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クラウドに賭ける? 小売の巨人Wal-Martの戦い
(2013/5/20 10:08)
世界最大の小売業Wal-Martがオンライン戦略を加速させている。Wal-Martは、ディスカウントストアから始めて、青果物などへ扱いを広げ、世界展開するようになった。2012年度の売上高が4690億ドルという超巨大スーパーマーケットチェーンだ。このところオンライン最大手のAmazonとの戦いがクローズアップされており、EC(電子商取引)分野では追う立場にある。その戦略もクラウドとその上で動くECプラットフォームがカギになるようだ。
スタートアップを次々に買収
Wal-Martは5月14日付のブログで、シリコンバレーのOneOpsとTasty Labsという2つのスタートアップを、Global eCommerce事業のテクノロジー開発部門@WalmartLabsを通じて買収したと発表した。@WalmartLabsはやはりシリコンバレーにあり、オンライン販売のWalmart.comやモバイル販売のための技術を開発している。
OneOpsは元eBayの技術者たちが2011年に設立したPaaS(Platform-as-a-Service)技術の会社で、この取得によって「PaaSとプライベートクラウドIaaS戦略を飛躍的に加速する」(eCommerce事業CTOのJeremy King氏)という。OneOpsは昨年9月のNetwork Worldの「12の注目クラウドコンピューティング企業」の一つに選ばれている。
もうひとつのTasty Labsは、ソーシャル・ブックマークサービスDeliciousの創設者として知られるJoshua Schachter氏や元Mozillaのメンバーらによって設立されたソーシャルサービス開発の企業だ。Q&Aサービスのjig.comなど、ユーザーがリクエストを出し、ほかのユーザーがこれに応えるといったタイプのソーシャルサービスを得意としている。
Wal-Martは買収額などは公表していないが、額的にはそれほど大きくはないとみられている。だが、同社はこの1-2年、頻繁にテクノロジー企業を買収しており、Wall Street Journalは、この取引を「EC事業を加速するための1ダース以上の一連の小さめの投資の最新のもの」と説明している。
拡大が続くオンライン市場に対応するためだが、同時にオンライン最大手Amazonとの戦いが背景にある。
2024年にAmazonに抜かれる
Wal-MartとAmazonの戦いを、Wall Street Journalは「巨象同士の戦い」、Forbesは「(旧約聖書の巨人)ゴリアテとゴジラの戦い」と例えている。Wal-Martはリアルの王者、Amazonはオンラインのトップというだけでなく、両社は、薄利多売、徹底したコスト削減による低価格でライバルを突き放すスタイルも共通している。AmazonはWebテクノロジーの企業だが、Wal-Martも独自の衛星通信システムなどテクノロジーを活用した合理化で拡大してきた。
AmazonがWal-Martにとって大きな脅威であることを広く意識させたのは、2011年6月にOnline MBAが製作したインフォグラフィック「Wal-Mart Vs. Amazon」だ。2010年のデータを基に、売り上げ、顧客ベース、マーケットシェア、ブランドなどを比較したもので、例えば、顧客ベースはWal-Martの2億に対して、Amazon は1億3700万、売れ筋トップ商品はバナナに対してKindleといった具合だ。売上高では、Wal-Martが4080億ドルで、Amazonの340億ドルの12倍という規模となっている。
しかし、今後の売り上げ予測では、Amazonが2024年で逆転して、Wal-Martを抜き去るという(Wal-Martにとって)ショッキングなものだった。Wal-Martの最近の売上高成長率は5%程度だが、Amazonは40%程度を記録している。予測ではさらに2017年ごろから急激に成長率を伸ばし、追い抜いてしまうというのだ。これがきっかけで、メディアはWal-Mart vs Amazonの構図をしきりに取り上げるようになった。
ECへの邁進
Wal-Martはこの前後から、オンライン事業への投資を強化している。@WalmartLabsも2011年4月に 3億ドルで買収したシリコンバレーのスタートアップKosmixを中心に設立したものだ。 Kosmixはソーシャルメディアのデータを活用して、消費者のモニタリングをするサービスを展開していた。Wal-Martは@WalmartLabsで主に「ソーシャルショッピング」の技術を獲得しようとしている。
また2012年1月には、元CNET NetworksのCEO Neil Ashe氏がGlobal Ecommerce Business事業のCEOに就任して、EC事業への取り組みをいっそう強化した。@WalmartLabsでの成果も目に見えるようになり、同6月には、セマンテック検索エンジン「Polaris」をローンチ。同11月には、サブスクリプション型野菜宅配サービス「Goodies.co」を開始している。
同時にAmazonとの対決色も強まっており、同9月には「ライバルのレジを自社の店頭で売るのはばかげている」とKindleの販売を取りやめた。一方で今年3月には、Amazonが作り出した商品受け取りサービス「Amazon Locker」のWal-Mart版を今夏から開始すると発表した。
Amazon Lockerは、リアルの店舗などに専用のロッカーを設置して、オンラインで購入した商品を受け取れるサービスだ。2011年にニューヨークなどで開始し、徐々に拡大している。ロッカーはドラッグストアなどに“間借り”すればよいので、リアル店舗を持たないAmazonにはうってつけだ。ユーザーは自宅で配達を待つ必要はなく、好きなときに取りに行けるというメリットがある。Wal-Martはもとより全国にリアル店舗があるので展開は簡単だ。
後に引けない
EC事業の拡大を図るWal-Martだが、少なくともこれまでのEC事業の規模は全体からみると、わずかな比率しかない。同社はオンライン売上高を公表していなかったが、Neil Ashe氏は今年3月に「年間で90億ドルを超える見込み」と語っており、そこから考えると、総売上高(2013年度で約4690億ドル)の2%程度にすぎないことになる。
OneOpsというクラウド企業の買収は、こうした中で出てきたものだ。Wal-MartのクラウドIaaS戦略の詳細は明らかになっていないが、OneOpsはクラウドサービス上のアプリケーション開発を簡単にするツールを提供しており、オンライン売り上げを増やす多様なアプリを作ると想像できる。
5月16日に発表した新会計年度第1四半期(2-4月期)決算では、売上高は1141億8700万ドル、純利益37億8400万ドルで、ともに1%の増と市場の予想を下回り、同日の株価は約2%の下落となった。特に米国内の既存店舗売上高が1.4%減を記録し、リアル店舗の成長にかげりが出ていることがうかがわれる。
Wal-Martはますます、ECを加速する、いやせざるを得ないことになりそうだ。