クラウドはミドルウェア事業のグローバル化を促進する~富士通のミドルウェア事業を新田本部長に聞く


 「クラウド・コンピューティングの先進企業といえば、それは富士通だといわれる。なぜならば、ハードウェアに加えて、優れたミドルウェアを提供することができ、信頼性の高いクラウドサービスの環境を構築できるからだ」と切り出すのは、富士通 ミドルウェア事業本部の新田将人本部長。

 ビジネスアプリケーション基盤の「Interstage」をはじめ、データベースソフトウェアである「Symfoware」、統合管理ソフトウェアの「Systemwalker」といった同社のミドルウェア製品の存在が、クラウド・コンピューティングにおける富士通の優位性につながる、というのが同社のスタンスだ。

 また、クラウド・コンピューティングのグローバル展開が、そのままミドルウェアのグローバル展開を加速するとも語る。富士通のミドルウェア戦略、そして同社ミドルウェア製品の観点からとらえたクラウドビジネスについて、新田本部長に聞いた。

 

存在感を強める富士通のミドルウェア

富士通 ミドルウェア事業本部の新田将人本部長

 富士通のミドルウェアは、ビジネスアプリケーション基盤の「Interstage」、データベースソフトウェアである「Symfoware」、統合管理ソフトウェアの「Systemwalker」、サーバー監視ソフトウェアの「ServerView」という4つの製品体系によって構成される。これまで富士通は、先行する国産ベンダーや外資系ベンダーの後塵(こうじん)を拝する位置にいたが、その存在感を徐々に高めている。

 2010年には、富士通のSystemwalkerが統合管理ソフトウェアの分野で、初めて日立製作所の「JP1」を抜いて、1位になったほか、ビジネスアプリケーション基盤分野では、Interstageが、日本IBMに次いで2位の地位を獲得。着実にシェアを高めてきている。そして、Symfowareは、国内データベースソフトウェア市場においては3位のシェアだが、導入や初期設定の容易さ、運用管理の容易さ、問い合わせ対応などといった顧客満足度では、1位の評価を得ているという。

 「すべての領域で、国産ベンダーとしてはシェア1位となった。これだけ幅広いミドルウェア製品群を持っている企業は少ない。その強みを生かしていきたい」と新田本部長は語る。

 新田本部長は、これまでのミドルウェア製品の導入実績から、富士通ならではの強みを訴える。

 「世界最高水準の高性能と高信頼性、拡張性を備え、東京証券取引所で2010年1月から稼働したarrowheadは、Symfowareを活用。社内外から高い評価を得ている。また、Interstage Service Integratorでは、既存ネットバンキングサービスに、新たな取引先とのシステム連携をアドオンさせる事例において、XMLベースの連携基盤を活用し、わずか3カ月で稼働させたという実績もある。ユーザー企業は、既存システムと新規システムをつなげることに困っているのが現状。InterstageによるSOA技術によって業務構築が単純化される」などとした。

 さらに情報統合では、「Interstage Information Storageを活用。医療分野において、月間1億4000万件というレセプト(診療報酬明細)データを10年以上保管するとともに、10秒以内というデータ抽出レスポンスを保証しながら、Oracleに比べて5分の1のストレージコストで導入したという実績もある。データは徐々に増加していくことになるが、一般的なRDBの活用では、増えた時点を想定してリソースを用意しなくてはならない。Interstage Information Storageによって、データ増加量に応じて増設が可能になり、キー設定などが不要での検索環境も実現できる」という。

 一方、Systemwalkerでは、「金融分野において、2000台のサーバー、5万台のクライアントの効果的な運用のために、Systemwalker Centric Managerにおける統合監視とともに、Systemwalker Service Quality Coordinatorによる過去の傾向分析をもとにした問題の未然防止、効果的なIT投資管理が可能になった」とのこと。

 また、ITIL関連では、Systemwalker IT Change Managerにより、アプリケーション変更作業の手順や進行状況の管理、履歴管理などを可能とし、内部統制対応が可能になるという。

 

Interstageを中心に海外展開が進展

 富士通にとって、海外ビジネスの拡大は全社共通の課題である。

 そうした中、ミドルウェア製品の海外展開も着実に進展している。中でもInterstageにおける海外での成果があがっているのが際立つ。

 Interstage BPM(ビジネスプロセスマネジメント)では、世界20カ国で展開。金融、保険、政府、メディアなど200社以上の導入実績を持ち、Interstage XWandでは米国証券取引委員会(SEC)や各国の中央銀行、政府機関などでも採用。全世界27カ国、300社以上の実績を持つ。

 「Interstage BPMは、日本より、むしろ海外での評価が高い。標準化したプロセスの上で、業務を統合するといった点で活用されている。富士通は、米国市場向けに、ソリューション提案体制を構築しており、その成果も大きい。一方、Interstage XWandでは、すべての財務情報をXML化するという動きのなかで、財務報告用の情報やフォーマットを標準化したXMLベース言語のXMBLに注目が集まっている。SECでの採用という追い風もあり、プル型での導入が始まっているところだ」という。

