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“9ドルコンピューター”の衝撃 クラウドファンドに飛び出した「CHIP」

“マジックナンバー”は99ドル

 Next Thingは、ハードウェアベンチャーに特化した中国・深センのアクセラレーター・プログラム「HAXLR8R」の出身者たちが立ち上げた会社だ。CEOは共同創業者でハード/ソフトハッカーとして活動していたDave Rauchwerk氏。設立は2014年だが、Kickstarterにプロジェクトを登録したのは、これで2度目となる。

 1年前、アニメーションGIFを撮影するデジタルカメラ「OTTO camera」のプロジェクトを公開し、7万1559ドルの資金(目標は6万ドル)と、414人の支援者を集めた。現在、支援者に製品を届ける作業をしている。

 OTTO cameraは、レトロ風のおもちゃぽいカメラで、実体はRaspberry Piを内蔵するLinuxパソコンだった。“ハッカブルGIFカメラ”というキャッチフレーズ通り、ユーザーが自分のアイデアで機能拡張できるのが売り物だ。Kickstarterでは目標は達成したものの、249ドルと比較的高価な製品だった。

 CHIPは、ある意味でOTTO cameraへのアンチテーゼであり、Next Thingは次に、さらに安価なコンピューターを作りたいと考えたという。Rauchwerk氏はArs Technicaにこう語っている。

 「われわれは、何にも妥協したくなかった。しかし、OTTO cameraに使ったコンピューターは本当に高い(と実感した)。そこで、中国へ行って話し合い、9ドルのコンピューターにするためには、どれだけのコストになるのかを調べた」「9ドルというのはマジックナンバーではない。製品として売るには、99ドルがマジックナンバーだ」

 かつて、パソコン産業は“100ドルコンピューター”を目標として掲げた。その一つとして、開発途上国の子供たち1人に1台を目指してMITが推進したプロジェクト「OLPC」(One Laptop per Child)の製品リリースから約10年になる。だが、このところ、すっかり動きが停止しているようだ。CHIPは、その理想の実現にも一役買えるかもしれない。Rauchwerk氏は、アフリカのモザンビークからメールを受けたことをArs Technicaに明かしている。将来、顧客になるかもしれない相手からだという。

 CHIPの申し込み締め切りは6月の第2週末。その後、CPUのバージョンアップを行った上で製造を開始。来年3月から支援者に送付する予定だ。なお、9ドルは厳密に言うと販売価格ではなく、支援者へ提供する際の公募額。申し込んだ時点では、支払いはしておらず、あくまで予約だ。

 Kickstarterには過去に、設計変更や調達コストの高騰などのため、目標を上回る資金を集めながら、流れてしまったプロジェクトもある。リスクはまだ残っている。

行宮翔太=Infostand