ライセンスが大きく変わった「VMware vSphere 5」
7月13日に、VMware vSphere 5が発表された。
このvSphere 5では、ハイパーバイザーがESXiに一本化され(以前のvSphere 4.1までは、ESX/ESXiの2つが用意されていた)、ストレージ関連、Auto-Deploy機能などが強化されている。
ユーザーにとって最も気になるのが、vSphere 5で製品ラインアップの大幅な変更、ライセンス方式の変更が行われていることではないだろうか。ライセンス方式の変更により、vSphereを利用していく上でのランニングコストが、大きく変わることになる。
今回は、こうした機能やライセンスの変更について解説するが、製品のリリースが2011年第3四半期の予定(8月29日から4日間、米国ラスベガスでVMworldが行われるため、筆者はこのタイミングでリリースされると予想している)で、本稿の執筆(8月中旬)時点では、試用版なども提供されていない。このため、米国で公開されている資料を基に新機能を紹介していく。
なお、VMwareの日本語サイトでは、vSphere 4.1とvSphere 5の情報が入り交じった状態であり、また、一部のページは、機械翻訳をかけたような変な日本語の文章が混じっているので、英語がわかるユーザーは、米国のサイトを参照した方が、きちんとした情報を入手できるだろう。
■ハイパーバイザーがESXiに一本化
vSphere 5では、前述したように、ハイパーバイザーがESXiに一本化された。vSphere 4.1で採用されていたESXとESXiの大きな違いは、サービスコンソールというLinuxのOSの有無だ。
ESXでは、Linux OSが存在しているため、Linux上でさまざまなツールが利用できた。しかし、その分ハイパーバイザーとしては容量が肥大化していた(2GBほど)。一方、ESXiはVMwareが独自に開発したVMKernelがベースとなっており、非常にコンパクトになっている(150MBほど)。ただし、ESXで利用できていた一部のソフトウェアが、ESXiでは利用できなくなっている。
このため、ESXを利用しているvSphereの既存ユーザーが、vSphere 5へのアップデートを行うときは、さまざまな部分の互換性チェックを行う必要があるだろう。vSphere 4からvSphere 4.1へのアップデートと同じように、手軽に行えるという訳ではなく、きちんとした計画を持って行う必要がある。
ESXのサポートに関しては、VMwareのライフサイクルポリシーに従って、ジェネラルサポートがメジャーリリース後5年間提供され、テクニカルガイダンスは、ジェネラルサポート終了後2年間の提供となる。今後のことを考えれば、ESXを利用しているユーザーは、あと数年のうちに、ESXiベースのハイパーバイザーへ移行することを計画すべきだろう。
■ESXi 5の新機能
ESXi 5では、仮想マシンあたり32個の仮想CPUをサポートしている(以前は8つの仮想CPU)。最大メモリ容量としては1TBにアップしている(以前は256GB)。ただし、メモリ容量に関しては、ライセンスと関連するため注意が必要だ(ライセンスに関しては後述)。
またESXi 5では、CPUのスケジューラを改良して、IntelのHyper Threading(HT) Technologyへのチューニングも行われている。これにより、XeonなどのサーバーCPUにおいて、高いパフォーマンスが得られるようになっている。
ESXi 5の仮想ディスプレイは、Windows OSのGUI Aeroをサポートした。ただし、グラフィックチップを直接利用するような機能は用意されていないため、ハードウェアアクセラレーションのないWindows Aeroと、基本的な3Dのみがサポートされた。この機能に関しては、試用版がリリースされていないので、どのくらいの性能を発揮できるのかまだ不明だ。クライアント向けのVMware WorkstationではAeroをサポートしているので、同等のレベルぐらいまでサポートされていることを期待したい。
もう1つ、大きな新機能としては、SSD Swap Cache機能が挙げられる。これは、メモリのスワップを高速なSSDに置くことで、HDDなどの低速デバイスにスワップしないようにする機能。仮想マシン上でメモリスワップが起こっても、高速なSSDを使うことで、パフォーマンスの低下を抑えられるメリットがある。
ネットワークI/Oコントロールに関しても、機能アップが図られている。vSphere 5では、仮想マシンごとにネットワークの帯域をコントロールすることが可能になった。仮想マシンごとに使用できる帯域を指定するのではなく、優先度を指定する方法を採用している。これにより、重要度の高い仮想マシンがネットワークIOがボトルネックになることがなくなる。
また、Cisco Unified Computing System(UCS)などで採用されているDirectPath I/Oにも対応したことで、仮想マシンが特定のネットワークIOを占有することも可能になる。これを利用すれば、ネットワークストレージを利用する場合でも、高いパフォーマンスが出せる。
