VMworld 2011に見る、VMwareが考えるクラウドと仮想化


 8月29日から4日間、米国ラスベガスで開催されたVMwareの年次イベント「VMworld 2011」では、さまざまな発表が行われた。一言でいうと、VMwareは、先日発表された仮想基盤ソフトのVMware vSphere 5を拡張して、プライベートクラウドとパブリッククラウドを統合する環境を構築しようとしている。

 VMworld 2011の開催に合わせるように、7月13日に記者発表だけ行ったvSphere5、vCloud Director、仮想ストレージを構築するStorage Appliance、ディザスタリカバリを行うvCenter Site Recovery Managerなどが、実際にリリースされた。現在、これらのソフトは、VMwareのサイトから試用版をダウンロードすることができる。

 

統合的なクラウドを目指すVMware

 VMwareは、vSphere5をクラウドを構築するベースとして利用し、その上にアプリケーションサーバーやSpringフレームワークなどで構成するアプリケーション基盤「vFabricファミリ」を構築している。特に今回、vFabricファミリの新しいソフトウェア群として、vFabric Data Directorが発表された。

 vFabric Data Directorは、vSphere上で動作し、Database as a Service(DaaS)を構築するためのソフトウェア群だ。また、vSphere5の仮想環境上で動作を最適化したvFabric Postgres 9.0も発表された。vFabric Postgres 9.0は、PostgreSQLと完全な互換性を持つデータベースとなっている。

 vFabric Data Directorでは、プロビジョニング機能、Webベースポータルを介して、データベースを自動配置する機能など、いわゆるクラウド上で利用する時に必要になる管理機能などが搭載されている。ちなみに、vFabric Data Directorは、vFabric Postgres 9.0だけでなく、ほかのオープンソースデータベース、商用データベースをサポートする予定だ。


vFabricにDatabase as a Service(DaaS)構築のため、vFabric Data DirectorとvSphere5にチューニングしたvFabric Postgres 9.0をリリース(VMworld 2011の基調講演ビデオより)DaaSを構築するvFabric Data Directorのアーキテクチャ図(VMwareサイトより)

 もう1つ重要な発表としては「vCloud Datacenter Global Connect」がある。これによって、VMwareが進めていたVMwareプラットフォームベースのパブリッククラウド事業者を相互接続する。

 つまり、vCloud Datacenter Global Connectでは、VMwareが認証したvCloud Datacenter Services事業者を相互に接続する。利用者にとって便利なのは、それぞれの事業者と個別に契約しなくても、単一の契約を行うだけで、世界各地にあるvCloud Datacenter Services事業者のパブリッククラウドを利用できる点だ。もちろん、世界各地にあっても、単一の画面で一括管理できるため、利用者にとってはシンプルで便利なサービスとなるだろう。

 現在、vCloud Datacenter Services事業者としては、米国のBluelock、欧州のColt、シンガポールSingTel、日本のソフトバンクテレコムのほか、Dell、Verizonなどが発表されており、またITベンダーとして、米国のCSCとTerremarkが入っている。

 パブリッククラウドの普及ということでは、VMware自身もvcloud.vmware.comというサイトを立ち上げている。このサイトでは、VMwareが認証しているクラウド事業者を各地域、各国別に紹介し、無償でのテストが行えるようになっている(無償のテスト版は、機能が限定されている場合もある)。

 これらの試用版のクラウドサービスでは、VMwareが提供しているクラウド間で仮想マシンの転送を行うvCloud Connectorが利用できるため、社内の仮想マシンをパブリック クラウドにコピーしてテストすることも可能になっている。


vCloud Connectorの操作画面。vCloud Connectorは、Web画面で操作できる(VMwareのPR写真より)vCloud Datacenter Global Connectの管理画面。ここから、データセンターを選択するだけで、世界各地のデータセンターに仮想マシンを移動できる(VMwareのPR写真より)
VMworld 2011の基調講演に立つVMware社のCEO、ポール・マリッツ氏(米VMwareのPR写真より)

 VMworld 2011の基調講演において、ポール・マリッツCEOは、「昨年のVMworldで話したように、プライベートクラウドとパブリッククラウドを融合させたハイブリッドクラウドを利用する企業が実際に出てきている。事例で紹介したニューヨーク証券取引所(NYSE)など先端的な企業が採用を開始している。しかし、クラウドをベースとしたシステムを新たに開発している企業も多いが、現状で企業に残っているクライアント/サーバーのシステムをどうにかしてクラウドに対応させていく必要もある。こういった企業のためにも、VMwareはvSphereやvCloud、vFabricなどのシステムを提供している」。

 「ただ、仮想化して、クラウドに置くだけでは、今までと比べるとあまり変わらない。やはり、どれだけ簡単に管理ができるようになるかが重要だ。さらに、管理の自動化を進めることで、膨大な仮想サーバーやシステムを少人数で管理できるようになれば、クラウドのコストメリットは大きく現れるだろう。もう1つ重要なのは、クラウド時代とともに、PC時代の終えんが訪れていることだ。スマートフォン、タブレットなどの普及により、企業が利用するクライアントはPC以外のものが多くなってきている。こういったプラットフォームにキチンと対応していく必要がある」と語っている。

