8ソケットの大型x86サーバー「DL980 G7」はItaniumサーバーを超えるのか?

日本HPにその利用法を聞く


 今まで数回にわたって、日本ヒューレット・パッカード株式会社(日本HP)のx86サーバーである「HP ProLiant」と、そのフラグシップモデルである8ソケットサーバー「HP ProLiant DL980 G7」(以下、DL980 G7)を紹介してきた。

 今回は、そのDL980 G7がどのような用途に利用されていくのか、またItaniumプロセッサを搭載するサーバー「HP Integrity」とのすみ分けはどうなっていくのかなどを、エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 ビジネスクリティカルシステム事業本部 製品マーケティング本部 製品企画部のマーケティング・スペシャリスト 伊藤章一氏と、ESSプリセールス統括本部 エンタープライズサーバー・ストレージ技術第二本部 ビジネスクリティカルシステム技術第一部の阿比留竜一氏に伺った。

Xeon 7500番台が登場しても、IntegrityとProLiantはまだまだ違う

HP ProLiant DL980 G7
伊藤章一氏

――DL980 G7のような超ド級のx86サーバーは、どのような用途に使われていくのでしょうか?

 伊藤氏:その前に、少し昔を振り返りましょう。かつては、IntegrityとProLiantを取り巻く環境が、今とはまったく異なっていました。

 そうした中で、「メモリを大量に使う用途としては64ビットOS」という明確な区分があったわけです。x86は2~4GBまでで、それ以上はIntegrity、という切り分けですね。x64は、3年前は今ほどポピュラーではありませんでしたし、使えたとしても、信頼性などで、(IA64の)Integrityとも明確な違いがありました。また、Integrityは、SQL ServerやLinux系のデータベースとも、アライアンスを取りながらアプローチしていました。

 今は、x64がこれだけポピュラーになったことで、様相が変わってきています。Integrityは、専用のHP-UXと連携させたRAS機能を生かせますから、そういった領域はUNIX(=Integrity)でやるべきではないか、という提案をしています。超ミッションクリティカルな領域は、x86(x64)では太刀打ちできないですから。

  OS側を見ても、Itanium向けのWindowsやRed Hatも現行バージョンまではサポートされますが、やはり当社としては、HP-UXとの組み合わせで、信頼性をしっかりと提供するソリューションを作っていきたいと思っています。

阿比留竜一氏

――そうした中で、x86サーバーの中では信頼性に優れ、8プロセッサを内蔵できるDL980 G7をリリースしたわけですが、Integrityとのすみ分けは、どうなるのでしょうか?

 阿比留氏:実は、DL980 G7は、ProLiantシリーズでありながら、Integrityのチームが設計・開発、販売を行っています。このため、Integrityの技術が数多く採用されています。もちろん、ProLiantシリーズなので、ProLiantが持っている技術も使われています。ある意味、DL980 G7は、Integrityとx86サーバーのProLiantのいい部分を融合させたサーバーといえるでしょう。

 このようにいうと、「HPは、ItaniumのIntegrityを止め、x86のProLiantサーバーに集約するのでは」とおっしゃるユーザーさんもいらっしゃいます。しかし当社では、前述したように、IntegrityとProLiantは、全く別物だと考えています。

 確かに、Xeon 7500番台を採用することで、RAS(Reliability、Availability、Serviceability:信頼性、可用性、保守性)機能がサポートされました。しかし、Integrityからすれば、最初の一歩を踏み出したぐらいなんです。

 例えばCPUレベルで比べても、Itanium 9300では、SE-hardenedという、人工衛星で利用されている新しいメモリエラーを防止する技術が採用されています。また、Itanium 9300は、メモリコントローラやディレクトリキャッシュというシステムインターフェイス部分がCPUに内蔵されています。これにより、新しく内蔵されたシステムインターフェイスを含めて、エラーハンドリングが正しく行えるようになっています。仮想化においても、メモリの自動再割り当てや新しいサスペンド/レジューム機能など、高度な機能が提供されています。

 OSを見ると、HP-UXは障害のあったCPUを、オンラインで切り離す機能を持っています。一方、Xeon 7500番台ではCPUの機能としては持っていますが、ファームウェアやOSが付いてきていません。トータルで差が付いているわけです。