ネットワークI/Oコントロールのイメージ図。重要な仮想マシンのネットワーク アクセスを優先的に処理するように設定できる(VMwareの米国サイトにあるテクニカルペーパーより) | SSD Swap Cacheのイメージ図。SSDを搭載することで、スワップデータを高速なSSDを中心に保存する。これにより、システム全体としては性能が向上する(VMwareの米国サイトにあるテクニカルペーパーより) |
このほか、ESXi 5で追加された機能としては、ESXi Firewallがある。ESXでは、Linux OSがベースとなっていたので、Linuxのファイアウォール機能が使用できたが、ESXiはVMware独自のプラットフォームのため、Firewallは今までは用意されていなかった。
今回ESXi Firewallが用意されたのは、ESXと一本化されたことで、セキュリティ面からもESXi上で動作するFirewallが必要になったためだ。
VMwareでは、ESXiハイパーバイザーは高いセキュリティ性を持つと説明はしているが、ESXとESXiの一本化による、ESXユーザーの不安感を少しでも取り除こうとして、ESXiにファイアウォールを搭載したのだろう。
ESXi Firewallの設定画面。vSphere ClientからFirewallの設定が行える(VMwareの米国サイトにあるテクニカルペーパーより) |
■Image Builderによりカスタムイメージを作成可能に
ESXi 5では、Image Builder機能も用意されている。ESXiは、ドライバソフトなどは最低限必要しか搭載されていない。このため、新しいハードウェアを利用するには、ESXiにドライバを追加する必要がある。ESXi 5では、Image Builder機能を用意することで、ユーザーが必要なドライバソフトなどを追加したESXiを構成できるようになる。作成されたイメージは、ブータブルファイルやISOファイルで出力される。
ネットワークのPXEブートを利用して、ESXi 5を自動的に配布して、設定を行うAuto-Deploy機能とImage Builder機能を合わせれば、プライベート クラウドに新しいサーバーを導入しても、ネットワーク経由で自社のサーバーに合わせたESXi 5環境が自動的にインストールされる。
このほか、USB 3.0やUEFI Virtual BIOSのサポート、ゲストOSとしてのMac OS X Serverサポートなどが改良点になる。
Image Builderは、ESXiのドライバーを再編集して、新しいイメージを作成する(VMwareの米国サイトにあるテクニカルペーパーより) | Auto DeployとImage Builderを組み合わせれば、ユーザー独自のESXiをプライベート クラウドに簡単に配布できる(VMwareの米国サイトにあるテクニカルペーパーより) |
■ストレージ関連の機能を大幅に強化したvSphere 5
vSphere 5の新機能としては、ストレージ関係の強化が大きいだろう。新しく搭載されたStorage DRS(Distributed Resource Scheduler)は、あらかじめ決められた設定に従って、仮想ディスクを移動する機能だ。
例えば、ある仮想ディスクの容量が決められた以上の容量になったときは、別のストレージに移動させることで、特定のストレージだけにアクセスが集中しないようにする。つまり、vMotionがCPUやメモリのリソースをサーバー間で平準化する機能なら、Storage DRSは、ストレージ間でのディスク消費やアクセスを平準化する機能といえる。
もう1つのProfile Driven Storage機能は、複数のストレージに対してSLAを規定(RAIDレベル、スナップショットの有無)しておき、仮想マシンが必要とするSLAと照らし合わせて、最適なストレージに仮想マシンを配置する機能だ。ただしこの機能を利用するには、ストレージ側が専用APIをサポートしている必要がある。
また、vSphere 5では、FCoEのソフトウェアイニシエータがサポートされたほか、iSCSIのソフトウェアイニシエータも改良され性能が向上している。
Storage DRSのイメージ図。Storage DRSを利用することで、複数のストレージを平準化して利用できる(VMwareの米国サイトにあるテクニカルペーパーより) | Profile Driven Storage機能は、対応したストレージ機器が必要になる(VMwareの米国サイトにあるテクニカルペーパーより) |
vSphere 5で採用されたストレージフォーマットのVMFS 5は、最大64TBをサポートしている(VMwareの米国サイトにあるテクニカルペーパーより) |
■新しくなった製品ラインアップと複雑なライセンス
vSphere 4.1とvSphere 5のライセンスの差(VMwareの米国サイトに掲載されていた価格とライセンスに関する資料より) |
