マイクロソフトの仮想化戦略を担うMED-V【前編】
前回は、シトリックスのXenClientを紹介した。今回は、日本マイクロソフト(以下、マイクロソフト)が提供しているMED-V(Microsoft Enterprise Desktop Virtualization)を2回にわたって紹介していく。
■MED-Vとはどんなモノ?
マイクロソフトの仮想化戦略は、APP-V、MED-V、RDS、VDIの4つで構成されている |
MED-Vは、マイクロソフトの仮想化戦略というパズルを支える大きなピースだ。単にクライアントの仮想化というだけでなく、企業において問題になる、アプリケーション環境の互換性をカバーするソリューションとして、期待されている。
企業でも、個人でもOSのバージョンアップは、いつも大きな問題となる。新しいOSでは、古いアプリケーションが動作しなかったり、リリースしたてのOSでは周辺機器のドライバが対応していなかったりすることが多い。
実際、Windows XPからWindows Vistaへの移行では、Windows XP対応アプリケーションの多くが、Vistaでは動作しないということあった。また、多くの企業では、独自開発したアプリケーションをVistaに対応させるため大きなコストが必要になるため、OSの更新をあきらめて、Windows XPを使い続けることがあった。
企業によっては、Vistaに移行したくても、独自アプリケーションを受託開発した会社が倒産してしまい、改修したくても、改修できないということもあった。
企業にとっては、新しいOSがリリースされるのに、古いOSを使い続けるということは、最新OSのさまざまな機能が利用できないというデメリットがある。さらに、古いOSでは、セキュリティ面でも問題が残ることもあるし、マイクロソフトにとっても、古いOSをずっとサポートし続けるのは、コスト面で大きな問題となる。新しいOSの機能を使ってもらうことで、マイクロソフト自身もビジネスを拡大し続けられるという側面もあるだろう。
そこで、アプリケーション環境の互換性を実現するために、Windows 7上でWindows XPなどの旧OSを動作させるMED-Vが開発された。
MED-Vは、Windows 7上で仮想化ソフトのVirtual PCを使ってWindows XPを動かそうというモノだ。Windows 7 Professional以上では、XP Modeという名称で、Virtual PCとWindows XPのイメージが提供されている。MED-Vは、XP Modeと同じ仕組みを利用しつつ、統合的に管理できる仕組みを提供している。
XP Modeは、単にWindows XPを仮想環境で動かせるだけでなく、バックグラウンドでWindows XPを動かし、アプリケーションだけをWindows 7のデスクトップに表示する機能を持っている。このため、Windows 7のデスクトップ上でIE8(ネイティブ環境)とIE6(XP Mode上)を動かすことができる。
XP ModeとMED-Vの違いは、管理機能だ。MED-Vでは、各クライアントPCの仮想環境を一括して管理できる。例えば、アプリケーションのショートカットを一括管理したり、仮想デスクトップからホスト側のデバイスを利用することを制限したり、仮想デスクトップの動的アップデートを行ったりすることができる。
最も便利なのは、一括して仮想環境を管理しているため、どのユーザーにどの仮想環境を配布するのかといったことが行える。つまり、複数の仮想環境を用意しておき、部署によって配布する仮想イメージを変更し、仮想環境で動作するアプリケーションを変えることも可能だ。
■MED-Vはどこで手に入る?
MDOPは、6つのソフトウェアで構成されている。この中でも、APP-VとMED-Vは、企業においてITシステムを効率よく利用するための重要なパーツだ |
MDOPは、SA契約だけに提供されるソフトウェアパック。MED-V以外にも、仮想化という面では、アプリケーションの仮想化を行うAPP-Vが用意されている |
MED-Vは、OfficeやSQL Serverなどのように単体パッケージで販売されているわけではない。このため、多くの人はMED-V自体を見たことがないだろう。
MED-Vは、マイクロソフトが提供しているMDOP(Microsoft Desktop Optimization Pack)の一部として提供されている。MDOPは、MED-V以外に、アプリケーション仮想化のAPP-V、ソフトウェア資産管理のAsset Inventory Service、グループポリシーの変更管理を行うAdvanced Group Policy Management、クライアントPCの障害復旧をサポートするDiagnostics and Recovery Toolset、エラーのモニターを行うSystem Center Desktop Error Monitoringなどがある。
MDOPは、ソフトウェア アシュアランス(SA)を契約している企業だけが利用できる。このため、多くの企業ではMED-Vが利用されていないのかもしれない。
SAは、主にボリュームライセンス向けに提供される保守契約のようなもの。SAを契約してると、例えばWindowsのSAの場合、契約期間中に新しいバージョンのWindowsがリリースされれば、無償でバージョンアップすることができる。また、SAを契約している企業だけが利用できるWindows Enterprise(現行はWindows 7 Enterprise)が利用できる。
Windows 7 Enterpriseは、機能的には、コンシューマ向けの最上位であるWindows 7 Ultimateと変わらない。しかし機能以外に重要なのは、仮想環境上で動かすOSのライセンスが優遇されている点だ。
XP Modeは、Windows XPの仮想イメージが含まれているため、XP Modeを利用する上では、Windows XPのライセンスは別途必要ない。しかし、仮想環境でWindows 2000を動かしたり、Windows Vistaを動かしたりするためには、別にOSのライセンスが必要になる。仮想環境で利用する分だけ、OSのライセンスが必要になり、企業にとってはコスト増になってしまう。
ところがSA契約だけが利用できるWindows 7 Enterpriseでは、同一のハードウェア上で4つの仮想Windows環境を動かすライセンスが与えられている。これを使っていれば、別途ライセンスを購入しなくても、Windows XP、Vista、Windows 2000などを仮想環境で、しかも4つまで動かすことができる。
さらに、4つの仮想OSを動かすライセンスは、マイクロソフトのVirtual PCだけでなく、他のハイパーバイザーでも利用可能だ。このため、前回紹介したXenClientでも、Windows 7 Enterpriseを持っていれば、Windows 7とXPの両方を動かしたとしても、追加のOSライセンスは必要ない。
MED-Vを利用するために必要なMDOPが、SA契約ユーザーのみの利用となっているのは、こうした仮想化のライセンスを考慮しているためなのかもしれない。
■MED-V 2.0がリリース
MED-V2.0のリリースは、2011年の上半期となっている。春ごろには、正式版になると思われる |
さて、話をMED-Vに戻すと、現在のMED-Vは、バージョン2.0のパブリックベータが公開されている。バージョン1.0では専用の管理サーバーが必要だったが、バージョン2.0ではこれが不要になっている。
さらに、バージョン2.0では、ホストOSのWindows 7とゲストOSのWindows XPとの間で、シームレスにデータ共有が行えるようになった。
バージョン1.0の時は、ゲストOSのWindows XP上で動かしているMicrosoft Office上でデータを保存すると、ゲストOSの仮想ディスクに保存されていた。このため、いったんゲストOSの仮想ディスクに保存したデータを、専用ツールを使って、ホストOSのディスクにコピーしていたのだ。
しかし、バージョン2.0では、ゲストOS上から、直接ホストOSのディスクにアクセスできるようになったため、専用ツールを使わなくても、簡単にデータを共有することができるようになった。
バージョン2.0のパブリックベータは2010年の10月に提供されたため、2011年の春ごろには正式リリースされることになるだろう。
次回は、実際にMED-Vを使って、企業において、どのように利用できるかを解説していく。