 この背景には、標準化団体であるXBRL Internationalのサイトを通じ、富士通のInterstage XWandを無償試用版としてダウンロードすることができ、それが世界60カ国で利用されていることが見逃せない。標準化団体に富士通の社員が参加し、仕様の変更を迅速に開発体制に反映できたことも、標準ツールとして活用され始めた要因のひとつといえよう。

 今後は、欧州でも財務指標の強化が見込まれており、世界規模での活用が今後想定される。

「まだまだ手探りの状態であり、全社の海外売上高比率よりも、ミドルウェアの海外売上高比率は低い。まずは富士通の強みが発揮できる領域から展開することで、グローバル市場における存在感を高めたい」と、新田本部長は語る。

 同様に標準化への取り組みとしては、Distributed Management Task Forceにおいて、クラウド環境における管理や相互運用性についての標準化を進める作業にも参加しており、ここでもグローバルにおけるポジションを確立していく考えだ。

 一方、グローバル化への取り組みでは、ユニークな動きも出始めている。

 Interstage List Creatorでは、グローバル企業における経営の可視化およびコスト削減に伴う帳票システム統一の動きに対応。ある製造業ではグローバル生産物流システムへの採用により、世界84カ国89社への展開、別の製造業では帳票管理システムとして世界30カ国80社へ展開。運輸業の会社では、グローバル統一会計システムを国内30社と海外14社を結んで構築中だ。

 「帳票系は、もともと日本で展開していたビジネスだが、日本のユーザー企業が海外展開を強化することで、日本の本社が採用している帳票にあわせるという例が増えている。日本の工場が数多く進出している東南アジア地域での帳票ソリューションビジネスが増加している」という。

 また、富士通サービスが持つオランダのデータセンターでは、Systemwalker Centric ManagerおよびSystemwalker Service Quality Coordinatorにより、23顧客、926サーバーの運用効率化を実現した実績を持つ。

 富士通では、2010年9月に、CA Technologiesとの協業を発表。富士通が持つSOA技術と、CAが持つ運用管理分野でのグローバル実績を生かして、Interstage Business Process Manager Analyticsを、CA BPPAとしてCAにOEM。世界展開に弾みをつけることができるとしている。

高信頼のハードとミドルウェアを持つ富士通はクラウド時代にこそ力を発揮

 では、こうした富士通のミドルウェア技術は、クラウド・コンピューティング事業にどんな効果をもたらしているのだろうか。

 新田本部長は、「クラウド・コンピューティングはさまざまな技術が融合されて実現するものである。アプリケーション実行基盤はSOAを取り込むことで進化を遂げ、データベースは情報統合という流れのなかで進化を続ける。そして運用監視では、ITILが重要な鍵になる。こうしたそれぞれ進化した技術を融合することで、初めてクラウド環境が実現できる。長年の実績により、最も信頼性が高いハードウェア、ミドルウェアを持つ富士通は、クラウド時代にこそ、力を発揮する企業だ」と断言する。

 続けて新田本部長は、「富士通が実現するクラウド・コンピューティングは、ミッションクリティカルシステムを支えるトラステッドな自社技術をコアに、オンプレミスで提供してきたプラットフォームおよび技術を共通的に活用。さらに、マルチベンダー環境の最適化を実現するために、グローバルプレーヤーとのパートナーシップを実現している点に強みがある」とし、「パブリッククラウドやIaaS、PaaSといったトラステッドなクラウドサービスの提供と、プライベートクラウドによるお客さまシステムの最適化の両輪によって、システム全体を支えることになる」とする。

 さらに、「クラウドは、現時点ではコスト削減効果ばかりが注目されているが、最終的には信頼性が最も重視されるものになると考えている。ここが富士通の差異化ポイントになる。これを支えていくツールのひとつが、富士通のミドルウェアということになる」と位置づける。

 

パブリック、プライベートを問わないクラウドでの活用

 2010年10月から商用を開始したパブリッククラウドシステムサービスは、富士通データセンターから提供されるTrusted-Service Platformを活用し、仮想マシン単体からロードバランサ、ファイアウォールで分離された複数サブネットまでを、顧客専用の仮想システム環境として割り当て、ソフトウェアのインストールや、アプリケーションを自由に構築できるのが特徴だ。

 IaaS環境の提供とともに、アプリケーションの実行環境としては、Interstage、Symfoware、Systemwalkerなどを提供し、これをダウンロードして利用できるようにしている。

 「Trusted-Service Platform環境にミドルウェアを用意していることから、ネットワークのこちらとあちらを意識せずに、短時間に低コストに導入できる」のは富士通ならではの強みだ。

