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勝負に出るYahoo! 11億ドルでTumblr買収

 Yahoo!が、ブログサービスのTumblrを11億ドルで買収すると発表した。CEOに着任して10カ月、小さめのベンチャーを多数取り込んできたMarrissa Mayer CEOにとって最大規模の買収となっただけでなく、ハイテク業界全体でも久々の大型買収となる。業界やメディアには、肯定的な見方と否定的な見方があるが、これが「大きな賭け」であることでは見解が一致している。

ソーシャルと若者ユーザーが魅力のTumblr、マネタイズはまだ

 Yahoo!は3月に17歳の高校生の会社Summlyを買収(推定金額3000万ドル)し、2カ月後の5月20日に、Tumblrの買収を明らかにした。11億ドルという額はYahoo!が保有するキャッシュの5分の1に当たる。

 Tumblrは創業6年目のブログサービスだ。文字だけでなく、画像、動画、Web記事の引用、音声なども投稿でき、ほかのユーザーのフォロー、Twitterのリツイート的な再投稿機能もあり、ソーシャル要素が大きな特徴となっている。ブログ数は1億を超え、累計投稿数は500億という。

 Yahoo!によると、サービスはいまだ成長中で、月間ユニークビジターは3億人。毎秒900件の投稿があり、毎日12万人が新規登録している。ユーザーの半数以上はモバイルアプリを利用しているという。

 両社が買収に向けて協議中とWall Street Journalなどが報じて、すぐに正式発表となった。Yahoo!によると、Tumblrは今後も独立した事業として運営され、オフィスはニューヨークに置いたまま、創業者兼CEOのDavid Karp氏が引き続きCEOとしてチームを率いる。

 買収計画を発表したプレスリリースでYahoo!は最初に「Tumblrを台無しにしないというのが私たちの約束だ」と述べている。

ソーシャルを獲得するYahoo!、懸念はポルノと広告

 ポータルのYahoo!とブログ/ソーシャルサービスのTumblrの組み合わせについては、肯定的な見方と否定的な見方がある。まず、互いのメリットとデメリットは何だろう。

 Yahoo!のメリットとしては、ソーシャル要素の獲得だ。Facebook、Googleなどに対抗するにあたって、ソーシャルはYahoo!に欠けている要素の1つだ。Yahoo!は先に“フランスのYouTube”とも言われる動画共有サイトDailyMotionの買収を試みたが、出資しているFrance Telecomの株主である仏政府の介入により成功しなかった。Tumblrとは、当初は業務提携として話を進めていたが、一気に買収にまで発展したようだ。

 また他のメリットとして、Tumblrのユーザー層である若者層の獲得がある。Gigaomなどによると、Yahoo!のユーザーは50歳以上の高年齢層が多いが、Tumblrは10代と20代の若者が多く、これは「Yahoo!が絶望的に必要としている潜在的価値につながるエンジン」という。Mayer氏もユーザー層の重複はないと見ており、Yahoo!のオーディエンスは50%増加して月間ビジター数は10億人、トラフィックは20%増えると計算している。

 他方、Tumblr側の事情もある。創業6年目、そろそろユーザー数を増やすだけの初期戦略から、マネタイズに転換する必要がある。同社は2012年に用心深く広告を導入した段階で、まだ黒字化は果たしていない。Yahoo!によるオファーは渡りに船だったのかもしれない。

 Yahoo!のプレスリリースによると、Yahoo!のパーソナライズ技術と検索インフラによって、Tumblrのユーザーは自分の好みのブロガーやコンテンツを容易に見つけられるようになるという。また、将来に向けては、広告分野とユーザー体験も発展させていくとしている。

 こうしたことから、Gigaomは「とても納得のいく買収」と評価する。Gartnerのアナリスト、Allen Weiner氏は主としてコンテンツを柱としてきたYahoo!とTumblrが合体することで、“コンテンツマネジメントとキュレーションプラットフォームの合体”が実現し、コンシューマー、広告主、マーケッターらがYahoo!のコンテンツをキュレーションしてTumblrページを作成できるとした。すでにCoca-colaやCampbellなどがTumblrにコーポレートページを持っており、このようなビジネスが成長できると見ている。

 その一方で、デメリットも少なからず指摘されている。特に大きな懸念は、Tumblrのコンテンツにポルノなどアダルトコンテンツが多いことだ。Reutersによると、Tumblrの上位サイトの80%がアダルトコンテンツを含んでいた時期があるという。現在アダルトコンテンツは5%程度しかないというが、「古いイメージはまだつきまとっている」と問題視している。

YouTube?それともMySpace?