vSphere 5では、ラインアップも見直されている。主に中規模以上向けの製品はStandard、Enterprise、Enterprise Plusの3つになり、vSphere 4.1にあったAdvancedはなくなった。主に中小向けのパッケージであるvSphere Essentials、Essentials Plus(HAとvMotion、VMware Data Recovery機能を含む)は、引き続き用意されている。Essentialsシリーズは、サーバー数は最大3台と限定されているが、vCenter Serverもバンドルしている。
今までのvSphereは、物理CPU単位のライセンスだった。しかし、vSphere 5では、エディションごとに設定されていた利?可能な物理メモリの制限がなくなった。その代わりに、物理CPUライセンスあたりで利用可能な、仮想メモリ量の制限が追加された。また、以前は、1物理CPUのコア数に制限を加えていたが、vSphere5から撤廃された。
仮想マシンで使用できる仮想メモリ量がライセンスで制限されるケースが出るので、ユーザーの利用環境によっては、大きなコストアップの要因となる。
例えば、vSphere 5 Enterpriseのライセンスでは、利用できる仮想メモリは1物理CPUあたり64GBのため、1ソケットのx86サーバー上で、48GBの仮想メモリを持つ仮想マシンを2つ動作させる(48GB×2=96GB)ためには、96GBまで利用できる、上位のEnterprise Plusを購入しないといけなくなる。
こうした制限が加わったため、vSphere 5の発表が行われた後、VMwareにさまざまなフィードバックが寄せられたようで、結局は、当初決まっていた仮想メモリの総容量を大幅にアップすることになった。前述のようにEnterprise PlusはCPUあたり96GBの仮想メモリを利用できるが、当初は48GBとされており、約2倍に拡大されたことになる。またCPUあたりの仮想メモリの総容量に関しては、12カ月の平均で計算されることになった。
製品の価格に関しては、米国ではStandardが995ドル、Enterpriseが2875ドル、Enterprise Plusが3495ドルとなっている。
主に中規模以上向けのvSphere 5の製品ラインアップ(VMwareの米国サイトに掲載されていた価格とライセンスに関する資料より) | VMwareが公開した新しい仮想メモリライセンス。対象となる仮想メモリの総容量が引き上げられている。EnterpriseやEnterprise Plusでは、倍の容量になった |
一方、仮想デスクトップ(VDI)向けにはvSphere Desktop Editionを用意する。このエディションでは、デスクトップOSの動作だけという制限はあるが、仮想メモリライセンスは適応されず、同時接続セッションの総数がベースとなる。
【お詫びと訂正】
初出時、「起動された仮想マシンの総数がベース」と記載しておりましたが、正しくは「同時セッションの総数がベース」です。100の仮想マシンが起動していても、接続している仮想マシンが50だけの場合は、必要なライセンスは50となります。この点、お詫びして訂正いたします。
VDIに関する新しいライセンス(VMwareの米国サイトに掲載されていた価格とライセンスに関する資料より) |
筆者の個人的な考えとしては、まず、コア数や物理メモリの制限がなくなったことは評価したい。ただ、仮想メモリ量の制限については、非常にわかりにくく、ユーザーにとってメリットがないように感じる。8月に入って、1ライセンスあたりで利用可能な仮想メモリの容量を発表当初からアップするぐらいなら、もっとシンプルでわかりやすいライセンス形態に変更した方がよかったのではないだろうか?
ユーザーにとって、1つのサーバーにCPUとメモリを集中する方がコストメリットがあるのか、ほどほどのCPUとメモリを搭載したサーバーを複数用意していく方がコストメリットがあるのか、判断に迷うことが多くなったのではないか。もしかすると、システムのサイジングとライセンスのサイジングを計算することが必要になるのかもしれない。
なおVMwareでは、仮想化ソフトのvSphere 5と同時に、vCloud Director1.5、vCenter Site Recovery Manager(SRM)5、、中小企業向けのストレージソフトのVMware vSphere Storage Applianceなども発表している。今後、VMwareは、単なる仮想化ソフトのベンダーではなく、クラウドインフラを提供するベンダーになるため、vSphere 5を基盤として、その上にさまざまなソフトウェアやサービスを提供していこうと考えているようだ。
この連載でも、以前、vSphere 4.1のvShield関連の機能を紹介していく予定としていたが、vSphere 5のリリースが近いため、vSphere 5の試用版が提供されてから、vSphere 5ベースで機能を紹介していくことにしたい。
VMwareが考えるVMware製品の構成マップ。VMwareの米国サイトより |