 このように、Integrityと、x86のProLiantでは、まだまだ可用性、冗長性といった部分において、比較できないと思います。Integrityは、全停止障害は1000年に一度という非常に高いレベルを目標として設計されています。このため、金融業界など、絶対にシステムダウンが許されない、高いレベルのミッションクリティカルな分野には、Integrityが必要とされます。

 もう少し、要求レベルの低い用途なら、コストを重視したx86サーバーがぴったりでしょう。つまり、どれくらい止められないかがポイントで、できるだけ止めたくない、10分止めると何億円の損害、といったようなところではIntegrityが適していますし、ある程度ダウンタイムが許されるところはXeonのProLiantが適しているのです。

 その中でもDL980 G7は、x86サーバーでありながら、既存のx86サーバーよりも高い信頼性を持っているため、企業のITインフラの基盤となる情報システムのサーバーとして利用できるだけのレベルに達しているといえます。

サーバー集約でライセンスコストを削減、

――では、具体的にはどういった用途に適しているのでしょうか?

DL980 G7の適合する分野
DL980 G7では、多くの物理サーバーを仮想化により集約することができる

 阿比留氏:最近注目されているサーバーの仮想化により、複数の物理サーバーを1台のDL980 G7に統合していくという用途があります。何十台もの物理サーバーを運用するよりも、1台のDL980 G7を運用する方が、システム管理という面ではやりやすいでしょう。

 また、消費電力あたりのパフォーマンスという面から見ても、Xeon 7500番台は非常に優れているため、以前のサーバー数台分の電力で、数十台のサーバーと同じパフォーマンスが得られます。これなら、電力不足で悩んでいるデータセンターにぴったりなサーバーでしょう。

 もう1つは、サーバーの集約により、ソフトウェアのライセンスコストが削減できることです。物理サーバーを何十台も運用していると、それぞれの物理サーバーごとに、OSやデータベース、アプリケーション、管理ソフトウェアなどのライセンス料がかかってきます。

 ライセンス料は、初期購入時だけではなく、毎年、年間保守料といったコストがかかるソフトウェアもあります。これが何十台分になると思うと、ライセンス料だけで新しいサーバーが購入できるほどの金額になります。だからこそ、仮想化で十分なパフォーマンスを発揮するDL980 G7を導入することで、ソフトウェアのライセンスコストを大幅に削減することが可能になります。

 多くのソフトウェアでは、CPUライセンスとなっています。このため、8コアのXeon 7500番台を使用することで、古いサーバーと同じCPUコア数を用意しても、CPU数自体が少なくなります。これにより、ライセンスコストも大幅に削減できます。


1台のラックマウントで、5台のDL980 G7が導入できため、5台のDL980 G7でCPUコアは320コアとなる。最新の2ソケット向けであるXeon 5600番台をデュアルCPU(6コア×2)の組み合わせで使用した2Uサーバーなら、約27台必要となるDL980 G7によりソフトウェアライセンスの集約が行えることで、コストも削減できる
8コアのXeon 7500番台を使えば、コア数の少ないCPUのサーバーと比べて、ソケット課金のソフトウェアライセンス料金を削減できる8コアの効果によるライセンスコスト削減効果

 伊藤氏:スケールアップWindowsやスケールアップLinuxは、新しい領域ですが、こうした用途では大きなメリットを出せるサーバーだということです。実は、お客さまのところに、WindowsやLinuxのエンジニアはいるが、UNIXのエンジニアがいない、ということも十分にありえるのですね。いくらIntegrityがいいといっても、それを扱える人間がいなければ仕方ありません。そうした場合には、他社の製品と比べて、DL980 G7は大きなメリットを提供できるのではないでしょうか。

 また、1台で高性能を要求するようなデータベース処理などにも、スケールアップサーバーとしてのDL980 G7は向いています。クラスタ構成ができない、あるいはしにくいデータベースでは、スケールアップサーバーは使いやすいですよね。また、ライセンス料ということでは、SQL Serverなどソケット課金のソフトウェアでコア数の多いXeon 7500番台を利用すると、コストの削減につながります。