 このように、企業のITシステムがクラウドを前提とする時代が来たことを感じさせる。今後は、どのようにレガシーシステムとなるクライアント/サーバーシステムをクラウドに移行させるかが重要になってくる。

 今までのクライアント/サーバーシステムでは、クライアントはPCと考えていたが、今後はPC以外のスマートフォンやタブレットなどが利用されるようになる。こういった新しいデバイスを利用していくためにVMwareでは、新しいソリューションを発表している(後の項目で説明)。


クラウド時代では、数十億のユーザーとデバイスが接続する。PC自体は、数の上ではマイナーなモノとなる。このとき重要になるのは、HTML5、フレームワーク、XaaS(さまざまなクラウドサービス)だという(VMworld 2011の基調講演ビデオより)本格的なクラウド時代を構築するためには、インフラと運用管理の効率化、アプリケーションの再構築、新たなデバイスへの対応の3つのポイントが重要になる(VMworld 2011の基調講演ビデオより)
VMworld 2011でスニークプレビューされた、管理の自動化システム。ある程度の動作は、オートマチックに処理してくれる。どうしても、システム側で処理できない問題だけ管理者にアラートを出す(VMworld 2011の基調講演ビデオより)VMworld 2011でスニークプレビューされた新しいvCenterの画面。さまざまなサーバーや仮想マシンの情報などが、グラフなどでビジュアル化されてダッシュボードとして表示されている(VMworld 2011の基調講演ビデオより)

 

PC環境にオープンソースのPaaS環境を構築できるMicro Cloud Foundry

 VMworld 2011での発表ではないが、少し注目されるのが、PC環境にオープンソースのPaaS環境を構築できるMicro Cloud Foundryのβ版が8月24日から提供されている。Micro Cloud Foundryは、VMwareが4月に発表したCloud Foundryがベースとなっている。

 Cloud Foundryは、PaaSとして開発者が利用するフレームワーク、アプリケーションサービス、アプリケーションを配信するクラウドなどが、自由に組み合わせることが可能だ。フレームワークとしては、Spring、Grails、Node.js、Ruby on Railsなどのが利用できる。また、アプリケーションサービスの中核として利用するデータベースには、MongoDB、MySQL、Redisが利用可能。

 Cloud Foundryで開発したシステムは、vSphere環境やvCloud環境だけでなく、Amazon Web Servicesなどのパブリッククラウドにも展開可能。

 Micro Cloud Foundryは、Cloud Foundry環境を自分のPC上に仮想環境として構築できる。これを利用すれば、PC上で構築して、テストしてから、パブリッククラウドに展開するといったことも可能になる。ちなみに、Cloud Foundryは、VMwareが買収したSpringSourceのJavaプラットフォーム「SpringSource Cloud Foundry」がベースになっている。


Cloud Foundryを使えば、オープンソースのPaaS環境が簡単に構築できる。できれば、VMware環境と連携するようになれば、便利になるだろう(VMwareサイトより)Micro Cloud Foundryは、Cloud Foundry環境をPC上で動作させることができる。VMware PlayerやVMware Workstation上で動かすことが可能(VMwareサイトより)

 

ポストPC時代のクラウドへ

 VMworld 2011の開催に合わせて、vSphere 5をベースとしたVDIプラットフォームのView 5も、発表が行われた。

 今まで、仮想デスクトップを使用してするには、PCが前提となっていた。しかし、クラウドがメインとなる時代になり、PCはスマートフォンやタブレットなどと同じく、デバイスの1つとして位置づけられるようになった。

VMwareのCTO スティーブ・へロッドCTOは、今後のクラウドとクライアントの環境を3つのレイヤで解説している。VMwareは、それぞれのレイヤでソフトウェアを提供する予定だ(VMworld 2011の基調講演ビデオより)

 VMworld 2011の2日の基調講演においてVMwareのスティーブ・へロッドCTOは、「ポストPCの世界では、デバイスではなく、人が中心となる。ユーザーがどのようなデバイスでも利用できるように、システムも変化していかなければならない。ここで注意が必要なのは、PCのデスクトップをスマートフォンやタブレットなどの新しいデバイスでサポートすることは、スマートフォンやタブレットのメリットを失わせる。だからこそ、スマートフォンやタブレットのユーザーインターフェイスの良さをサポートしていく必要がある」と語っている。

 VMwareでは、クラウド側にViewによりVDI環境を構築し、アプリケーションはThin AppのApplication Catalog ServiceとHorizon Application Managerを利用して、集中管理する。Application Catalog Serviceを利用すれば、Thin Appで配信するアプリケーションをカタログ化して、ユーザーが簡単にインストールしたり、利用できるようになる。また、Horizon Application Managerがデバイスとの中間でブローカー的役割を果たす。


