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Firefox OSの攻勢始まる? MozillaとFoxconnそれぞれの事情

 MozillaのモバイルOS「Firefox OS」がいよいよ大きく動き出す。台湾メディアなどによると、Hon Hai Precision Industry(鴻海精密工業)がMozillaと提携し、Firefox OS搭載製品を発表する。2月にスペイン・バルセロナで開かれた「Mobile World Congress (MWC)2013」でMozillaは、端末メーカー、キャリアとの提携を大々的に発表していたが、今回、さらに新たなパートナーを迎えるという。

Firefox OSを採用するメーカー、通信事業者

 Mozillaは、数年がかりで開発を進めてきたFirefox OSによって、AndroidとiOSが独占するスマートフォン市場に風穴を開けることを目指している。Firefox OSは元々は、Mozillaが2011年夏に開始したHTMLベースのモバイルOSの開発プロジェクト「Boot2Gecko」が発展したものだ。

 MozillaのミッションはWebを広めることだ。Mozillaはかつて、Webブラウザで「Internet Explorer(IE)」独占状態を崩した。相互運用、移植性などのメリットを持つWebはデスクトップとソフトウェアの関係を変えたが、今度はモバイルとモバイルアプリを変えることを目標に掲げている。この目標に向けて、着々と布石を打っているようだ。

 2012年のMWCでは、プロトタイプ機とアプリストアをデモ、そして今年のMWCではパートナー、それに商用製品も発表された。メーカーではZTE、Alcatel One、LG、Huawei Technologies、ソニーの名が明らかになり、ZTEは会期中に「ZTE Open」を発表した。これが初のFirefox OSスマートフォンとなる。

 また、Telefonica、Deutsche Telekom、Telecom Italia、KDDIなど17社の通信事業者もFirefox OSの支持を表明。Telefonicaなどは2013年夏の製品投入に意欲を見せたと伝えられている。

 そしてこの4月には、Geeksphoneが開発者向けのFirefox OSスマホ「Peak」「Keon」の販売を開始し、発売と同時に売り切れるなど話題となった。今回のHon Haiの提携の話は、これらに続くものだ。

 台湾メディアFocus Taiwanは5月27日付で、Hon HaiがMozillaと提携してFirefox OSベースの製品を6月3日に現地で発表すると報じた。情報元の業界内部者によると、発表するのはスマートフォンではなくタブレットだという。

第3のプラットフォーム争い

 Mozillaは、南米、東欧など高価などスマートフォンが普及していない振興市場を主要なターゲットとしている。MWCで通信事業者が明らかにした提供地域も、ブラジル、コロンビア、ポーランドなどで、Mozillaの戦略に重なる形だ。

 iOSとAndroidの寡占状態を崩せるのかについては、楽観論は少ない。これまでNokiaを従えて挑んできたMicrosoft(Windows Phone)、社名を製品名と同じにしてイメージアップを図るBlackBerry(旧RIM)などが挑戦してきたが、いずれも成功とは言えない。また、スマートフォン時代以前からの「LiMo」などLinux系モバイルOSプロジェクトも精彩がない。

 MozillaはFirefox OSが差別化できる点について、Googleがロードマップを決めて利用条件を課しているAndroidとは異なり、完全にオープンであること、HTML5ベースなのでWeb開発者というアプリエコシステムがすでにあることなどを挙げている。アプリ側では「Mozilla Marketplace」を用意する。

 だが、3番手を狙うライバルはMozillaだけではない。MWCではFirefox OSに加え、SamsungとIntelがLinux Foundationで進めているモバイルOSプロジェクト「Tizen」、元Nokia社員が立ち上げMeeGoの流れを組む「Jolla/Sailfish OS」、そして「Ubuntu」のCanonicalもスマホやタブレットで動くUbuntuを披露している。Jollaは年内に発売するという約束通り、5月に初の端末を発表して事前予約受付を開始した。

多角化戦略に転じるFoxconn

 一方、MozillaとHon Haiの提携は、違う角度から見ることもできる。つまり、Hon Hai側の事情だ。Hon Haiは台湾を本拠地とする電子機器受託生産会社だ。Apple製品の受託生産で知られる「Foxconn」ブランドのメーカーで、iPhone、iPadなどで台頭してきた。

 いまや世界最大の電子機器メーカーにのしあがったHon Haiは、ソニーやNokiaなども顧客としているが、Apple関連が占める比率は5割に達しているとWall Street Jounalは推定している。

 発売から5年を迎えたiPhoneが曲がり角にさしかかり、AppleはSamsungのGALAXYと激しい戦いを繰り広げている。iPadも、AmazonなどのAndroidタブレットに押され、当初のような独占的地位にはいられなくなってきた。IDCの第1四半期の調査レポートをみると、前年同期に58%だったシェアが39.6%までに落ちている。

 Apple製品の人気にかげりが見え始めたことがHon Haiの成長にも影響しているようだ。Hon Haiの戦略シフトについて報じたWall Street Journalによると、同社の売り上げは2010年(初代iPad登場の年)の53%増など、高成長を記録してきたが、2012年は前年比12%成長にとどまった。

 Hon Hai幹部は「生産キャパの規模が大きくなった一方で、既存の大手顧客の発注がわれわれの成長を制限している。顧客を積極的に拡大し、製造台数を増加させていく必要がある」とWall Street Journalに述べている。

 Focus TaiwanのMozilla提携と同じ5月27日付のこのWall Street Journalの記事は、MozillaやFirefox OSのことには触れていない。だが、顧客数を増やすことによるリスク分散という分析はFocus TaiwanのMozillaと提携する話と合致する。Wall Street Journalは顧客の多角化のほか、メディアコンテンツやソフトウェアへの進出などの対策に乗り出すことなども伝えている。

 Geek.comはMozillaとHon Haiの提携は「無視できない」影響をもたらすと言う。世界最大の電子機器メーカーがFirefox OSをサポートすることに加え、登場が予想される端末がタブレットだから、というのがその理由だ。Firefoxは広く知られているブランドであり、「これに安価な端末を大量に生産できるFoxconnの能力が組み合わさると、最強チームができる」という。7インチ型Firefox OSタブレットを100ドルを切る価格で提供できれば売れるだろう、と同社は予想している。

 この記事が掲載されてまもなく、Mozillaから正式な発表があるはずだ。

 2007年のiPhone、2010年のiPad登場で、現在のスマートフォンとタブレットのモバイルコンピューティング時代が本格的に幕を開けた。歴史が繰り返すものなら、Appleがニッチに追いやられ、Androidが「Windows」のような存在になる可能性もあるだろう。あるいは、モバイルコンピューティングはデスクトップほどの独占OSが存在せず、複数のプレーヤーが分け合うのか――。Firefox OS製品の動向は、これを占うポイントになりそうだ。

(岡田陽子=Infostand)