 パブリッククラウドサービスは、日本だけにとどまらず、今後、オーストラリア、シンガポール、米国、英国へと展開。世界共通プラットフォームであるTrusted-Service Platformの上で、各国特有のニーズに応じたサービス体系やオプションを用意することになるという。

 一方、プライベートクラウドについては、「インフラ資源の仮想化、業務開発・運用の標準化、プロセスの自動化といった、3段階でのステップで進展すると考えている。そのなかで、これまでは拠点の担当者がボランティアとして行っていたような作業が、センター化されることで、見えないコストが顕在化する可能性がある。これを吸収するには、センター側において、標準化、自動化を進めてなくてはならず、業務サービスの見える化、自動配備・自動運用、ダイナミックリソース管理といった運用ソフトウェアの領域での提案とともに、開発・実行ソフトウェア領域においては、クラウドデータ連携が重視される。ここに、富士通のプライベートクラウドの特徴がある」という。

 業務サービスの見える化では、Systemwalker Service Catalog Manager V14gにより、業務サービスの一覧化や使用状況の見える化を実現。また、自動配備・自動運用では、Systemwalker Software Configuration Manager V14gやSystemwalker Runbook Automation V14gにより、標準化された業務システムの配備、業務システムの運用管理手順の自動化を達成。ダイナミックリソース管理では、ServerView Resource Orchestrator V2.2によって、サーバー、ストレージ、ネットワークを組み合わせた仮想環境を構築する。そして、クラウドデータ連携では、Interstage Information Integrator V10.1により、パブリッククラウドとプライベートクラウド、基幹システムとの間を、プログラミングなしにデータ連携が可能になる。

 さらに、クラウドインフラマネージメントソフトウェアV1により、利用者の要求に応じて自動的にICTリソースを配備するとともに、プール化して管理し、リソースの使用状況を見える化することもできるという。

 すでに、日本では、大学において、情報系、教育向け、研究向けのそれぞれのサーバーを統合し、約200ブレード、2000以上の仮想化環境を実現。利用者がセルフサービスでサーバーを借用し、自身で運用することで、効率性とコスト削減を実現しているという。また、流通業ではグループ内の既存業務を段階的にクラウドに移行しており、ミドルウェアを含めたリソースを提供。従来4カ月を要していたシステム構築期間を、5日間にまで短縮し、ビジネスを短期間に、小規模に、そして低価格で開始できるメリットを享受できるという。

 

ハイブリッドクラウドへの取り組みを強化、Azureとの連携を図る

 「今後はハイブリッドクラウドに向けた取り組みを強化することになる。中核となるのは、Trusted-Service Platformであり、それを核に、他社のプライベートクラウド、パブリッククラウドとの連携、スケーラブルデータへの対応を図っていく」

 中でも、提携を発表したMicrosoftとのAzureにおいては、Trusted-Service Platformとともに両輪ととらえ、ハイブリッドクラウドにおける統合監視やジョブスケジューリングの提供、既存のJavaEEアプリケーションやCOBOLアプリケーションのAzure上での実行、Azure上のアプリケーションからPDF帳票の生成、出力などができる各種ミドルウェアを提供していくことになる。

 「パブリッククラウドにおいて、富士通の強みをどう発揮するか。それは、PaaSをしっかりと提供することに尽きる。つまり、JavaやCOBOL、そして、情報統合や帳票管理、ジョブスケジューリングといった実行環境をしっかりと提供し、その上で顧客のアプリケーションを乗せていく。MicrosoftのAzureの上に、富士通のミドルウェアを提供することで、グローバルへの展開を加速できる」とする。

 世界5極体制でのクラウドビジネスにおいて、PaaSの提供では、ミドルウェアが果たす役割は大きい。

 MicrosoftのAzure上での、Javaアプリケーションの対応は、Microsoft自身は行わない。だが、富士通がこれをカバーすることで、Azureの利用環境は一気に拡大する。米Microsoftのアーキテクストが、開発者向けの同社プライベートイベント「PDC 2011」において、自らInterstageを紹介したのも、富士通のミドルウェアが、Azureにおいて重要な役割を担っていることの証しといえよう。

 クラウド事業のグローバル化は、富士通のミドルウェアのグローバル化を促進するのは明らかだ。

 「これまでにもグローバルへの事業拡大は重要な課題だったが、残念ながらプロダクト単体で推進していくには苦労の連続だった。しかし、これがサービスプラットフォーム化したことで、富士通のミドルウェアがグローバルに進出するトリガーとなる。富士通のミドルウェアビジネスにとっても大きなチャンスだといえる」とする。

 クラウド化の進展に伴い、ミドルウェアのAPIをどう公開していくかといったことも、今後、議論すべき課題のひとつとなるだろうが、富士通ではオープンな姿勢を前提としており、これによってパートナーと連携したクラウド環境の促進を進めていくことになる。
 富士通のミドルウェア事業は、クラウド・コンピューティング事業の加速によって、グローバルに拡大する筋道を作り上げたのは間違いない。

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