Synergy 2010で発表された「XenServer 5.6」


 5月中旬に米国で開催されたCitrixのテクニカルカンファレンス「Synergy 2010」では、サーバーの仮想化ソフト「XenServer 5.6」の発表があった。XenServer 5.6は、Synergy 2010で発表と同時にダウンロードでの提供が開始されている。今回は、XenServer 5.6の機能に関して、見ていこう。

安定版のXen 3.4をベースにする

 XenServer 5.6は、安定バージョンともいえるXen 3.4ベースで開発されている。Xen.orgが4月に発表したXen 4.0ベースではない。Xen 4.0は、以前紹介したように、メジャーバージョンアップとなり、さまざまな新機能が追加されている。現状では、Xen 4.0は企業に安定して運用するには、まだ心もとない。やはり、もう少しマイナーアップグレードが行われ、安定的なバージョンになっていかないとXenServerとしては採用されないのだろう。

 Xen 4.0がXenServerに採用されるのは、2010年の後半、もしくは来年になるのかもしれない。ただ、最新のXen 4.0が採用されていないといって、XenServer 5.6が劣っているわけではない。ある意味、Xen.orgの最新リリースはXenServerにとってはベータ環境といってもいい。将来的に、バージョンアップしていくが、実際に企業に導入され、運用していくことを考えれば、最新機能よりも、安定した運用ができることが重要だ。

XenServer 5.6でエディションを整理・拡張

 XenServer 5.6のリリースと同時に、XenServerのエディションが整理された。

 今までは、Essentials for XenServerという名称で有償版を販売していた(無償版は、XenServerという名称)。エディションとしては、PlatinumとEnterpriseの2つが存在した。

 今回のリリースでは、名称をシンプルにXenServerと変更した。また、無償版は、XenServer無償版となった。さらに、Enterpriseと無償版の間に、Advancedというエディションを作った。

 XenServer無償版は、仮想マシンをサーバー間で移動するXenMotionまでの機能がサポートされている。ある意味、最低限のXenServer機能が提供されている。

 Advancedでは、動的メモリ制御、高可用性などの機能が追加されている。Enterpriseは、ワークロードバランシング、StorageLink、ライブメモリスナップショット、ダイナミックプロビジョニングなどの機能が追加されている。Platinumは、仮想ラボ管理、セルフサービスポータルなど、XenServerで提供されているすべての機能が利用できる。

 今回のリリースで、製品名やエディションが整理されわかりやすくなった。また、Advancedの追加により、無償版では会社のサーバー環境に導入するには、とまどいがある企業に、Citrixのサポートをつけて提供している。無償版よりも、機能レベルを一段階アップしていることは、大きな差別化ともなっている。

 ちなみに、Essentials for Hyper-Vという製品名で提供されていたHyper-Vの管理ツールは、そのままの名称で提供されている。

XenServer 5.6は、Essentials for XenServerから単なるXenServerに名称を変更している。さらに、新しくAdvancedエディションが追加されているエディション別の機能一覧

XenServer 5.6で注目される動的メモリ制御

 XenServer 5.6のハイパーバイザーでは、ホストあたり最大64個の論理プロセッサ、ホストあたり最大256GBのメモリ、最大16枚の物理NICなどがサポートされている。今回のアップデートでもっとも注目されるのは、動的メモリ制御だろう。

 動的メモリ制御は、仮想マシンに割り当てる仮想メモリを動的に変更する機能だ。前回のHyper-V R2 SP1でも追加されたダイナミックメモリと同じような機能だ。つまり、メモリのオーバーコミットメントをサポートした。

 動的メモリ制御は、仮想マシンが使用する最小メモリ容量、最大メモリ容量を設定しておけば、設定した幅で、XenServerが仮想マシンが使用するメモリを自動的に調節してくれる。これを使うことで、1台のホストで起動できる仮想マシンの数を増やすことができる。VDIなどのデスクトップ仮想化を行う場合は、1台のホストにどのくらいの数の仮想デスクトップが集約できるかが、VDIにおけるコストパフォーマンスのポイントとなる。

 VDIなどでは、サーバー上で動かす仮想デスクトップに割り当てるメモリが重要になる。今までのハイパーバイザーでは、仮想マシンにはあらかじめ設定した容量のメモリを割り当てていた。この方式では、仮想マシンの起動時にメモリ容量を確保してしまうため、その仮想マシンでメモリを使用するアプリケーションを使っていなくて、メモリが余っていても、物理サーバーからは設定したメモリが消費される。

 これでは、仮想マシンが必要とする最大メモリ容量にあわせた数の仮想マシンしか起動できない。

 しかし、動的メモリ制御を導入することで、起動できる仮想マシンの数を増やすことができるようになる。動的メモリ制御では、最小メモリ容量と最大メモリ容量の間で、自動的にメモリを設定する。このため、仮想マシンが必要とする最小/最大メモリ容量をきちんと分析しておく必要がある。例えば、最小メモリ容量が、仮想マシンが動作する最低限よりも小さくなってしまうと、仮想マシンのパフォーマンスに大きな影響が出る。また、最大メモリ容量も、仮想マシンが必要とする最大値に設定しておく必要がある。

