能を持つスモールビジネス向けのサーバーに使われるだろう。

 Xeon E3シリーズは、4CPUコア/8スレッドのXeon E3 1280(3.5GHz、95W)/1270(3.4GHz、80W)/1240(3.3GHz、80W)/1230(3.2GHz、80W)がある。さらに、GPU機能がついたXeon E3 1275(3.4GHz、95W)/1245(3.3GHz、95W)/1235(3.2GHz、95W)がある。

 低消費電力版のXeon E3 1260L(2.4GHz、45W)は、GPUとしてHDグラフィック2000が搭載されている。同じく低消費電力版のXeon E3 1220L(2.2GHz、20W)は、2CPUコア/4スレッドで、GPUは搭載されていない。

 Xeon E3 1220(3.1GHz、80W)は、4CPUコアのみでハイパースレッディング(HT)はサポートされていない。Xeon E3 1225(3.1GHz、95W)は、4CPUコアのみ(HTなし)で、GPUを搭載している。

 ちなみに、GPUを搭載しているXeon E3シリーズは、デスクトップのCore iシリーズとほぼ同じような機能を持っている。しかし、Xeon E3シリーズでは、ECCメモリのサポート、Intel AMT(Active Management Technology)のサポート、各サーバーOSの動作確認などが行われている点が違いといえるだろう。


Xeon E3シリーズとデスクトップ用CPUのCore i5シリーズとの機能差。GPUが搭載されている製品は、デスクトップ向けのCPUとほとんど変わらない。ECCメモリのサポートなど、非常に細かな差だ

 

低消費電力Xeonの登場でMicroServerへ

 以前の記事で、IntelがMicroServerの規格化に積極的になっていることを解説した。北京で開催されたIDF2011でも、MicroServerに関するセッションがあった。

 今回発表されたXeon E3シリーズでは、45W、20Wの低消費電力のCPUが発表されている。今年後半にはXeon E3シリーズで15Wの製品も計画されている。

 2012年には、Sandy Bridge世代の次として開発されているIvy Bridge世代でも、低消費電力CPUが計画されている。さらに、2012年には、サーバー用途に向けたAtom CPUも計画されており、このサーバー向けAtomを使用すれば、周辺チップを含めて10W以下のサーバーが構成できるようになるという。

 このような低消費電力のCPUやチップセットを使って、ブレードサーバーよりも高密度なサーバーを目指したのがMicroServerだ。MicroServerでは、モジュールの規格化を進めることで、多くのサーバーベンダーやケース、電源メーカーが参入できるように考えられている。


MicroServerの位置付け。軽量なWebサーバー、基本的な電子メールサーバー、SaaSサーバーなどに利用されるだろうMicroServer向けの低消費電力CPUとして、Xeon E3シリーズだけでなく、2012年にはAtomベースのサーバー向けCPUをリリース。このCPUは、周辺チップの機能もCPUに統合されており、10W以下の消費電力となる

 現在、MicroServerとしてDellのデータセンター向けの3Uサーバー「DCS5120」(8または12CPUモジュール)、Tyanの4Uサーバー「FM65-B5511」(18CPUモジュール)、SeaMicroの10Uサーバー「SM10000-64」などが計画されているという。これだけのスペースで、これほどのCPUが搭載できるサーバーは、MicroServerならではだろう。

 また、低消費電力版のメモリを使用したり、内蔵ストレージにSSDを利用したりすることで、システム全体の消費電力は、今までのサーバーとは、けた違いに低くなるだろう。
 MicroServerは、1つ1つのCPUとしては、それほど性能は高くない。しかし、数を集めることで、高いパフォーマンスを出そうというものだ。このため、大規模なWebサーバーなど、用途は限られてくるかもしれない。ただ、今までの高性能で、消費電力の高いサーバーから考えれば、まったく新しい用途が開けてくるかもしれない。


フロントアクセス型のMicroServerのCPUモジュール各社がMicroServer用のケースやモジュールを開発している

 

MICアーキテクチャを採用した新しい演算プロセッサ「Knights Ferry」

MICアーキテクチャのKnight Ferryは、HPCに向けたコプロセッサとして大学や研究機関に提供されている
Intelでは、サーバー向けにはXeon E3/E7とKnights Ferryを提供していく。本命の2ソケットのサーバーCPUは、今年後半にXeon E5シリーズ(Sandy Bridge世代)をリリースする。それまでは、Xeon 5600番台(Westmere世代)が使われることになる

 これ以外に、IDF2011北京では、Many Integrated Core(MIC)アーキテクチャを採用した新しい演算プロセッサ「Knights Ferry」が、HPC用途として、各大学や研究機関に配布されている。MICアーキテクチャは、シンプルなx86CPUコアを複数個搭載して、このチップ上でさまざまなプログラムを動かそうというものだ。

 Intelは当初、GPUとしてMICアーキテクチャのLarrabeeを開発していたが、最終的にGPUとしてリリースすることは止め、コプロセッサに開発方向を変更していた。

 Knights Ferryは、1.2GHz動作のx86CPUコアを32個搭載している。さらに1CPUコアあたり、4スレッドを実現して、トータル128スレッドの実行が可能になっている。

 現在、Knights Ferryは、大学や教育機関に配布して、HPC用途での利用が進められている。これは、MICアーキテクチャがまったく新しいため、利用者がアプリケーションを新たにプログラミングする必要がある。こういったことを考えれば、高いプログラミング能力を持ち、研究が行える大学や研究機関しか利用できないというのが本音だろう。

 Intelでは、次世代のKnights Corner(50CPUコア以上)を2011年後半にリリースして、製品として販売していきたいと考えている。このころには、大学や研究機関で使われているKnights Ferryに対応したアプリケーションが増えてくるものと考えているようだ。

 さらに先には、現在拡張カードとなっているKnightsシリーズを1チップ化し、サーバーなどのマザーボードに簡単に追加できるようにする。最終的には、1チップ化したMICアーキテクチャのチップを、CPUに内蔵していく計画を持っているようだ。


2012年のIntel サーバーCPUのロードマップ。Sandy Bridge世代のXeonは、シングルソケットのE3シリーズと今年後半にリリースされる2ソケットのE5シリーズ。E7シリーズがSandy Bridge世代に移行するのは、2012年になるサーバー用CPUとして本命と思われているXeon E5シリーズの特徴。ほとんど、Sandy Bridge世代のCPUの特徴と同じ
Itaniumの次世代CPUとなるPoulsonに関しても、2012年リリースが表明された。1年以上リリースに時間があるのに、わざわざ表明したのは、マーケットの混乱を抑えるためだろう

 もうひとつ重要だったのが、次世代のItanium CPUとなるPoulson(開発コード名)を2012年にリリースすることを表明した。これは、OracleがItanium版のOracle DBの開発を中止したことに伴い、マーケットで流れた「IntelがItaniumの開発を中止するのでは」といううわさを否定したものだ。

 ただItaniumは、大規模システム向けのCPUのため、積極的に利用しているサーバーメーカーはHPだけだ。ほかのサーバーメーカーは、富士通のようにItaniumからx86に乗り換えたり、事業規模を縮小したりしてきている。このような状況を考えると、バラ色の未来を思い描くことはできない。

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