性能がリニアに伸びるので統合がしやすい大型サーバーになった

――しかし一般的な話としては、多数のCPUを搭載したサーバーは、性能が上がりにくいと言われています。ベンチマークを見ると、DL980 G7は、ほぼリニアに性能が上がっているようですが。

 伊藤氏:お話いただいたように、性能がほぼ2倍に近く、リニアに上がるのがDL980 G7の特長で、他社ではできないことです。リニアに性能を上げたいお客さまには、最適なのではないかと考えています。

DL980 G7では、ノードコントローラを採用することで、他社の8ソケットサーバーとはアーキテクチャが異なる

 阿比留氏:Xeon 7500番台を採用したサーバーの多くは、4つのCPUを搭載した4ソケット製品が多いですね。Xeon 7500番台は、ノードコントローラを使用しなくても8ソケットのサーバーを設計できるようになっています。しかし、Xeon 7500番台のパワーを最大限生かすには、8ソケットサーバーでは、ノードコントローラが必須だと当社では考えています。

 ノードコントローラを使用しない設計では、CPU間のキャッシュ・コヒーレンシ・トラフィックが増加してしまいます。これは、それぞれのCPUがダイレクトに接続されているのは3つのCPUだけで、残りの4つのCPUへの接続は、ダイレクトに接続されているCPUを介した(2ホップの)接続になっています。このため、ある程度のトラフィックが、CPUに負荷をかけてしまいます。Xeon 7500番台は確かに8ソケット対応設計ですが、その性能を最大限に生かすには、もうひと工夫が必要なのです。

 そこで当社では、2つのCPUを1つのノードとして、DL980 G7を設計しました。ノードコントローラの開発には、高度なテクノロジーが必要でした。しかし、Itaniumを搭載するIntegrityなど、パフォーマンスと高い信頼性を持つサーバーを開発している経験があるので、x86サーバーでも、Integrityで採用している技術などを使い、DL980 G7のような超ド級サーバーを作り上げることができました。

 DL980 G7では、ダイレクトに接続されていないCPUへはノードコントローラを介してアクセスすることで、キャッシュ・コヒーレンシ・トラフィックを大幅に低減し、8ソケットサーバーとしての性能を最大化しています。

他社の8ソケットサーバーでは、グルーレスデザインとなり、CPU間のトラフィックに負荷がかかりやすい
DL980 G7は、ノードコントローラにより、負荷が低減されている。これにより、パフォーマンスがリニアにアップしている

 また、ノードコントローラを採用したことで、キャッシュ・コヒーレンシ・トラフィックの低減だけでなく、システムの冗長性をもアップしています。Xeon 7500番台だけで8ソケットサーバーを構築した場合、CPU間のインターフェイスにトラブルが起こった場合、トラブルを回避することはできませんでした。

 しかし、ノードコントローラを採用したDL980 G7では、ノードコントローラが冗長化されているため、1つのノードコントローラにトラブルが起こっても、もう1つのノードコントローラでシステムの動作をカバーすることができます。

 また、ノードコントローラがCPU間のトラフィックをチェックして、特定のノードコントローラに負荷がかかっているようなら、自動的にもう一方のノードコントローラに負荷を分散させて、システム全体のパフォーマンスを高く保つことができます。

 もう一つ、メリットがあるのは、8ソケットサーバーでありながら、Xeon 7500番台よりも安価なXeon 6500番台が利用できることです。Xeon 6500番台は本来、2ソケットサーバー向けのCPUです。しかし、2個のCPUを組み合わせて1つのノードにしているため、Xeon 6500番台でも8ソケットサーバーにすることができます。これも、ノードコントローラのメリットですね。

 伊藤氏:このほかに、当社が想定した拡張性、例えば1CPUあたり16DIMMスロットのメモリを搭載できるとか、I/Oを10本以上搭載できるとか、8ソケットサーバーとしては譲れない部分も、きちんと盛り込まれています。

 こうした、スケールアップに適したサーバーを使うと、データベースの設計もとても楽ですし、前述したように管理性も大幅な向上が期待できます。こうした簡単さも、大切な要素として、お客さまに訴求していきたいと考えています。


仮想環境でのDL980 G7の優位性は、物理サーバーごとにばらつく負荷を、1台のサーバーに集約することでリソースを最適化する
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