 実際に運用する場合は、適当に動的メモリ制御の最小/最大メモリ容量を決めるのではなく、きちんと分析しておく必要あるだろう。こういった環境を把握することで、もっとも適正なVDI環境が構築できるのだろう。

 将来的には、サーバーの運用ログを分析することで、XenServer自体が自動的に仮想マシンに割り当てるメモリを調節する「オートマチックモード」などが出てくるかもしれない。

XenServer 5.6のハイパーバイザーでは、サポートするメモリやCPU数がアップしているサポートされるゲストOSにも、Windows7/Windows Server 2008 R2などが追加された
動的メモリ制御では、仮想マシンに割り当てるメモリをダイナミックに変更できるホストが使用しているメモリの詳細
動的メモリ制御で設定した仮想マシンのメモリ。最小/最大メモリが設定されいる管理者がメモリ容量の設定を簡単に変更することも可能

XenServer 5.6で追加された機能

 XenServer 5.6では、動的メモリ制御以外にも、気になる機能がある。ライブメモリスナップショットでは、現在動作中の仮想マシンのメモリとディスクのスナップショットを撮ることができる。

 便利なのは、スナップショットのUIだ。多くのハイパーバイザーでは、単にファイル名を重ねていくだけだが、XenServer 5.6ではツリー型のグラフィック表示のUIになっている。このため、どのツリーから、分岐したのか、どのようなスナップショットなのか、といったコメントをつけて管理できる。グラフィカルな画面で管理できると、スナップショットも使いやすくなっている。

ライブメモリスナップショットでは、グラフィカルなツリーとして表示するライブメモリスナップショットの管理画面。ツリーがグラフィカルに表示されるのでスナップショットの分岐がわかりやすい

 高度なインテリジェント性を持つネットワークストレージの機能をXenServer側で利用できようにしたStorageLinkに、簡単にディザスタリカバリが構築できる機能が追加されている。

ダイナミックワークロードバランスでは、どのホストで仮想マシンを動かせばいいのかアドバイスするだけでなく、ホストのリソースをチェックして、自動的に他のホストに仮想マシンを移行させる新しいStorageLinkでは、ディザスタリカバリの機能を簡単に構築できるようになった
StorageLinkでサイトのディザスタリカバリを設定するのが簡単になったStorageLinkが設定を自動的にチェックしてくれるため、設定ミスがなくなる

 テストや開発などで仮想マシンを利用する場合、簡単に仮想マシンを展開できる「ラボ管理(Lab Manager)」機能が用意されている(Platinumエディション)。XenServer 5.6のラボ管理機能は、以前のバージョンよりも使いやすさがアップしている。

 ラボ管理機能では、ユーザーがどんどん仮想マシンを展開して、仮想マシンが乱立しても大丈夫だ。仮想マシンを展開する時に、使用できる期間などを設定したり、履歴ログをチェックすることで、一定期間動作していない仮想マシンを整理することで、使われない仮想マシンがどんどん増えて、ストレージを圧迫することを防いでいる。

 また、ユーザーが仮想マシンを構築する場合、複雑な操作をしなくても、WebインターフェイスのUIから簡単に行えるセルフサービスポータルという機能が用意されている(Platinumエディション)。あらかじめ管理者がテンプレートを用意しておくことで、複雑な設定をユーザーがしなくても、ユーザーが必要な仮想環境を構築することが可能だ。

 これ以外にPlatinumエディションには、Windows Serverで動作するWorkflow Studioが用意されている。Workflow Studioでは、PowerShellスクリプトを使って、反復動作を行うコマンドを作成することが可能だ。Workflow Studioでは、多くのコマンドが部品として登録されているため、開発者は部品をドラッグ&ドロップすることで、自分に必要なコマンド群を作成することが可能だ。

 部品に関しては、オープンコミュニティで開発が進んでいるため、新しい部品をコミュニティから取得することができる。例えば、Amazon EC2と連携するための部品なども用意されている。

セルフサービスポータルでは、ユーザーが簡単に仮想マシンを構築できるようなポータルサイトを提供するWorkflow Studioでは、Powershellで複数のコマンドを組み合わせたタスクが構築できる
Workflow Studioの画面。左のパネルから部品をドラッグ&ドロップするだけで、タスクを作ることができる

Xen 3ベースでは完成したXenServer 5.6

 XenServer 5.6は、Xen 3ベースでは完成されたといってもいいだろう。機能的にも安定しているため、企業で利用するにも大きなトラブルは起こらないだろう。また、XenDesktopやXenAppなどの他のアプリケーションとのチューニングも進んでいる。

 実際、Webアプリケーションアクセス性能の最適化を行うNetScalerのバーチャルアプライアンス版は、XenServerにチューニングされている。他のバーチャルアプライアンスもXenServerでの動作保証や性能のチューニングが行われている。

 Citrixでは、Xen4ベースのXenServerのリリースは、次バージョンのXenServerで行う計画にしている。リリース時期としては、今年の秋から来年になるだろう。

 Xen 4では、新機能が数多く追加されているため、現状のXenServer 5.6と一部重なる機能もある。このため、Xen 4ベースにXenServerを移行する時には、ハイパーバイザーだけでなく、さまざまな部分でアップデートが必要になる。こういったことを考えれば、安定したサーバーの仮想化を考えるなら、XenServer 5.6がぴったりだろう。

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