View 5のデスクトップ画面(VMwareのPR写真より)VDI環境のPoolに関する情報画面(VMwareのPR写真より)
Android版のView 5クライアントソフト。タブレットのタッチ機能がサポートされている。デスクトップはWindowsのデスクトップ画面が表示されている(VMwareのPR写真より)iPadのView 5クライアント。Android版と同じくタッチ機能が利用できる。キー入力は、iPadのスクリーンキーが利用できる(VMwareのPR写真より)
Project Octopusでは、ファイルがスマートフォン、タブレット、iPad、PCでも同じように扱える。便利なのは、各デバイスの画面サイズやUIにマッチした画面で表示されることだ(VMwareのPR写真より)

 クラウド側で注目されるのが、Project Octopusだ。これは、Dropboxなどと同じようなクラウドストレージサービスだ。ただ、Dropboxなどと異なるのは、コンシューマ向けのクラウドストレージではなく、エンタープライズ用途だということだ。このため、ファイルのアクセス権、プロパティ情報などがサポートされている、また、プライベートクラウドでも構築できるようにパッケージ化されている。


 デバイス側では、Project AppBlastというものが開発されている。AppBlastは、アプリケーションの画面をHTML5ベースに変換して、デバイスに転送する。つまり、View上に構築されたWindows OSにiPadからアクセスする場合、単純にiPadにリモートデスクトップ アプリケーションを使って、iPad上にWindowsのデスクトップを再現しない。iPadでアクセスしやすいように、インターフェイスを書き換えてくれる。ただし、Windowsアプリケーションを動かしたときは、画面をHTML5に変換して、iPadでExcelやPhotoShopの画面を表示してくれる(もちろん、iPad側から操作できる)。

 AppBlastは、HTML5の機能を最大限生かしたものだ。このため、今後出てくるスマートフォン、タブレットなどは、HTML5をサポートしたブラウザーが必ず搭載されているため、個々のデバイスごとに専用アプリを作る必要もなくなるかもしれない。


Thin Appのアプリケーションをカタログ化してユーザーに公開する。ユーザーは、自分に必要なアプリケーションをインストールすればいい(VMwareのPR写真より)Horizon Application Managerの管理画面では、何人のユーザーがどのアプリケーションを使用しているのかを簡単に確認することができる(VMwareのPR写真より)
AppBlastで利用できるアプリケーションのリスト画面(VMwareのPR写真より)iPadでAdobeのPhotoshopが動作している。よくみれば、ブラウザで動作しているのがわかる。VDI環境で動作しているPhotoshopの画面だけをiPadに転送しているのだ。このとき、HTML5に変換するため、iPadのブラウザ上で動作しているように見える(VMwareのPR写真より)
Horizon Mobileの管理コンソール

 これ以外に、Horizon Mobileというプロジェクトでは、1つの携帯電話上で、仕事用とプライベート用の2つの環境を実現する。これなら、仕事用の携帯電話、プライベートの携帯電話と、携帯電話を2つ持たなくてもいい。これは、以前VMwareが買収したTrango Virtual Processorsのテクノロジーで開発したVMware MVP(Mobile Virtualization Platform)を利用したものだろう。

 実際、韓国のLGは、VMware MVPをサポートした携帯電話をリリースしている(サムスンも対応予定)。ただし、LGもサムスンもすべての携帯電話で採用しているわけではなさそうだ。特定の機種のみでのサポートのようだ。


Horizon Mobileでは、携帯電話の環境を仮想化して、複数を切り替えることが可能になる。この画面は、個人用環境(VMwareのPR写真より)仕事用環境は、このようにビジネスで必要なアプリしかインストールされていない(VMwareのPR写真より)

 VMworld 2011の2日目の基調講演ビデオを見てみると、Viewのクライアントデバイスが、PCだけではなく、スマートフォン、タブレットなどへと移行していくのが感じられた。今後は、ユーザーがどのようなデバイスを使用するのかによって、クラウド側がすべてを調整して、ユニバーサルアクセス環境を構築してくれるようになるのかもしれない。

 アプリケーションは、WindowsなどのPCを前提としているが、ディスプレイやヒューマンデバイス(キーボード、マウス、タッチパネルなど)部分は、PCから独立して、さまざまなデバイスをサポートするようになるだろう。ただ、このようなクラウド環境が実現するには、パブリック ネットワーク(携帯電話のデータ通信網、WiFiなど)が安定的で、高速化されている必要があるだろう。

 こういったことを考えると、もしかすると、VMwareが考える未来は日本のIT環境にぴったりなのかもしれない。


同じファイルやフォルダをiPadでアクセス(VMwareのPR写真より)同じファイルをWindows OSでアクセス(VMwareのPR写真より)同じファイルをMac OSでアクセス(VMwareのPR写真より)
関連情報