 Tumblrの買収は、その金額から、GoogleのYou Tube買収(2006年、16億5000万ドル)、FacebookのInstagram買収(2012年、10億ドル)と比較される。だが、その成否の予想では、買収から7年が経過して成功したYouTubeのケースのようになるのか、News Corpが5億8000万ドルで買収したものの3500万ドルで売却することとなったMySpaceのケースのようになるのか、2つに分かれている。

 Forbesは、Yahoo!の主体となっているディスプレイ広告、それに成長中のモバイル広告の2つの点から、買収は成功につながると予想する。中でもディスプレイ広告については、ターゲティング技術などの改善とともにGoogleが得意とする検索広告を上回るパフォーマンスを見せているというリサーチを紹介。「Yahoo!が今後ディスプレイ広告を改善し、うまくTumblrのユーザーに適用できれば、かなりの売り上げ増を見込めるだろう」と肯定的だ。

 だが、同じディスプレイ広告の可能性に疑い持つ者も少なくない。元GoogleでTV広告事業のトップを務めていたJohn Saroff氏もその一人だ。自身もTumblrでブログを展開しているSaroff氏はCNNへの寄稿で、買収がうまくいかないと予想する理由の1つに広告を挙げている。

 Saroff氏は、Tumblrがこれまでディスプレイ広告を導入しなかったことに触れながら、「伝統的なディスプレイ広告は見た目を損なう。Tumblrはディスプレイ広告向きではない」と分析。かといってYahoo!とTumblrがそれに変わる広告の方法をすぐに見つけることは難しいと続ける。さらに、Tumblrはユーザー生成コンテンツであり、それ自体はページビューを生んでいない、Tumblrに代わるサービスが出てきたとき、生き残れるほどの優位性がない、と厳しい見方を示した。

 Tumblrユーザーはというと、Yahoo!に疑心暗鬼も多い様子だ。Tumblrのページには「TumblrはYahoo!に身売りした。裏切られた気分だ」「Yahoo!がぼくらの個人的な空間を侵略する」などの若者の反発のコメントが見られる。

 Yahoo!とTumblrは今後、こうした既存ユーザーを引き止めながらTumblrのマネタイズを少しずつ進めていかねばならない。Yahoo!はこれまで、写真共有サイトのFlickr、ホスティングのGeocitiesなど、買収した企業の統合や相乗効果の点では、必ずしも成功していない。買収だけではなく、買収後どのように活用するか、Mayer氏の手腕が問われるところだ。

 Mayer氏がYahoo!のCEOに就任して10カ月弱。株価は当初から6~7割上がっており、今のところ株主はMayer氏の戦略を評価しているようだ。Mayer氏は、投資家の気が変わる前に、買収の成果を出さねばならないだろう。

 一方、TumblrのKarp氏は高校を卒業しないままキャリアをスタートした人物で、現在26歳。SummlyのNick D'Aloisio氏の17歳ほど若くはないが、同じようなパターンといえる。

 Wall Street Journalは、Yahoo!のようなベテランのハイテク企業がパワーを維持するために新しいベンチャーを買収していると指摘。「技術ビジネスにおけるパワーバランスがシフトしている」と分析している。

 Yahoo!はTumblrの買収から1週間もしないうちにゲームソフトウェアのPlayerScaleを買収。さらには動画配信サービスのHulu買収に向けて動いていると報じられている。最初のインターネットの寵児は、新しい血でよみがえることができるだろうか――。

(岡田陽子=Infostand)